第十四話(I) 行き先

仁志や美樹は多分一緒に来たことなど知らないだろう。
仁志と美樹は学校からはそれぞれ別のほうに家があるためいつも一緒に来たり帰ったりはしていない。
でも何時からかしら二人は公も認めるように付き合っている(はず)。
それで何処に二人で行っているんだとかそう言う事は知らないけれども。
だとすれば遊園地行きは勿論ダブルデートということになる。
皐月さんとデートか……。
そう思うと、来週の日曜日が待ち遠しくなる。
でも朝は挨拶くらいしか交わさなかったから結局のところ一体何処へ行くのかは訊けていない。
ところで今は昼休み。
あれから皐月さんとは一言も喋っていない。
別に嫌いになったとかそう言うわけではないけども……。
ああ言われて次にどう切り出すか、ただそれに迷っていた。
「育人、今いいか?」
「皐月ちゃんいい?」
と、また昼休みに弁当を開いたところで呼ばれる。
昨日も足止めを食って食べ始めるのが遅くなった。
またもや開いた弁当が食べられないことになる。
「遊園地の事なんだけど……」
「うん……」
皐月さんも朝のことがあってか、テンションが低い。
「あれ、いつもに比べて元気がなくない?何かあった?」
と、美樹が心配して訊く。
「えっ、別に何もないけど……」
「そう?それならいいけどさ。それで、近くの冨田(とみだ)パークにしようと思うんだけどどう?」
冨田パークか……。
学校から美樹の家の方向へしばらく行ったところに西大久(にしおおひさ)駅がある。
そこから上り方向に大久(おおひさ)駅、瑞井(みずい)駅を通り、冨田駅からバスで五分くらいのところにある。
結構大きなところで、ここから一番近い。
「私は別にいいけど……」
「僕も……」
「育人もどうしたんだ?二人とも暗くないか?」
「別にそんなことないけどさ……」
「そうか?」
「うん……」
それから、時計の短針だけが二周ほど回った。
その間、誰も喋る事はなく弁当の中身だけが減っていった。
「あのさぁ、育人君」
と、最初に口を開いたのは皐月さんだった。
「え、僕?」
「朝はごめんね、あんな話しちゃって」
「え、別に気にしてないけど?」
「ほんと?」
「えっ、うん」
「ならよかった」
気にしてない……なんて言ったけどどう見ても気にしているのは目に見えているのだが。
「ん〜何があったんだ?」
「さぁ……知らないけど」
と、二人が不思議がっている。
「育人、何かあったのか?」
と、仁志が僕に尋ねる。
「えっ、別に何もないよ」
「そうか?」
「そうそう」
と、なんとか二人の間の険悪なムードもなくなったのだった。
でも、何時かは来るだろうという別れに対しての戸惑いは消えることはなかったのだった。

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