第九話(I) あの日と同じこと

あれから朝ご飯も食べ、学校へ行く用意もできた。
玄関の扉を開け、学校へと向って歩き出す。
そういえば、皐月さんの家は隣で高校も同じ、そして高校までの距離は近いのに学校へ行くときはいつも会わない。
学校へつけばいつも皐月さんが教室に先についている。
ということは僕よりも先に家を出て先に学校へと行っているということか。
でも学校にしろ朝にしろ自分はあんな調子。
やはり好きだからだろう、皐月さんとは上手く喋る事が出来ない。
どうも上がってしまうというか……。
皐月さんは何の躊躇いもなく僕に普通に話しかけてくるのに、それに対して自分はこのとおり。
これでは、皐月さんが好きで折角話すチャンスがいくらでもあるのにそれを全て自分で無駄にしている。
自分で自分がとても情けなく思う。
好きでも告白どころか話すことさえままならない自分に憤りを感じる。
あの坂を昇り、学校の門を抜け教室へと入る。
そのときは皐月さんと仁志が話していた。
たしかに同じ班だけども……。
僕はそれに対して焼餅を焼いていたんだろう。
「お、育人どうしたんだ?」
と仁志に言われる。
「えっ、いや別に……」
平穏を装う。
「そうか?」
「何もないって」
「それならいいけどよ……」
そういえば美樹はまだだろうか。
いつもはいつも先に来ているのに。
そう思って仁志にそのことを聞いてみる。
「それより美樹ってまだ?」
「えっ、美樹ちゃん?」
自分は仁志に対して訊いていたつもりだったのに意外にも皐月さんからその答えが返ってきた。
ビクッと心臓が高鳴る。
「えっ、う、うん……」
昨日と今日の朝と何も変わらない返事。
あまりに突然というか……なんとも説明し難いのだが、また上がってしまってる。
せめて会話が続く程度のそういう返事が返せないものか。
「まだ来てないみたいだけどよ、美樹がどうかしたのか?」
「いや、いつも僕より早いのに今日はまだなのかなと思ってさ」
不思議な事……とでも言うのだろうか、仁志が相手だとこう。
「おっはよ〜」
噂をすれば影というのか、美樹が教室へと入ってくる。
相変わらずこう元気だ。
「ごめん、ごめん。ちょっと遅くなっちゃって……」
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン……
「さ、チャイムも鳴ったし早く座ろ」
僕は美樹と前の席へと行き、自分の席へと座る。
「そういやさぁ、育人」
座ってから美樹が突然話しかけてきた。
「何?」
「昨日さ、皐月ちゃんが話しかけてきたとき顔赤くなかった?」
「え?」
昨日の仁志と同じような事を美樹が言い出す。
「もしかしてさ育人、皐月ちゃんのこと好きだったりする?」
「えっ……」
また心臓が高鳴る。
これもまた昨日の仁志と同じような質問だ。
「だって昨日さ、話しかけられたときいつもより口数少なかったしさ」
「それは急だったから」
「ほんとにそう?あれって上がってたんじゃないの?」
「えっそれはだから……」
冷や汗がまた額から顔を伝って落ちる。
「無理しなくていいからさ、やっぱり皐月ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「う、うん……」
「もしさ、何かあったら私に言ってよ。力になるから」
と、悉(ことごと)くも美樹にはバレてしまったのだった。

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