第六話() おせち料理

あの朝から毎日、その日が休日であったとしても新聞を取りにいっている。
そして皐月さんと言葉さえ交わさないが、挨拶をする日々。
そして今日は十二月二十八日。
もう今年も残り少なくなってきた頃だ。
この時期は一年の終わりだけあっていろいろと忙しい。
僕の家もそうだった。
そして僕はこれから正月のおせち料理の買い物へと出かける。
この間のクリスマスと同じようにお駄賃をもらう約束だ。
今は朝に学校へ行く時間よりも少し遅いぐらい。
玄関の扉を開け、早速買い物へと出かけようと思ったときだった。
また、あの日と同じように美樹がやってきた。
「あれ育人、これから何処かへ出かけるの?」
僕自身美樹に話しかける事は滅多にない。
でも美樹の方は誰ふり構わずよく喋るほうだ。
「おせちの買い物に行こうかと思ってるんだけどさ」
「育人も何かと忙しいんだね」
「そういう美樹は暇なのかよ」
「私はこれから皐月ちゃんの家へ遊びに行くから忙しいの」
それって暇だから遊びに行っているのではないかと思う。
「年末なのに突然行って大丈夫か?」
「それはさっききちんと電話をかけたからね」
「ふ〜ん」
ガラガラガラ……
隣の皐月さんの家の扉が開き、皐月さんが出てきた。
「どうしたの?」
「えっ……」
皐月さんがこちらを驚いたような表情で見ている。
僕と美樹が話していることがそんなに驚くようなことなのだろうか。
「ちょっと遅かったから……」
「ごめん、ごめん。ちょっと準備に時間がかかってさ」
「気になって外まで来ちゃったよ」
ともあれ、僕は買い物へ行こう。
そう思ってこの場を後にしようと思っていると今度は学校とは反対側から仁志がやってきた。
首に黄色のマフラーをしている。
何処かで買ったのだろうか。
「あれ?仁志、どうしたんだよ?」
「おまえんちに遊びに来たんだよ。それより美樹、この間はありがとな」
「えっ、別に構わないってば」
「あれってこの間の?」
皐月さんが仁志の方を見て訊く。
「そうそう。クリスマスプレゼント」
「そうだったんだ……」
一体何の話をしているのだろうか?
それよりも、買い物のことを仁志に言っておこう。
「あのさ、仁志。これからおせちの買い物に行こうと思ってるんだけど」
「買い物?それならついていくよ」
「えっ、付き合ってくれるわけ?」
「終わるまで暇だからついていくだけ」
「というわけだから、美樹そろそろ行くからな」
「それじゃあね、仁志、育人」
「おう」
そうして僕と仁志は正月の買い物へと出向いた。

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