第五話(I) クリスマスケーキと恋
あれから数週間が過ぎた。 それまでの間、ニュースが騒がしくなる日もあった。 でも、そんなことはいざ知らず。 僕は学校で仁志と話しつつも、皐月さんを妙に気にする日々が続いた。 まだ言葉を交わした事さえない。 朝に毎日、新聞を取りに行くときに会う。 そのときは、言葉は交わさないものの、この間と同じように言葉なしの挨拶を交わす。 それにしても仁志は相変わらず美樹と仲がいい。 前進も後退もなく、ずっとあの関係のままだ。 仁志と話しているときに美樹の話が出てくるとやきもちと言うかなんと言うか変に羨ましくなる。 そして美樹と皐月さんも仲がいい。 廊下なんかですれ違うと心臓が少しだけ早くなった気がする。 これは片思いというやつだろうか。 引っ越してきたとき、"月"のように綺麗だった髪を見たときからただの隣人なのにやけに意識している。 やっぱり自分は皐月さんのことが好きなのだろう。 でもこういうときは微妙な気持ちだ。 何かしら呪縛にでもかかったかのように捕われ、気にしないようにと思ってもつい気にしてしまう。 何かもぞかしい物があるような感じだ。 ところで、今日はクリスマスイヴ。 キリストが生まれたとされている日。 でもキリスト教徒だとかそういうわけでもなく、世の中の風潮というのだろうか。 せっかくそういう日があるのだからツリーを立て、ケーキを食べている。 それで僕はそのためのケーキを近所のケーキ屋まで買いに行った。 今はその帰り。 ケーキに気を使いながら歩いて、家の前まで来た。 ホワイトクリスマスというのだろうか、雪が降ってくる。 すると向こう側の道から美樹が歩いてきた。 美樹の家は学校からそう遠くない。 あの手前の坂を登ってから学校までの距離ほどしか離れていない。 いとこではあるが話すことは滅多にない。 でもこのときは向こうから話しかけてきた。 「育人、何やってんの?」 「え、こうしてケーキの箱持ってんだからクリスマスケーキに決まってんだろ」 「クリスマスケーキか、今日はイヴだもんね」 「美樹こそ何やってんだよ?」 「何って、皐月ちゃんちに遊びに来たんだけど……」 「ふ〜ん……」 「近くだとは聞いてたけどまさか隣の家だとは思わなかったよ」 妙に弾むような口調だった。 「じゃあそろそろ行くね」 そう言って皐月さんの家のチャイムを押す。 やっぱり最初に席が隣になってから大の友達か……。 そう思いながら、家の扉を開ける。 「ただいま〜」 「ご苦労さん、はいお駄賃」 家で暇をしていたものの、一応お駄賃が肩代わりでこうして出向いてたのだ。 そうして、また暇になる。 何をしようか……。 とりあえず、二階の自分の部屋へと上がる。 洋風布団に寝転がり、近くにあった読みかけの漫画を手に取る。 窓の外から美樹と皐月さんの楽しそうな声がする。 漫画の内容がどうだったのか、あとになって思い出してみたもののあまり覚えていなかった。 |