第四話() 噂、確信、そして

朝食も終わって、学校へ行く準備も整った。
この間は散々急いだものの、今回は急ぐ必要もない。
それにしても隣に引っ越してくるって聞いただけなのに何故眠れなかったのだろう。
いつもならすんなりと寝る事が出来るのに。
あの時は何か運命的なものとか、奇跡的なものとかを感じていたのだろうか。
そんな回想を浮かばせて、家の玄関を開ける。
そして、あの坂へと歩を進める。
太陽も高く昇り、霧も晴れて気温も高くなっている。
朝はさすがにパジャマ姿だったものだから寒かった。
今は制服、そう寒くもない。
そして昨日とは違い気分も晴れ晴れだ。
ただ一つ気になること。
それは隣のあの人が何処の高校へ行くのか。
気にはしたくないのに、頭から離れない。
何かしら呪縛にでもかかったかのように。
学校の校門を抜け、靴箱に靴を入れ三組へと入る。
僕の席は入り口とはかけ離れた教室の左上の前から二番目。
そして僕の親友の仁志は僕の席の右斜め前、つまり先頭。
そしていとこの美樹は教室の右下の右から二番目。
その隣、一番右の席は空いている。
ん?よく見るとそこに今日は机が置いてある。
そして、教室がなんだかいつもに比べて騒がしい。
その教室にある幾つかの人の輪の中に仁志がいた。
僕はその仁志がいる輪へ行って何があるのか訊いてみた。
「今日何かあったっけ?」
「ほら、あそこの美樹の隣に机があるだろ?」
仁志が美樹の事を常に呼び捨てなのには訳があった。
実際二人はいとこの僕よりも仲がよく付き合ってるのかと噂が立ったぐらいだった。
本人にそう聞いても答えはノー。
とりあえず、友達以上恋人未満という解釈をしている。
「たしかにあるけど……。それが?」
「鈍いなあ、誰かが転校してくるってこと」
そう言われてふと昨日隣に引っ越してきたあの人のことが浮かんでくる。
まさかと思って首を思いっきり右左へと振った。
「ん?どうかしたか?」
「いや別に……」
「気になるじゃんかよ」
「実は昨日隣の家に同じ年頃の人が引っ越してきてね」
「ふ〜ん……そうなるとその可能性は大きいな」
あの人がこのクラスへ転校してくる……。
なんだか自分の頬が少し熱くなったような気がした。
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン……
「おっ、朝の会が始まるぞ」
仁志のその声で慌てて自分の席へとつく。
そして先生が教室の扉を開けて入ってくる。
もちろんあの先生だ。
「今日は転校生を紹介する」
相変わらず改まったしゃべり方だ。
いかにも小説でもあろうかという感じ。
あまりなれないなぁ、このしゃべり方。
それはそうと、さっき仁志が言っていた通り転校生が来る。
一体誰が。
少しずつ鼓動が早くなるような気もする。
「さあ入ってくれ」
僕は驚いた。
朝会った、隣に引っ越してきたあの人だったのだ。
あらかじめ予想はしていたものの本当にここへ、しかも同じクラスに転校してくるとは…。
あの人は黒板の前へと立った。
先生が黒板へ向かい、名前を書く。
『岸原 皐月』
黒板にはそうかかれてあった。
あの人、皐月さんはその名前の横に立って挨拶をした。
「百江高校から転校してきた岸原皐月です。よろしくお願いします」
臓の脈がさっきよりも早い気がする。
紹介が終わった後、皐月さんは先生に連れられ、あの美樹の隣の席へと座る。
そして一通り朝の会でやることを済ます。
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン……
挨拶が終わってすぐ、仁志がこっちを向いて、
「その隣に引っ越してきた人だったか?」
と喋りかけてきた。
でも、気が動転していたのだろうかそのあとのことはよく覚えていない。
あの美樹と皐月さんが仲良く話していた事以外は……。

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