第二話(I) 訪問者
| 僕が家に帰った頃、隣の家はとても騒がしい様子であった。 多分あそこにいるおばさんとおじさんは夫婦なのだろう。 おばさんは椅子を、おじさんは花瓶を運んでいた。 するとおじさんがこちらの方を見て、よろしくという風に頭を下げた。 僕もそれに合わせて頭を下げ、急いで家の中へと入った。 「ただいま...」 「お帰り、早かったわね」 「そう?」 「そういえば、お隣さんには同じくらいの女の子がいるみたいよ」 「ふ〜ん……」 「多分しばらくしたら挨拶に来るだろうからそのときはよろしく」 自分の心臓が少し早く鼓動したような気がした。 「えっ、今日は宿題が多くて……」 「そんなに多いの?」 「ん、まぁ……一応……」 実際は宿題などほとんど無かったりもするのだった。 「じゃあ早く宿題を終わらせないとね」 ピンポーン、ピンポーン... それを母が言い終わるかどうかの具合でチャイムが鳴った。 「じゃあ僕は宿題があるから」 そう言って僕は急いで自室がある二階へと駆け上がった。 「隣に引っ越してきましたキシハラと申します…」 挨拶へと来た隣の家の人だろう。 でも、自室へと駆け上がった僕の耳にはもう届いていなかった。 それにしても、さっきの鼓動はなんだったんだろうか。 今、彼女と呼べる人はおらず会話を交わす人ですら数人だ。 従姉弟の美樹ですら一週間に一度も話さないぐらいだ。 まあ、従姉弟と言ったっても血のつながりがあるだけなのだが。 そういえば、なんでこんなことを考えているのだろう。 なんとなく窓から外を覗いていると、挨拶が終わったのか隣のおばさんの姿が見えた。 その後ろを歩いているのが母の言っていた人だろう。 向こうに向かって歩いているので顔は分からない。 でも髪は沈みかけの太陽に反射してまるで月のように光っていた。 僕はその”月”にすっかり見とれてしまっていた。 明日にでも学校で会うことになるんだろうな。 まさか明日の朝早くに会うなんてこのときの僕には想像さえつかなかったのだった。 |