その21 永遠がそうでなくなるとき ─ 知美

同窓会なんていうものは、結局のところ同じクラスだった人の顔合わせでしかない。要するに、同じ教室で同じ黒板を眺めて過ごしたもの同士が過去を顧み合ったりするというわけだ。そのような場所で、果たして何ができるというのだろう。もう好きな人がいて付き合っているかもしれないし、或いは結婚の約束までしているかもしれない。それも無理のない歳だから。それでも、私の中で彼は永遠……。
私はあれからの美由ちゃんたちの動向が気になり、久しぶりに私から電話をかけてみることにした。
「もしもし美倉ですけど、美由さんおられますか?」
「美由ですか? 少々お待ち下さい」
エーゼルワイスの保留音が鳴り、それから三十秒もしないうちに音楽は止まった。私は何だかもう少し聞いていなければならないような気がしていた。
「もしもし、知美? 二週間ぶり。元気にしてた?」
「うん。それで、どう?」
「どうって何が?」
「いや、創英君と」
「う〜ん……。なんて言ったらいいんだろう。あれから二週間くらいしか経ってないのに、色々あって……」
「色々って言うと?」
「えっと、まずあのときに言われた通り彼の知り合いに電話したんだよ。と、言っても私と彼の知り合いって言ったほうが正しいんだけどね」
「うん」
「そのときに来たのが、高校で私と彼の仲立ちしてくれた人と……ほら、喧嘩したって言ったでしょ? あのとき仲裁してくれた人」
「最初に話すきっかけを作ってくれた人でしょ?」
「うん。その人と、その人の彼氏と、あの、覚えてる? 中学の時に同じクラスだった義直君」
「えっ、義直君!?」
何故ここで彼の名前が!?
「何? 何もそんなに驚かなくてもいいでしょ」
「えっ、でも……」
どうして、何故、義直君の名前が今ここに? もう美由ちゃんからその名前を聞くこともないと思っていたのに。一体、創英君と何の関係があるというのだろうか。
「ああ。あれから連絡しないって言ってたこと? 実は彼、創英君の大学の友達らしくて。それで彼から名前聞いてて知ってる人、義直君くらいしかいなくて。だから電話をかけるってことになって……」
「そう……」
何か違うけれど、一応答えは出た。美由ちゃんの元カレであって私の永遠の人と、美由ちゃんの今の彼氏であって話題の種である人が、同じ大学に行っているってことか。何だかそれは、突然元彼女から電話がかかって来て、行ってみれば自分の友達が病室で寝てて、それが今の彼氏だって言われるってことだから、義直君にしてみても相当ショックだったんじゃないかな……。自分の友達が今の彼氏だなんて、彼にとってはその友達──創英君のことだが──と付き合い辛いだろう。そんな風に私は彼に、些か同情していた。
何も美由ちゃんが悪いというわけではないけども。何かを悪いというならば、この世の運命というものだろう。でも、運命といえば、どうせ同窓会でしか会わないだろうと思っていた義直君が、今現在美由ちゃんと連絡が取れる状態にあるということだ。今、彼がどこでどうしているかは知らないけども、これは私にとっては一つのチャンスかもしれない。
それも、今しかないような……。
「それから、言ってた通り彼に色んなこと話したんだけど、何も想い当たることはないらしくて……」
「えっ? う、うん」
少し上の空で聞いていたらしい。
「え、何かあった?」
「い、いや、何もないよ」
「そう? それで、今日彼の退院日だったんだけど……」
「うん」
「何か、彼が話したいことがあるらしくて呼ばれて行ってきたんだ。そしたら彼、“実は今他の人が好きだ”、なんて言うんだよ? どう思う?」
何もそんなことを美由ちゃんに話さなくてもいいんじゃないかと思う。
「それはひどいよね……」
「一応、彼なりに考えたんだって。彼としては、今、別の人が好きだけど、元々私のことが好きだったんだから、そういう風に戻りたいって……」
だとしても、そんなことを言うだろうか。私なら、胸のうちに秘めておくけれど。
「だから、そうことをいつまでも隠しておいて、違和感のあるままにしておくよりも、ばらしてしまって、一から始めたいって」
「そうなの……」
それでも、私はそんなことをされようものなら別れてしまいそうだけどな……。結局、付き合うだとかいっても相手に考慮してないわけだから。それでよく、美由ちゃんはこうしていられるなと思う。今日行って来たって言うのだから、それほど時間も経っていないだろうに。
「それで、ほんの少し前に義直君から電話があって……」
「えっ……」
ほんの少し前……。この向こう側にある電話で、彼と……?
「ん? 何かあった?」
「えっ、いや何もないよ?」
「本当に? さっきから“えっ”ばっかり言ってない?」
「いや、本当に何もないから……。続けてくれて構わないよ?」
「そう……? それで、創英君は義直君にそのこと言ってたらしくて……。それで義直君が私を心配して電話かけてきてくれて……」
美由ちゃんを心配して……か。別れても尚、彼の中には美由ちゃんがいるってこと? それでは、せっかくチャンスがあるみたいなのに、何もできそうにないじゃない……。
でも……、今このチャンスを逃してしまうととてもじゃないけど、同窓会なんかで話せそうにもない。
「あのさぁ……」
そこまで言って、私は躊躇った。
いざ会ったとき、私は彼になんて言ったらいいのだろう。
率直に告白?
まずは挨拶から?
好きな人いる、とか?
あれからどうしてた、とか?
今誰かと付き合ってる、とか?
第一、ここ数年会っていないのに話せるんだろうか……。
「ん、何?」
「……やっぱり、いいよ」
「そう? それでね、今は義直君に励まされたおかげって言うのかな。そういうもあって創英君はあんなこと言ってるけど、私はなんとかもってるから。心配しないでよ? きちんと元に戻って見せるから」
「う、うん……」
私は、美由ちゃんには悪いけれども、美由ちゃんと創英君がどうなるかよりも、義直君のことが気になって仕方なかった。

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