その18 再度の見舞で得た真実 ─ 義直

友達から、ある日突然別れた彼女の彼氏へと認識は変わってしまった。そうなると、今まで類のない話し相手や相談相手であったのに、妙なライバル心を抱いてしまう。それを世の中では嫉妬と呼ぶそうだ。
一方、俺は彼女にふられた人間だ。別に俺に非があったわけではない。ただ彼女が“高校生活”に不安を感じていたからに、他ならない。実際に彼女が過ごした高校生活とやらはどんなものであったかは知らないが、あの時はそういう印象だったのだろう。それが、何故……。
八月八日月曜日の午後。
この日も暇だったので、俺は別れた彼女の彼氏の元へ行くことにした。何も文句を言いに行くわけではない。ただ、友達として創英を見舞うことにした。若干の嫉妬心を胸のうちに秘めながら。
203号室。
俺の友達としての創英はこの部屋にいる。そのつもりで、部屋のドアを開けたはずだった。
「あっ、義直君」
俺の耳に飛び込んできた一声は、美由さんだった。
「……どうも」
俺はそれに驚いて恐縮した。それもそうか、美由さんは創英の彼女だからいてもおかしくはない。でも、俺にとってこの環境はとても居心地が悪い。この部屋に美由さんがいることによって、創英は友達ではなく美由さんの彼氏になる。俺は、美由さんの彼氏のいるベッドの隣であって、美由さんとは向かい側にある回転椅子の上に座った。
ああ、俺はここへ何をしに来たのだろうか。前に座っている彼女とその彼氏に会いに来たとでも言うのだろうか。それでは、自分はあまりにも馬鹿馬鹿しいことをしているような気がする。いや、実際に馬鹿馬鹿しいのではないだろうか。何を未練があって、俺はこんな場所へ現れたのだろう。元々別れてから連絡は絶つはずだったのに、突然ああして電話なんて掛かってくるから……。
そう言えば、何故わざわざ俺の元へ電話をかけてきたのだろう。創英なら、他にも友達がいたはずなのに。
「美由さん、創英が事故に遭ったときってなんでまた俺に電話を?」
「えっ、それは創英君から以前に大学の話を聞いてたときに義直君の名前があって、もしかしたらと思って……」
「じゃあ他の人の連絡とかは聞いてなかったってこと?」
「うん……。名前聞いてただけだったから。ごめんね、あれから連絡しないって言ってたのに」
「いや……別にいいよ」
「私も吃驚したんだよ? 創英君から大学の話を聞いてて、まさかそこで義直君の名前が出てくるとは思わなかったもの。でね、やっぱり連絡断つってあのときに言ったから電話しようかどうか迷ったんだけど、やっぱり創英君の友達にも連絡しておいた方がいいかなと思って」
「そう……。創英の彼女として?」
「……うん」
では、俺の元彼女としては何もなかったということだろう。それも些か悲しいと思う。
「……やっぱり、連絡しなかったほうがよかった?」
彼女は、躊躇いがちに訊く。
「え、いや……。別に気にしなくていいよ……」
「そう……」
「……」
やっぱり強がりなのだけど。
「あ、ごめん。ちょっと用事があるから抜けるね。また戻ってくるから」
「うん」
そう言って美由さんは部屋を出ていき、病室には俺と創英だけが取り残された。
「あのさ……」
創英が二人っきりになった部屋で口を開いた。
「何?」
「義直君だから言おうと思うんだけど……」
「うん」
「実は僕、今は美由さん以外の人が好きで……」
「……え?」
以外の人……って誰? と、いうよりそれはマズいんじゃ……。
「でも、その人には相手がいるから仕方ないし、それに美由さんはああして毎日来るから裏切れないんだよ……」
美由さんが毎日……か。元彼氏としての俺の存在は、彼女の中に一切ないらしい。
「だから、僕としては美由さんのことをどうにか好きになりたいってそう思うんだけど……、何かいい方法はない?」
「えっ……」
そんなこと、俺に言われても困る。俺だって、突然電話がかかってきて忘れようとしていたものがまたぶり返して来たって言うのに。確かに、あの電話は掛けざるを得なかったのかもしれない。同じ大学に通っている人がいないと、その場所も分からないのだから。
でも、俺としてはそれでよかったのだろうか……。
「……まあ、記憶さえ戻ればどうにかなるのかな。彼女が色々連れて行ってくれるって言うから、その可能性はあるしね」
どうあれ、美由さんが創英のことを好きなのには変わりなさそうだ。それにしても、いくらなんでも創英は人が変わりすぎて本当に話しにくい。
「あのさ、この話なんだけど、明日の午前中は黙っておいてくれない?」
「えっ、明日の午前中だけ?」
「うん。それよりあとなら好きにしてくれて構わないから」
と、言われてもなんと変なお願いだ……。

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