その11 二本の紐を結い合わせ... ─ 加恵

私は世話好きだ。何故そうなのかは分からないけれども。おかげで自分のことはあまり手が回らない。
例えば、信彦もそうだ。付き合ってしまうと、尚も彼に余計な気を使うんじゃないだろうかと心配だから。でも信彦との関係は自分のことだから、逆に蔑ろにしてしまうかもしれないとも心配になる。そんな心配さえなければ、私も今頃信彦と……。
高校二年生の春。
また新学期が始まった。今年もどうやら信彦と同じクラスらしい。去年も信彦と同じクラスで、暇なときはよく二人で話していたものだと思い返す。今年もきっと信彦とは同じようになるんだろうなと思いつつ、去年とはまた違った新しいスクールライフが始まるのかとわくわくしていた。
まず、新学期始まって最初のホームルームの時間で班が決められることになった。そこで美由と同じ班になった。彼女とはすぐ打ち解けて、このクラスで最初にできた友達になった。以後、しばらくこの班で活動することになって、美由とはよく話していた。
その最中、信彦がちょくちょく来るものだから、美由と信彦は友達になったらしい。もっとも、お互いを求めて話に行くようなことはなかったみたいだけども。私にしてみれば、それは少々いけ好かない光景だった。美由は度々私に信彦と付き合っているかどうか訊いてきたので、増して妙な気が湧いてきた。
しかし、授業中美由が見えているのは黒板ではなくて、あの創英だったので、とりあえず安心した。私と創英は一年のときに同じクラスで、班も一緒になったことがあるのである程度顔見知りだった。美由はどうやらその創英が気になるらしく、暇があれば彼のほうを見ているように見えた。そこで私は早速彼女にある提案を持ちかけることにした。
「美由、もしかして今好きな人いたりする?」
「えっ、なんでそれを?」
なんというかわかりやすい性格だから? まあ普通ならここは否定するところなんだろうけれども、彼女がこうして肯定している時点でそのことはわかったようなものだと思う。まあ、私と信彦の仲のことは興味本意だったということが分かったのでとりあえず安心する。
「やっぱりね。それで、好きな人って創英でしょ?」
「創英って、あの人……でしょ?」
そう言って彼女は彼のほうを向く。
「うん」
「じゃあ……うん、その人……。でもなんでわかったの?」
「だって授業中もずっと創英のこと見てるんだもの……」
「えっ、そう? そんなに見てる?」
「うん。視線はあいつに釘付けだよ」
「私、そんなに見てるつもりはないんだけどな……」
「まあいいんじゃない、そういうのも。それより、どうせ好きならあいつと仲良くなりたいと思わない?」
「そりゃ、思うけど……」
「なら、私がそれに協力しようか?」
「えっ、いやいいよ。なんだか申し訳ないし」
「いいって、別に。あいつとは一年のときクラス一緒だったから仲いいからさ」
まあ、仲がよかったかどうかはさて置いて、同じクラスだったことには違いない。
「……そう?」
「うん。だから私に任せなさいって」
「じゃあ……お願いしようかな」
と、まあこうして引き受けることになった。
で、引き受けたのはいいけれども、一体どうするか。とりあえず私は創英自身の気持ちを確かめるべく、ある試みをしてみることにした。まず彼の元へ美由と一緒に行き、彼が一体どんな反応をするのか、それを見てみようと思う。
「よっ」
「……なんだ、加恵か。何か用?」
「ちょっと挨拶にね。それに暇みたいだし」
「挨拶? 本当か?」
創英が疑うように訊いてくる。何も私に期待なんてしてないというのがひしひしと伝わってきて、若干痛い。
「別に信じてくれなくてもいいよ。それより彼女を紹介しておこうと思って」
「?」
「私と同じ班の美由ちゃんね」
なんだか美由を、“ちゃん”をつけて呼ぶなんて小恥ずかしい。
「ど、どうも……」
「こ、こちらこそ……」
あの創英が畏まっているところなんて、見るのは初めてだ。まあ、美由がああして緊張している影響を受けているだけかもしれないけれど、もしかしたら……。うん、可能性としては十分にあり得る。外れていたら、私の女の勘というものが冴えていなかっただけだろう。それは仕方ない。
「なんか二人とも固いねぇ。もっと気楽に行こうよ」
「そんなこと言われても……」
と、美由が私の耳元でそう呟く。
「……」
一方、創英はあれから俯いたまま真っ赤になってる。あいつも美由と同じで分かりやすいやつだったのか……。
「ね、信彦を見込んで一つ、お願いがあるんだけど」
「いいけど……。それよりこの間の返事は?」
「えっ、返事? 何の?」
もちろん、告白の返事に決まっている。
「よく言うよ……、もう」
「わかってるよ。告白の、でしょ? もうしばらく待ってよ」
待つのは、告白の返事ではなくて、付き合うことに対してだ。
「また? 何回告白してもいつも待ってって言うばかり……」
「告白の返事なんて、そんな分かりきってることを、何も今更訊くまでもないでしょ」
「じゃあ何を待つの?」
「内緒。まあ待てば分かるよ」
「そりゃないよ……」
「まあ大丈夫、安心してよ。他へ行くつもりなんてないからさ。それよりお願いの方なんだけど……」
「うん……」
「実は恋のキューピット役を引き受けたんだけど……」
「……また? ホントに好きだね、そういうの。他を結ぶくらいなら先に僕たちを結んでよ」
「それをしちゃうと他の人なんて結べないでしょ」
「結局後回しか……」
「ごめんね。でも蔑ろにはしないから。でね、信彦に協力して欲しいんだけど……」
私は信彦に耳打ちする。
「いいよ。それくらいなら僕も加恵のお節介に付き合うよ」
「お節介だなんて酷いな」
「そうじゃないの?」
「まあ、そうだけど……」
「でも僕は、加恵のそういうところが、好きなんだけどね」
なんだか信彦が自分で言って赤くなっている。それは私にも若干、伝染してきているような気がする。
「それは……、ありがと。じゃ、明日宜しくね」
「うん」
まあこっちは心配する必要もなさそうだ。若干信彦に辛い思いをさせているのは私も辛いのだけれども。

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