漆塗りの工程は、漆の割れを防ぐため、狂いが出ない堅牢で滑らかな面を作ることが重要です。漆塗りに先立ち屋根裏から野地板の裏面に補強材を貼り付け、木地の継ぎ目を刻んで、糊漆に刻苧綿(こくそわた)と木粉を混合した刻苧(こくそ)漆を詰めて 表面をならします。

 木地調整が終わると、最終的に塗り終えた漆面に、経年で木地の痩目が浮き出るのを防ぐため、麻布を糊漆で貼り付けます。当社では素地の補強も兼ねて布着せを数層に分けて行います。

 布着せが終わると本堅地による下地層の形成に取り掛かります。生漆に地の粉や砥の粉を混ぜた下地漆を箆で塗り、乾燥させては表面を研ぐ作業を幾度と繰り返して、漆を塗るために必要な堅く均一な面に形成していきます。下地は地付け、切粉地付け、錆付けの順に行い、工程が進むにつれて下地の粒子も細かくなります。


一回目の下地層施工の様子


工程が進み粒子が細かくなった下地層


下地層研ぎ出しの様子

 下地層ができると、いよいよ漆塗りの工程に入ります。漆塗りは下塗り、中塗りを経て仕上げの上塗りを行います。

 漆塗りは、下地の段階から塗っては研ぐ作業の繰り返しです。下塗り、中塗りとも、塗り終えた漆が硬化すると炭で水研ぎを行い、表面を平滑に仕上げます。漆の研ぎ出しは、次に塗り重ねる漆の密着度を増す効果もあり、仕上げとなる上塗りで艶やかな光沢面を築くための重要な作業です。

 中塗りの研ぎ出しが終わると、最後の仕上げとなる上塗りを行います。建築物や施工品によってはこの工程で完成とすることもあり、上塗りで完成させた塗りを「塗立て」といいます。屋台や高級仏壇では、この後、さらに磨きをかける「ろ色」と呼ばれる工程に進みます。

 ろ色は、上塗りの刷毛目を研ぎ出し重厚でより艶やかな漆の光沢を出すための工程です。上塗りの研ぎ出しは「ろ色研ぎ」といわれ、最も目の細かい炭が使われます。

 ろ色研ぎが終わると、胴摺りと摺り漆を施し、手のひらに種油と角粉(つのこ)を付けて磨き込む「ろ色磨き」を行います。この工程を経て透き通った漆の光沢がより一層深みを増します。

 屋根のろ色が終わると、軒桁や垂木まわりに金箔を施します。漆を塗った面に金箔を乗せると、漆が糊の役割となって箔を吸い付け、中の気泡も箔の表面から自然に抜けます。このため金箔は貼るとは言わず押すと表現します。すべての工程が終わると、元の位置に紋木を取り付け、井筒・斗組を組み立てて完成となります。