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人には知ってはいけない事実がある。
人には知っていないほうが幸せな真実がある。
人には知っていてもどうしようもない知識がある。
人には知っていなくちゃいけない物語がある。
人には紡がなくてはいけない人生という宝がある。
人には生をも投げ出して掴みたい夢がある。
人には全てを投げ出させてくれる死という救いがある。
俺は人なのに、その救いがない・・・・・・・・






「ちょっと待って!」

焦ったように葛城さんは声を上げる。

「LCLというのはとどのつまりリリスの血で生命の水と呼ばれる物なわけだけど。」

「だから待って!!!」

「これは…「待ってって言ってるでしょ!」…という矛盾は、て何?」

まだ、説明の途中なのだがな。

「エントリープラグを取り付けて、どうしたの?」

「ああ。」

あえて省いてあげたのに聞きたいんだ。

「あなたは今、何歳でセカンドインパクトは何年前に起きましたか?」

「・・・・・・・・・・・」

絶句する葛城さんをしばし観察して話を続ける。

「それってミサトがチルドレンだったってこと?」

訂正、続けようとしたところ、アスカに邪魔され、俺はアスカの質問に答えることにした。

「そう、葛城ミサトはアダムの制御役、つまりパイロットに選ばれた。」

葛城さんはショックをうけて行動不能らしい。

「だが、上手くいかず、精神汚染を受けて暴走、エントリープラグ射出は間に合ってなんとかパイロットは無事だった。」

「非難した後、私が見たあの羽は?」

葛城さんがやっと再起動した。

「…記録上、エントリープラグが開かれた形跡が無く、救出の時に扉が開かなくて無理やりこじ開けたらしいから、精神汚染のせいだと考えるのが一番自然だな。」

「じゃあ、お父さんが助けてくれたのも……」

「精神汚染のせいでかなりの期間、言葉を失ったと書いてあった。裏づけの証拠にはなりえないがな。」

ありえないことではない。

「じゃあ、ミサトの記憶違い?」

「そういうことだな。」

「そんな・・・・・・・・・」

えっと、どこまで話したかな。

「スーパーソイルドを失ったアダムからエヴァを作ったからエヴァシリーズにはスーパーソイルドが存在しないんだな。」

「その分、使徒より劣る?」

「そうだな。」

戦力的にはスーパーソイルドは魅力ではある。
実際にスーパーソイルドが活動力になっている天使も少なくは無い。

「アダムからエヴァを作る過程をシュミレーションしたエヴァ試作機が零号機、アダムをそのまま使ったのが初号機、エヴァ零号機の性能を向上させて扱いやすくしたのが弐号機以降ということになっているらしいな。」

「エヴァはアダムのコピーで、初号機はアダムそのもの?」

アスカ・・・さえてるね。

「その通りだよ。」

エヴァはアダムの劣化版と考えて良いんだよ。

「初号機が特別ってこと?」

「プライドが許さない?」

「・・・・・・・・・・・・・・別に。」

まあ、エヴァの戦闘技術が俺とアスカの力の差ではなく、エヴァの差だっていうのなら、それはそれで楽な考えかもしれない。
人間らしい思考というか、なんとなく微笑ましい。

「自分が良かったらそれでいいじゃない。」

そういう発言をしてしまうのは俺が心の中に入った影響でないことを願おう。

「自分の足で立っていける?」

アスカは驚いた顔をしている。
夢の話をしたら反応されて戸惑っているんだろう。

「・・・・・・いけるわよ。」

「は!!ちょっとシンジ君!!!それとあなたがネルフを潰したのとどう関係があるの?」

「全く無いよ。ただ、あなたはたくさん人を殺しているということも知っておいたほうが良いということだ。」

次で"天国"に行くためには多少なりともプラスになることをしとかないといけないんだよ。
レイは俺が送ったけど、あなたたちはそうもいかないんだから。

「ちょっと!ネルフが潰れたってどういうことよ!?」

「俺が潰したんだよ。」

「ネルフ支部が襲われてたって話はしたわよね?その犯人がコイツよ!」

「シンジが?」

魔素が強くなってきた。
そろそろ、か。

「リツコが死んだのもネルフがなくなったのも加持が死んだのも全部あんたのせいよ!」

加持さんが死んだ?
まさか。
俺の加護の下いる加持さんをどう殺すって?
自分から死にに行かない限り彼は死ぬことなんてないぞ。

「加持さんが死んだ?」

アスカは呆けたような声を出す。
その声を聞き、俺の中の小さな動揺が完全に消える。
死にたくなることもあるのだろう。
俺がそうなのだから。

「加持さんが死んだんだ。」

「何を人事みたいに!」

「人事だよ。」

「この!!!」

アスカがいるのに葛城さんは容赦なく引き金を引く。
天使と悪魔の力を解放しているせいで銃弾くらいでは回避しようと思えばかすりもしない。
今のように銃弾を掴んでも皮膚一つ傷つくことも無い。

「え?あ・・・・・・化け物!!!」

その化け物にあなたはなるんだよ。
俺はアスカを抱きかかえて窓から脱出を図る。
もう葛城さんは半透明になっていた。
今回の敵はスライム系統か。
窓からジャンプ。
風の加護を受けて飛ぶ。
思ったよりも衝撃が強かったがアスカも無事に着陸できた。

「できるだけ遠くへ逃げろ。それだけの加護を授けてやる。あとは自分の足で立って生きろ。」

「自分の足で?」

「ああ。」

「・・・・・・・・・・最後に一つだけ、シンジは自分を大切にしてるの?」

「ああ、大切にしてるよ。」

自分の身体を大事に使っているよ。
いくら生命の水から作っていて丈夫だとしても壊れ物には違いないから。
命自体はすぐにでも捨てられるけど。
頭上でガス爆発のような爆発が起きた。
爆発系統かそれとも火炎系統かというところか。
スライム焼き殺すのは良い方法ではあるが、属性が炎だと、少し難しくなる。

「さあ、後始末だ。」

魔素のせいで空間交換はあまり遠くへはできない。
アスカは自分の足で移動しないといけない。

「行けよ。」

「・・・・・・さよなら。」

「ああ。」

アスカは歩き出す。
体力が回復していないのだろう。
走ることはできないようだ。

「アスカに女神エーヴェの祝福を。・・・・・・・・・・・・・アーク!!!」

剣化したアークが俺の手元に来る。
聖魔モードの時よりも二回りほど小さい剣になっている。
人間に扱えるのはこのくらいだからなのだろう。

「レオ以外のモノ相手では俺を天魔モードにすらすることはできないと思い知らせてやら無いと。」

レオがお払い箱にならないように。

「ザムド!!!」

黄色の炎が巨大になって落下してきたスライムをつつむがすぐに何事も無かったように消え去った。
魔素の影響というわけではなく、聖火は効果が薄いようだ。
その場を跳んでスライムの下敷きになることを回避。
全力で走る。
風の加護のおかげで空気抵抗無しで走ることができる俺は全力を出すと音速を簡単に超えられる。
斬る!!
問答無用に真っ二つに切った。
だが、スライムに斬撃は効果ないように思える。
炎が効かず、斬撃も効かないのなら、効くようにしてやるまでだ。
法力開放!原子干渉!
運動エネルギーを他の原子に渡してスライムの周りを絶対零度にまで引き下げる。
自分の保有する水分で凍れ!
剣を構える。
あれ?様子がおかしい。
大きくなった!!!2mだった体調が3m近くに!!!

「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」

ものものしい咆哮をあげるスライム。
すごい、スライムに声帯があるとは!
少し驚いている間にスライムは炎の術を放った。
ち!!!

「ウィル!!」

風の法術で炎を蹴散らす。
法力自体は俺のほうが上のようだ。

「魔を纏いし広大なる風よ!!我が意に従い我が力をなれ!!」

透明の空気が魔に染まり蒼くなる。
蒼き風を操る。
身体を取り巻く風が気持ち良い。

「くらえ!!」

このスライムは温度が低くなれば増大し、高い温度には耐性があるようだ。
他のところからのアプローチを試さなければならない。
まずは得意の風の術。
圧倒的な風圧とそれに伴ってできる真空とのコンビネーション。
風+闇のウィルの上級法術。
ドパっという妙に低い音を立ててスライムははじけた。
スライムといっても所詮生物であって、内臓を潰したらそこで終わり・・・・・のはずなんだけどな。
バラバラになった体が一箇所に集まり元通りになる。
ジリ貧でしかないかもしれない。
・・・・・・・・・・・・重力剣を使うか。
論理回路を発動させ距離をとって投げる。
直径約30mの局所的核爆発。
その熱量と周波数を記憶する。
炎系統のザムドとの相乗効果を計算。
どこまで相乗効果をもたらせれるかの見当をつける。
相乗効果を与えるのはセシル・ウィズの一番の存在価値だ。
爆発の中からスライムの身体の一部が飛んできた。
触手か何かだろうが、どんな形をしていようとスライムはスライムなのだからあまり関係ない。
いつもなら切り払うがスライムには効果は無い。
避ける。
ひたすら避ける。
重力剣を取り出す。
妙に軽い。
柄だけだった。
どこで折れたんだ?
そんな疑問もすぐに結論が出る。
ミスリルを壊せるくらいの攻撃をするのはレオしかいない。
戦闘中、攻撃を食らったときに壊れたんだろう。
まあ、そんなことは刃と柄の部分が分離したのと同じくらいどうだっていい。
柄を捨ててポケットを探る・・・・刃があった。
落としてなくてよかった。
すばやく論理回路を発動させて投げる。
スライムにあたるタイミングを見計らって法術を放つ。

「ザムド!!!」

成功。
瞬間的に恒星の1/10ほどの熱量を出させた。
しかしコントロールにやたらと法力を使ってしまった。
もう、余裕という余裕は無くなってきてしまった。
そろそろ切り札をきってでも倒さなければならない。
予想通りプスプスと焦げた匂いが漂ってくる。
蒸発していないということはまだ死んでいないということだ。

「ぐるるるるるる!!!!」

攻撃する予兆。
風を操り真空の断層を作る。
スライムが炎を形成させてこちらに放つ。
対策済みだから無視する。

「光と闇の矛盾。」

光の力と闇の力を同じ場所に存在させる共存という矛盾を"人間"を通すことにより可能にした術。
矛盾という混沌の力をアークに宿らせる。
俺が使える術の中でも最強レベル。
地面を蹴るようにして走る。
風の術を使う余裕がないから空気が重い。
それでも音速を超える速さにはなる。
スピード不足の感はあるが圧倒的に足りないわけではないから妥協範囲内だ。
触手での攻撃を切り払いで回避する。
混沌の力を備えた攻撃は容赦なくスライムの体の一部を闇に帰す。
短期決戦に持ち込むためそのまま間合いを詰め切り刻む。
最初からこの術を使えれば良いのだがコントロールの関係でできないのが残念ではある。
一撃ごとにスライムの体が見事に削られる。
ほとんど何もできずにスライムは完全に消滅した。
途中で空間干渉をしようとした時はさすがに驚いたが今の俺に通用するほどの精度ではなかった。
せめてこの姿のときには効果がある攻撃をしようよ。

「終わったか?」

術を解いて精神を集中させて知覚範囲を広げる。
敵になるべき存在は排除した。
使徒と呼ばれていた神の似身の失敗作も全部消去した。
死海文書に関する知識を持ったものも全員殺したはずだ。
残っていても使徒がいないのだから世界を変える魔法は使えないだろう。
この世界で俺がすべきことは全部やった。
とりあえず、地べたに座り込んでため息を吐いた。
疲れが身体の外へと流れているような感覚。
少し休んだら持ち前の回復能力で溜まっていた疲れが無くなるはずだ。
体力ちゃんと回復したら空間を移動してリーザが待つ世界へ跳ぼう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これからアスカはどうするんだろう?
マナとムサシはあのあとどうなったんだろう?
クラスメートのみんなはどうなった?
碇シンジはこの環境にちゃんと適応できたのだろうか?
俺が干渉しなければうまくことは収まったのか?
人がこれほどには死ぬことはなかったのか?
まあ、それもこれももうどうでもいいことだ。
俺の仕事は世界を守ること。
それ以外のことは俺の管轄ではない。
いつ・・・・・・俺は眠れるのだろうか・・・・・・

「女神エーヴェよ。汝が下僕、ハーメル、セシル・ウィズを新たなる世界へ導きたまえ。」

俺は次の世界へと
進むことしかできないから




































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