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人は一つの宇宙を心に持っている。
そこに住む人たちが現実での人の行動に反映される。
例えば、そこで流行しているものが本人のお気に入りになったり。
犯罪者が増加すれば、犯罪をしたくなったりという感じでだ。
だから、ココでの変化は直接アスカの変化になるということ。
別に、アスカのためにここまでしなくても良いのだが、あくまでも自分のために動かないと。
このまま放って置くことは、俺が嫌だから。
「排除だって?そうして自力でお前たちは復興できるのか?」
「復興はできます。」
「きっかけも無しにか?復興できるならとっくにできているだろ?違うか?」
「この街の母親は娘を嫌う傾向にあります。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?」
それがなんだというのだ?
アスカのトラウマと直結しているとでもいうのだろうか?
「そのためにこの街では娘が生まれた場合、母親が虐待を始める前に娘を回収しているのです。」
「虐待を始める前?」
「そうです。娘が自分で行動、思考ができるようになるとなぜか虐待を始めるのです。」
「それが・・・・・・5歳?」
「我が校の生徒から聞いたのですね。そのとおりです。」
「で、お前もそのうちに入っているのか?」
「いいえ、私は子供を作っていませんから、そのようなことには。」
子供を作るのが恐いのか?
「そうして娘を集めて、この学校では何を教えているんだ?」
「立派に自立する術を与えております。」
「バーカ。」
「なっ!!」
「虐待をする傾向にあるなら、虐待しないように教育しろよ。」
「そんなことどうしたらいいか解るわけありません!」
確かに難しいことではあるが、それでは何のための学校だかわからないだろ。
「愛することを教えろ!自分を大切にすることを!認めることを覚えろ!まずは自分を!自分をすら認められない人間が他人を認められるわけがない!」
「他人に認められなければ空回りでしょう!」
「まずは認めるということを理解しないと認められててもされてないと誤解を生むぞ!」
空回りでも認められていると思うことは自分の救いになる。
「いいか、愛することを教えろ。そうすれば虐待は減るだろう。認めることを学ばせろ、自身がつく。」
「そ・・・・そんなことを言われましても・・・・・」
「大丈夫、できる。保障する。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫さ、可能性は無限に広がっているんだから。」
「できるでしょうか?」
「できるさ。」
「私などに。」
「あなただから。」
「本当に?」
「本当に。」
面倒くさかったが、なんとか治療はこれで大丈夫かな・
理想を立てて向かったって、誰かに評価されないと到達できないなんて可哀想だ。
「一つ質問があります。」
「何?」
「あなたは、あなたは自分を愛しておられるのですか?」
「愛しているよ。」
愛していると同時に殺したいほどに憎んでいるよ。
愛してはいる。
じゃないと、俺のために死んでくれた人たちに、俺を守って死んだモノたちに、俺が殺してきたモノたちに。
憎しみにとらわれて殺したこともあるけど、殺したくなくても殺したこともある。
全部、もう過去のこと、全て、俺の履歴。
時間の枠の外にはいないけど、死から解き放たれているわけじゃないけど、永遠を所持している俺の責任。
過去に、自分の目の前で起こった死、未来に俺の目の前で起こる死。
いっそ、自分を殺して全てを清算したい。
なぜ神ごときに支配されている?
神よりも戦闘力は強いだろ?
なぜ、俺は思いに気づかない?
自分へ向けられている感情すら。
「そうですか、素晴らしい自信ですね。」
「そう?」
目の前のこの人のことを一瞬忘れていた。
「そうですよ。」
「・・・・・・・・少しづつでも変わっていけ、人間はそれで充分だ。」
「はい。」
視界にノイズが混じる。
何か起こった?
気が遠くなる。
視界が暗転した。
ゆっくりと身体を馴染ませる様にして起き上がる。
俺を見つめる黄金の毛皮の狼、アークが見ている。
「アーク、お前が呼んだのか?」
問いかけながらも周りを警戒する。
魔素?
魔素と呼ばれる闇の術を強化してくれる存在の濃度が濃くなっていた。
レオが言っていたもう一人か?
だが、魔素を出すのは闇の術を効果的にするというよりも他の術の威力を弱める意味がある。
そして魔素を出す存在というのは術を行使しない、獣タイプが考えられる。
圧倒的な身体的能力によって敵を倒すタイプ。
だが、レオ以外で俺を倒せる手下があいつにいるとは思えないが・・・・・・・・・
それともレオがわざと進撃時期をずらしたのか?
まあ、前に記憶を奪うレオの手下と戦ったけど、よくわからないうちに倒したしな。
・・・・・・・・・・それよりも、この魔素の濃度ならまだ活動が近いというだけで動き出しはしないだろう。
あくまでも、予想ではあるから気を抜かないが。
「う〜〜〜〜〜〜〜ん。」
すっかり存在を忘れていたがアスカが寝返りをうった。
このままここにおいておくわけには行かない、とりあえず俺の部屋に連れて行こう。
・・・・・・・・・・もしかしてこれって傍から見ればれっきとした連れ込みじゃない?
よかった。
マンション、俺の住居はなんとか被害がなかったみたいだ。
人を休ませるくらいには役に立つだろう。
この状況だからお金は使えないだろうけど、保存食がいくらかあったはずだ。
目的の階に到着すると人が見えた。
「葛城さん、無事だったんですか?」
「シンジ君?」
「そうですよ。」
「白髪の次は緑?いろいろと忙しいわね。」
そういう体なんだから仕方ない。
人間の体の時は最初は生まれ持った色の白、天使を開放すると黄色、悪魔だと蒼色、どちらも開放すると緑色になる。
髪と瞳の色で力の解放がわかるのは痛手だが、気にしなくても良いレベルではある。
「そうですね。」
とにかく、なんでも良いから返事はしといたほうが良いだろうと思い声を出した。
「あ、アスカ!」
「ああ、ちょっと拾ったんです。」
「拾ったって、人を物みたいに言うんじゃないの!」
「意思がない存在は物で十分です。」
意思がなくなった人間は人形と言われてもしょうがない存在に成り下がる。
ある程度、治療はしたけど、大丈夫か?
心配になってきたな。
「あんた!人を何だと思ってるの!」
「なんとも。」
思うところがあったらこんなことしてられない。
人間に対してなんらかの認識をしていたら心が持たない。
神様扱いされ、勇者扱いされ、悪魔扱いされ、魔王扱いされ、振幅が大きいから。
昔、心を壊してなかったら助けてもいなかっただろう。
「なんともって!。」
「今はアスカを休めてやりたいんですけど、どいてくれませんか?」
葛城さんが邪魔で部屋に入れないんだよ。
「え?あ?ごめんなさい。」
特別俺を警戒しているような表情をしている。
後ろから刺されなければいいけど。
無事にアスカを布団に寝かせて食べ物のチェックして一段落したときに葛城さんが入ってきた。
「ちょっち話があるの。付き合ってくれるわね?」
「少し休みたいからこの部屋で話をする分には良いですよ。」
といても気は張り続けている。
いつ攻撃されるか、いつ襲われるか本当にわかったものじゃないからだ。
「あのね、ネルフが壊滅したのってやったのはシンジ君?」
ストレート!!
しかもストライク!!!
ここで”はいそうです”とでも言おうものなら・・・・・・・・・・・
「はい、そうですよ。それが何か?」
まあ、そんなことを気にする俺ではない。
俺がそう返事すると予想通りに、少しはひねってくれと頼みたくなるような素直さで銃を向けてくれた。
もちろん、今の俺に銃なんてものは効かない。
銃でもやりようによっては白髪の時にならどうにか殺せるか?というくらいだろう。
それでも、恐かった時期は確かにあったはずなんだが・・・・・・・・・・・
その頃は心を壊していたからあまり関係がないのかもしれない。
「それで、何がやりたいんですか?」
「たくさんの人たちが死んだのよ!」
「その人たちの復讐?」
「そうよ!私はあんたが許せない!」
「セカンドインパクトを起こした張本人が何を今さら。」
「え?!」
「本気で覚えてない?」
「なんのことよ!」
銃に力を込める。
別に言わないなんて言ってないのにそういう態度に出る人なんだ。
「ネルフ壊滅とゼーレ壊滅とをしたのは俺だ。その間にネルフとゼーレの情報がほしくて潰す研究機関やネルフ支部で情報を奪っていった。」
「それで?」
「セカンドインパクトの真実、知りたい?その覚悟はある?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのはアスカだった。
「あんたたち何真剣な顔して話してんの?」
「真剣な話なんだけど。」
「それよりお腹すいた。何か無い?」
「インスタントでよければ、起きたばかりだからスープが良いね。」
「お腹すいてるのよ。」
「身体に良くないし、体が受け付けない。おとなしくスープで我慢しなさい。」
「わかったわ。」
お?やけに素直。
「で、続きは聞くの?聞かないの?」
葛城さんへ向けて声をかける。
どちらにせよどうせ俺にはメリットないんだ。
「聞かせてもらえる?」
「・・・・・・南極大陸に派遣された葛城調査隊。その目的は謎の巨人の調査だっけ?」
「そう聞いているわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アスカはおとなしく聞いているみたいだね。
「実はもうその巨人はそのときには捕獲していたんだ。」
「なんですって!」
「葛城調査隊の本当の目的は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・」
少しだけじらしてみる。
明らかに葛城さんはイライラしてきた。
「捕獲した巨人の制御、つまり手駒にするための部隊だったんだ。」
「は?」
「葛城さん、あなたが脱出に使ったのはエントリープラグだったといえばわかる?」
「何!どういうことよ!」
「つまりアダムにエントリープラグを取り付けて制御しようという計画だったんだよ。」
「ちょっと!それって!!」
「はい、スープ。」
「ありがと。」
「ちょっとシンジ君!」
「焦らなくても良いですよ、ちゃんと話してあげますから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
視線で人を殺せたらという眼をしている。
そんな眼をされても困ってしまう。
あなたは運が良かったら生き残るという程度の生存率なのだから。
「アダムをエヴァのようにしようと言うのが葛城調査隊の目的だったんですが、まあ、予想通りといいますか、暴走が起きた。それを押さえ込んだ代償がセカンドインパクト。その時にアダムはスーパーソレイドを失い、暴走を押さえ込むためのエネルギーを放出させられたためにリリスは胎児になったと。」
葛城さんの顔を見て言葉を紡ぐ。
「ここまでは良いですか?」
わかってなくても進めるけど、できればわかって逝ってほしい。
俺の自己満足の為に。
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