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最初に心を壊したのは本当に最初に産まれ落ちた世界だった。
力が足りなくて・・・・・・・経験が足りなくて・・・・・・・最後の手段で心を壊したときに放出されるエネルギーを全て術の力に変えた。
無理やり壊して、頭だけで術を撃つのは確率の低い賭けだったが小さい頃に無意識上にでも実行したことがあるからできないとは思わなかった。
心が壊れたおかげで衰弱死する予定だったが、リーザの看護のおかげで生き延びた。
俺は兄様がなるはずだったエーヴェの付き人、ハーメルを受け継いだ。
俺がならなければ、リーザか義姉様が受け継がなければならなかったから・・・・・・・
義姉様は普通に死んでくれたがリーザは俺のサポート役についてしまった。
普通に生きて、普通に死んでくれたら、俺は満足だったのに・・・・・・・
俺は3代目のハーメルだが、初代に匹敵・・・・・もしかしたら超えているかもしれないらしい。
戦う力が優れているということは他の部分が低いということ、存在は全て同じだけの容量しかないからだ。
俺は・・・・・俺のそばにいてくれる人を・・・・・・幸せにできない・・・・・・・
それが初代を上回る力を持つにいたった原因だろう。







「なんでこんなにやつれている?」

惣流・アスカ・ラングレー。
それが今ここで脱力してどこかわからないところに視線を這わせている少女の名前だ。
強気で可愛いというか綺麗というか、美人になるだろうという美少女だった・・・・と思う。
2ヶ月くらい会ってないのかな?
その間に何かあったのか?
とりあえず・・・・・・・助けておくか。
外傷は無し。
心の問題か・・・・・・難しいなぁ。

「アーク、俺の身体を頼んだ。」

夢界異邦人顕現・・・・・・レゾネイト・・・・シンクロナイズ・・・・・ドッキング・・・・・イントリュード。
心の壁を無効化して心の中に侵入する。
アスカの心の世界に潜入完了。
アスカの心はかなり荒廃していた。
支給をしにきた車に並び食事をもらっている人々。
壊れたビルや、家。
まるで大規模な地震に襲われたような惨状だった。
周りを囲むべき防壁が壊されている。
通りすがりの人に話を聞いてみる。

「この街にきたばかりなんですが・・・・・・何か災害か何かあったんですか?」

「悪魔が降臨したんだよ。」

それだけ言うとこの先を言いたくないのかさっさと行ってしまう。
悪魔が降臨・・・・・・・精神攻撃か何か受けたときはそういう表現することが多いけど・・・・・
精神攻撃できるほど、精神世界への影響力がある存在なんて・・・・・・・・・・この世界には稀だろう。
まあ、経緯はどうであれ、この状態をどうにかしないと・・・・・・・・
この世界の常識を調べて、核となっている人を見つけて・・・・・・・回復させれるかな。
少し自信は無いけど、なんとかなるだろう。
何はともあれ情報収集は必要だ。

「あの、ここで何かあったんですか?」

道行く人と言っても自分から自発的に行動しようという人は全然いない。
無気力になっている……心がこれでは現実世界のアスカがぼーっとしているのも仕方がないことだろう。

「ったく、何をどうしていいか良くわからんな。」

力でねじ伏せるわけにもいかない。
そんなことをしたらアスカという人格が壊れてしまうから。
本人にとっての死とは人格が壊れること。
記憶をいじってしまったらもう、その人ではない。
そんなことを考えながらぶらぶらとほとんど景色も見ないであるく。

「ねぇ、おにいちゃん・・・・・・てんしさん?あくまさん?」

小さい女の子がいきなり話しかけてきた。
小さいアスカといった容貌をしている。
もしかしてアスカの核か?

「天使と悪魔?」

「あのね、しゅうどういんの絵のてんしさん?絵本のあくまさん?」

修道院?絵本?
どちらも現実世界では有名なものだ。
たぶん、ここでもかなりの影響力がある存在なのだろう。

「どっちのほうがいい?」

「てんしさん!だってまちをなおしてくれるから!!」

天使がこの街を直した?
だったらやはり悪魔は街を壊したのか?

「じゃあ、お兄ちゃんは天使ってことで良いよ。」

本当はどちらでもあるんだけどね。

「てんしさんなの?ほんとうに?」

「街を直しにきたんだ。だから君も協力してくれないかな?」

「うん!いいよ!」

協力者を得ることはできた。
しかもたぶん、核である少女だ。
この収穫は大きい。
しかも俺はほとんど苦労をしていないし。

「じゃあ、修道院に案内してくれるかな?俺が書かれてるっていう絵を見たい。」

「うん!こっちだよ。」

瓦礫と化した町並みの中になぜか無傷といって良い教会が堂々とした雰囲気でたっていた。

「ココか・・・」

これだけの破壊の中残っていたということはそれなりに大事な記憶ということだろう。
中に入り天使の絵とやらを確認する。
天使は、碇シンジだった。

「この絵と俺のどこが似てるの?」

「うんとね、ふいんき!」

まあ、雰囲気が似ているのはわからなくもない。
本当のシンジより俺よりの顔立ちをしているから。
たぶん、この身体になる前の記憶がベースなのだろう。
俺がこの身体になって少し記憶に訂正が入った。
つまりはそういうことだろう。

「てんしさん、はやくまちをなおしてね!」

「ああ、善処する。」

「ぜんしょ?」

「わかったよってコト。」

難しい言葉はわからないのか。

「あ、もうかえらなきゃ。」

「君の家は無事だったの?」

「いえじゃないよ、がっこうだよ。」

「学校に避難してるんだ。」

「ううん、がっこうにすんでるの。」

「家には帰らないの?」

または家はもうすでにない、つまり捨て子ってことかな?

「うんとね、5さいになったらがっこうにあつめておやばなれさせるんだって。」

親離れさせる?
強制的に?
そういう現実世界と違う設定はたいていトラウマが関係しているものだけど。

「りっぱなひとにならなきゃいけないんだって。」

「他人にどう思われるかよりも自分をどう思うかだと思うけどな。」

アスカは過去に何かあったな。
家庭環境は良くない。
たぶん、虐待あたりをされていた可能性が高いな。
まあ、そのへんはほうっておこう。

「てんしさん、おかあさん、もとにもどる?」

「は?元に戻る?」

「あくまにおかあさんへんにされちゃったの。」

「操られたってこと?」

「たぶん、そうだとおもう。」

とどのつまり、トラウマを呼び起こされて心が壊れたわけね。
厄介な……すごく厄介だ。
なんか、どうでも良くなってきたな……精神汚染で回復させてとっとと出て行こうかな。

「うーーむ、あ、学校には戻らなくていいのか?」

「もどらなきゃいけない・・・・・・」

言外に戻りたくない。
あそこは嫌いと言っている。

「でも、もう少し天使さんに付き合ってもらえる?」

「うん!いいよ!!」

この子が核だと仮定すればこの子が前を向いていたら回復するだろう。
他に核がいるとすればどこにいるか・・・・・・・・

「この街に学校って何個あるの?」

「ひとつだけだよ。」

「一つか。」

それなら学長あたりが核ってこともありうる。

「この街に宗教とかってある?」

「しゅうきょうってなあに?」

宗教は無いのか。

「神様が一番偉くて、神様の言うことを聞きなさいって言われることだよ。」

あながち外れてはいないが正しくも無い答えを返しておく。

「それってたのしいの?」

「全然。」

苦笑するしかない。
神に縛り付けられている俺には、それしかできない。

「人は自分を信じられれば良いんだよ。自分を大事にできなかったら、他の人に優しくできないしね。」

「てんしさんはじぶんのことだいじにしてるの?」

「してるよ。」

もう捨ててしまったから、大事に仕様が無いけど、やはり、あったら大事にしていると思う。
今は簡単に捨ててしまうだろうけど。

「君も、自分のことを愛してあげて。」

「じぶんをあいする?」

俺みたいにならないように・・・・・・ね。

「解らなくても良い。ただ、覚えておいて、自分を認めてあげることを、その強さをもっていて。」

これは懇願なのかもしれない。
俺は、人の人格形成を助けてやれるほど立派ではない。
高次元の存在になったからって人間には変わりない。
人はいつまで立ても人でしかない。
それは俺が一番良くわかっている。

「お願い。」

核であろう少女は難しいとか、よくわからないという顔をしている。

「約束、してくれる?」

「うん。」

よくわからないけど、とりあえずは、しておくかと言うようなノリだがこれはこれで良いだろう。外でアスカに言うよりは効果的ではある。
でも、核がこんなに幼かったら精神的にアスカはだいぶ幼いということになる。
アスカは、きっと幼いんだね。

「あ、ごはんのじかん!」

配給の時間が決まっているらしくこれを逃すとご飯にありつけないそうだ。
俺は準備さえしていたらそんなものは必要ないけど。

「バイバイ。」

「てんしさん、またあしたね。」

少女は元気よく手を振る。
・・・・・・・・・・・・・しまった。
少女の名前を聞くのを忘れていた。






「このままじゃいけない!」

人がいるところ人がいるところで演説する。
これが一番効果的ではあるはずだ。

「待っていても何かをしてくれるわけじゃない!自分たちで復興しないといけないんだ!」

俺がこんなことをしているのは不自然だけど仕方は無い。
一応助けると動いてしまったから。

「誰かがやってくれるじゃいつまでたっても・・・・・・・」

「私は優秀な人材なのよ!こんなときくらいサポートしてくれてもいいでしょ!」

「行政も動かないんだ。俺たちが動いても何もならない!」

「昼間からうるさいんだよ!」

「余所者が好き勝手言うんじゃない!」

「また復興したって壊されるだけだろ!」

とどのつまり、他人を頼りにしてる。
専門外のことは何もしないと?

「散れ散れ!」

なにやら制服を着込んだ団体さんが割り込んできた。

「おまえが変な演説をしているという男だな。」

「健全な発言をしているに過ぎない。」

喧嘩腰になる。

「とりあえず、あなたを拘束します。」

こいつらを倒すことは簡単だけど、傷つけるとアスカが傷つくからな。

「わかりました。」

おとなしく投降することにした。
独房行きか?





俺は学校長室というところに連れて来られていた。
なんでも、俺に興味があるらしい。
俺の良そうだとこの学校長もアスカの核だと思うんだけど。

「ああいうことされては困ります。」

「この街のルールは知らないからね。ただ、参上をどうにかしようと思っただけだよ。」

「いづれ復興します。」

「どうやって?ここの人たちが動かないと復興できるわけないだろ?」

「天使がやってきます。」

「教会の絵か?」

「悪魔が舞い降り街を壊し、天使が復興する。これを繰り返してきましたから。」

「そう、都合よく天使なんか降臨するもんじゃない。」

降臨しちゃった気もしないでもない。

「あなたが天使ではないのですか?」

え?

「どういうことですか?」

何か感じるものでもあるのか?

「学校の子供で天使に会ったという子供がいましてね。」

あの子か。

「俺が天使だったとしてどうする?」

俺の真意はどこにあるのかを探る目つき・・・・・・どうでもいいが。

「街を直してくれるのは良いのですが、この街の人間を洗脳しないでください。場合によっては天使といえども排除しなければなりません。」

それは予想外の言葉だった。




















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