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強くなるということは必ずしも良いことではない。
強くなってしまったことにより失うものがあるからだ。
一つの存在にはその許容量というものが決められていて、何かを高めると何かが下がってしまう。
世界を整理するという能力があるがために虫はあんなにも小さくなり。
人間は知能と引き換えに動物としての本能を失った。
鳥は空が飛べるために地上での行動力が低くなった。
俺は力をもったがために幸せな、普通といわれる家庭を失い、未来も失い今、ここに存在する。
自分の意思で生き、そして納得して死ねる生き物を見て何度羨ましく思ったことか。
自由はある、だけど、永遠に縛られている俺には全てが眩しい。
たとえそれが自分の破滅に向かうものだとしても俺にはその道すら選ぶことはできないから。
俺は、滅亡を振りまく存在、一番滅びたいのは自分なのに。
俺はもしかしたら、滅びたいから他のものを滅ぼしているのか?







身体検査完了。
全システムオールグリーン。
プログラム、オールグリーン。
自分をまるで機械に置き換えるかのように自分の体調を点検する。
綾波レイを殺したことは尾を引かなかったようで今日、やっと決戦に突入できる。
髪の毛は白に戻したし、いつもの青い戦闘服に重力剣を二振りと騎士剣が一振り。
これでどこまで"奴"に対抗できることか。
死海文書はもうすでにこの手で破棄した。
あとはネルフ本部を潰して終わりだ。
問題は"奴"との死闘は今回はどのくらい演じるになるのかっだ。
"奴"は人間が好きだからここの人間が気に入ったら自分から死ぬし、嫌いだったら全力で抵抗する。
ほとんど返り討ちにして入るが、本気の"奴"に完全に勝つ自信なんてものははっきりと言って無い。
俺を殺すためだけに作られた存在なのだから。
考えていても始まりはしない。
行動するしか自分には道は無い。

「行くか。」

意識領域増幅、知覚範囲拡大、位置データを処理、交換場所確保、ディストーション。
さあ行こう、狩りのはじまりだ!






「シンジ君、とうとう来たのね。」

「予想済みですか。」

赤木さんは俺の動向を予想していたようで、戦闘服に身を包んだ俺を見てもそう驚きはしなかった。

「ええ、ネルフとゼーレが襲われだした時とあなたが姿を消したときが一致したから。」

それだけではなく、予感はしていたという顔をしている。

「では、なぜ俺がここにいるのかも予想がついてますよね?」

「私を殺しにきたのね?」

「ご名答。では、死んでください。」」

そういって俺は騎士剣を振りかぶる。

「待って!聞きたいことがあるの!私だって科学者のはしくれよ。何も知らないまま死にたくはないわ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・そういうものだね、科学者という生き物は。

「いいですよ。質問してください。」

とりあえず戦闘体勢はといて警戒態勢に移行した。

「あなたは何がしたくてこんなことをしているの?」

「えっと・・・・」

ここではなんていう名前だったっけ?
世界を変える魔法・・・・・・・えっとぉ〜〜〜〜〜

「人類保管計画の阻止が目的です。」

一瞬、本気でド忘れしてしまった。

「それをしたからって何かあなたにメリットがあるの?」

「特にはありませんよ。」

自己満足すらないし。

「あなたの背後には組織がついているの?」

「・・・・・・微妙です。ついてないこともないですがこの件は主人の命令なので。」

お金をもらうために、生活をするために国際警察の特別組織、死刑執行部隊に所属してたりするけど、違う世界の話しだし。

[・・・・・・・・・・・・・・・・」

赤木さんはなにやら考え込んでしまった。

「もういいですか?そろそろ殺しますので。」

騎士剣を振り上げる。

「あと一つだけ!あなたは何者なの?」

「神の使いですよ。天の使いではないので天使ではありませんが。」

「なんという神なの?」

「エーヴェ、創造神でありながら人を愛し、主神に反抗したために今は人間にされてしまった。馬鹿な神様だよ。」

人間なんて見捨てておけばよかったのに。
世界なんていくらでも作れるし、生物だって作れる・・・・・・・・人に執着することなんて無かったのに。

「そのその神様が主神に対抗するために・・・・・・・・その主神の人間の排除を阻止するために作られた存在が俺の先祖で、その力を受け継いだ俺がエーヴェの僕をしているというわけ。OK?」

「なんとなくわかったわ。普通の人間にはあなたは止めれないと言うことね。」

「・・・・どこをどう理解したんだよ。」

騎士剣を振り落とす。
肉が切れる感覚がしてしまったと思う。
頭を砕いたらそれで終わりなのだが、なぜか袈裟掛けに切ってしまった。
仕方がないので振り下ろした勢いを殺さずに、むしろ勢いをつけて側面から頭を砕いた。
さて、次の獲物はどこにいるのかな?
見つけた♪
位置データを処理、交換場所確保、ディストーション。






「なっ!!どこから入ってきた!?」

部屋の中にいるのにグラサンってどうかと思う。

「シンジ?」

やや呆然としたように呟く母親。

「そう、碇シンジです・・・・・・・本当にどこから入ってきたんだろうね?」

直接ダイブしているからどこからと聞かれても困る。

「真面目に聞いている!」

「俺も真面目に答えている。」

人の話・・・・人の意図を理解しようとしない人だな。
他人の心はわからなくても思いを予想することはできるだろうに。

「シンジ・・・・何しにきたの?」

お母さんが俺に問いかけた。
もっともな疑問であろう。

「体内に使徒を飼っている人から使徒を取り上げることと、死海文書という世界には存在してはいけないものの解読をした人の抹殺を死に来ました。」

とどのつまりこの二人を殺せば次に移行できるってこと。

「それって・・・・・」

お母さんは絶句して、お父さんは意外とすばやく銃をこちらに向けて発砲した。
体勢をかがめながら騎士剣で銃弾をそらす。
移動するための力がたまったところで防御から回避へを移る。
だが、回避するまでもなく銃の中に入っていた弾丸全て撃ってしまっていたお父さんだった。
こちらは仕方ないので素直に攻撃に転じる。
お父さんはちゃんとお母さんをかばうように前にでる。
お母さんはただただ、困惑しているようにも思えた。
まあ、そういうことをまったく無視して攻撃をする。
騎士剣は見事にお父さんを真っ二つにした。
・・・・・・・・・手ごたえがない、使徒に当たっていなかったか。
お父さんの死体をじっと見る・・・・・・・・右手に何か・・・・・・・・・・
爆砕法術を使って切りつける。
ボフッという小気味が良い音がして肉片が飛び散った。
するとこの部屋から使徒の気配が消滅した。
使徒はちゃんと倒せたみたいだな。

「あとは、お母さんを殺せばこの世界に死海文書を知る人はいなくなる。」

あ、冬月さんがまだいたか。
探して殺しておかないといけないな。
あ、お父さんの魂が肉体から分離した。
ちゃんと幽霊ではなく魂であれば良いのだが・・・・期待はできなさそうだ。

「最近、ネルフやゼーレを潰しているという人物はシンジだったの!?」

「そうだよ、お母さん。実行者を消すのが役目だから。」

「どこかの組織にでも入っているの?」

「まあ、入っていないこともないけど、主人からの命令だから組織、関係ないし。」

答えになってないような気が自分でもしているがそんなことはまあ、置いておいても大丈夫だろう。

「主人?」

「・・・・・・・・すみません、俺は碇シンジに転生しただけの、神の僕なんですよ。だから、神の言うことにはちゃんと従わなくてはいけなくて、ただ殺していくだけです。」

拒否は認められない。
なぜならば、この力と引き換えに失ったものがそれだからだ。

「それが運命だとでもいうの?」

「神が決めたことが運命ならそうなります。」

「運命は変えられないの?」

「運命を変えるのはあなた方です。俺にはその能力はもうありませんから。」

強くなるには犠牲が必要・・・・・・・・それは一定のキャパシティしかもたない個体の限界なのだ。
能力を全体的に上げてしまったためにほとんど全てを失い、動く人形みたいな存在になっている。
あまり面白いことではないがいまさらどうしようもないことだ。

「私なら変えられるの?」

「俺の手から逃れてってことですから、ほとんど不可能ですけどね。」

記憶操作で死海文書の部分を消したり、精神崩壊させたりすれば体だけは生きるだろうけど、それではあまり意味はないだろう。

「つまり、死ぬしかないと?」

「ご明察。」

「なぜ、なぜ、こんなことに・・・・・・・・」

「ちゃんとシンジを育てておけばよかったんだ。よその人に預けずに自分たちで理想の子供を。子供は多かれ少なかれ、どんなに反発しようとも親からの影響は避けられないものなんだから。」

こんな話をしてももう実行されることはないんだけど、言っておく必要はある。
転生してから少しは前世のことが影響するのだから、ここで後悔しといてくれれば次はもっとちゃんと子供を育てるだろう。
そんなやり取りをしていたら背後に気配を感じた。

「碇!!大変だ!!初号機が!!!」

冬月が慌てて入ってきた。
内線あったよな?何で使わないんだろう?

「初号機がどうしたんです?」

「ああ、シンジ君、いや、碇はしらん・・・・」

お父さんの死体に目がいったようだ。

「ちょうどよかった。冬月さんにも死んでもらわないといけないなって思ってたところだったので。」

「シンジ君、何を言っている?地下の初号機が勝手に動き出したのも君の仕業なのか?」

初号機が勝手に動き出した?
・・・・・・確かに大質量の物体が動いている気配はある。
・・・・・・・というか、"奴"が動かしているっぽい。

「ヤバ、先に動かれた!!」

熱量がドンドン高くなっている。
攻撃の兆候だ。
もう、二人を殺している暇は無い。
位置データを処理、交換場所確保、ディストーション。






炎の柱が現れて、ネルフ本部のピラミッドが完全に消滅していた。
ネルフを消滅する手間が省けたのは良いことだが、事後確認が苦しくなったのはあまり喜べない。
完全に可能性を摘むことが俺の使命といえるのだから。
まあ、そういう邪魔はしてくれるけど、完全な仕事の手助けはしてくれる。
そういう奴だ。
炎の柱の中から初号機が悠然と現れる。
ATフィールドでできていると思われる12枚の翼を生やしてなぜか悪魔のような印象を与えられる。
すぐに戦闘に入るだろうからこちらとしては気が抜けない。

(身体能力制御発動。身体能力、知覚速度40倍で定義。ラプラス起動。ドッペルゲンガー発動)

完全に接近タイプの魔法をセットする。

(前方に攻撃反応感知)

オレンジ色の刃がこちらに向かって飛んでくる。
それを冷静に見つめて夢界異邦人の能力を解放する。
ATフィールドは同調もしていない俺に何の影響ももたらさずに通りすぎていった。
心の壁など、心に進入する力を持っていれば関係は無くなるということだ。

「ソウル・ブラスト!」

光球をランダムにぶちまける。
これでも体積が違うから当たるというか、向こうは避けきれない。

(光速度、万有引力、プランク定数、取得。容量不足。ラプラス、ドッペルゲンガー強制終了。自己領域展開)

ソウル・ブラストで砂が舞い上がりちょうど良い目くらましになっている。
これに乗じて初号機の真上に移動する。

(自己領域終了。ドッペルゲンガー発動)

「フォルス・ヴェイパー!!」

風の最上級最高法術を発動。
真空を伴った高圧力の空気をぶつける。
フォルス・ヴェイパーの影響で、法力が届いていないはずの空気まで激しく変動するから扱いが難しい。
今も空気に流されて着地地点が変わってしまった。
体の大きさのせいで大きな力を使わないと倒せない。
だからといって内部からや間接的に倒すことは難しい。
強力な毒や精神的な攻撃はほぼ無効化されてしまうだろうから。
そういうものの抵抗力は無効もこちらも完璧に近い形で標準装備されているせいだ。
まあ、これが無いと異世界への干渉などやれたものではないが。

「ヴァイ・フレイム」

初号機から声が聞こえた。
呪文?
大きさの影響があるし、何よりこちらは40倍の速度で動いているため聞き取りづらかったが確かに初号機はそう言った。
精神世界から物質世界への働きがけが行われる。
防御!!!
視界が真っ赤に染まる。
法術はほとんどが自然界には影響が薄いため炎といっても温度上昇は一瞬で、法術の炎が消えると温度も正常に戻る。

「やってくれる。」

"奴"め、初号機を遠隔操作していると思っていたが、実際には初号機と融合していたんだな。
倒すことが困難になったのは気のせいか?そうか、気のせいか。

「来い!」

何を呼んだ?
だが、言葉と法術は直接関係はしていないから言葉に惑わされるとひどい目にあう。
実際に氷系の術と炎系の術の名前を反対に使うやからもいるほどだからな。
まあ、それでも法術の基本をしっかりして応用できるほどに使いこなさなければいけないが。
そんな警戒を無視して初号機が呼んだのは天井をぶち破って飛んできた二股の赤い槍だった。
どこかで見たことが・・・・・・・・・・頭の中を検索する。
I-ブレインのログに残っていた。
ロンギヌスの槍、人類保管計画の要。
アレも壊しておかなければならないものだったな。
探す手間が省けたし、素直に喜んでおくか。
初号機は手にしたばかりの槍を突き出してきた。
わざと回避行動をせずに騎士剣を突き出す。
切っ先と切っ先と触れ合い身体に負荷がかかる。
体が過負荷に耐えれなくなる寸前にその力を受け流す。
前の世界で黒衣の騎士が見せた技を真似してみたが、これを1キロもの巨人相手にやったんだからいいまだにまともにやり合って勝てる自信は無い。
まあ、それはさておきチャンス到来。

(身体能力、知覚速度を160倍で再定義。容量不足、ドッペルゲンガー強制終了)

決める!
気と呼ばれるものを騎士剣に込め法術で体の強化をできるだけ施す。
間に合うか?
まずは円を描くように騎士剣を振るうと簡単に槍の二又のうちの一つが折れた。
そのあと二又に分かれる部分に向けて飛び騎士剣を叩き付ける。
根元から槍が折られ原型が良くわからない程度にはバラバラにできた。
さらに初号機の喉元目掛けて飛ぶが、予想以上に初号機の動きが早く左肩口に剣撃を与えるだけに終わってしまった。
それでも身体能力制御無しで竜をも殺す封魔神剣という技を使ったために袈裟懸に一刀両断にできたのだが・・・・・・・甘かった。
着地と同時に当たるようにした土の壁が左側から飛んできていた。
着地と同時にちゃんとクリーンヒットされてしまった。
こちらもただ当たったのではなく騎士剣で防御したのだが、許容量以上の情報の波の中ではミスリルは簡単に腐食してしまう特性があるため、あまり衝撃を吸収しないままボロッと崩れてしまった。

(エラー発生、身体能力制御強制終了)

さらに、ただの土の壁ではなくちゃんと法術で保護されているから、ダイヤモンドなどよりも硬い物体にされていたりして抜け目が無かった。
左腕からピシッという嫌な音が届いて鋭い痛みがはしる。
回りの時間がドンドンと加速していく、身体能力制御が騎士剣を失って保てなくなってしまったためだ。

(自己領域展開)

土の壁を蹴って思いっきり飛ぶ。
見つかりにくいであろう森の中に身を隠す。

(I-ブレイン強制終了。3600秒間、魔法使用不可)

I-ブレインが使えなくなってしまった。
相手はまだ健在なのに・・・・・・・勝負を仕掛けて負けてしまったから仕様が無いことだろう。

















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