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「母さん・・・・・・・・・・・・・・・何のよう?」

本当に何しにきたんだ?

「シンジ?本当にシンジなの?」

「そうですよ。姿かたちは変わっちゃいましたけど間違いなく碇シンジ、あなたの子供ですよ。」

わざと距離を置く言葉遣いをして様子を見る。
何か打算的な何かがあって来たってわけではなさそうだけど・・・・・・・

「シンジ・・・・」

スっと自然な動きで抱きつかれた。
くらっときて頭が真っ白になっていく・・・・・でも、違和感が残っていてその部分が"違う"とボソっと呟いている。

「ここじゃなんだから部屋に入りませんか?」

こんなところでつったっておしゃべりする趣味なんてないよ。

「いいの?」

「あなたは僕のなんですか?親でしょ?親が自分の子供の下宿先をたずねるのに良いも悪いもないと思いますよ。」

親?違う・・・・・・・・僕の・・・・碇シンジの親に間違いないけど・・・・俺の親ではない・・・・・

「そうよね。」

何か複雑そうな顔をしてるね。
表情の裏を読み取れないこともないだろうけど、僕はわざとそれをしなかった。
相手の心情を読んでしまったら僕は僕を制御する自信がない。
碇シンジはうれしくてたまらないのに、僕の空白の部分が冷静に僕の感情を否定する。
きっと僕はもう碇シンジじゃないんだね。
母さんを部屋に招き入れる。
ダイビングに座ってもらう、レイもいる。
この二人って本当に似てるな。

「で?何のようなんですか?」

母さんはなぜかほうけたように部屋を見回している。

「母さん、聞こえてます?」

母さんはびっくりしたように僕を認識した。

「え?何?」

はぁ、っと少し沈んだ感情を吐き出すようにため息を出す。

「だからさ、何のようなんですか?暇なんですか?」

「用がなかったらきちゃ駄目なの?」

さっきからの小動物みたいなおどおどした様子はおさまって大人の人という感じで答える。

「別にいいと思いますけど、こっちはどうせ暇ですし。」

学校にいってないしね。
いっときの沈黙・・・・・・・・・・・・・・・
気まずい・・・・・本当に何しにきたんだろ?

「どうぞ。」

「ありがとう、レイ。」

何しているかと思えば紅茶を入れてたのか。
まあ、母さんもお客といえばお客か。

「レイちゃん、ありがとう。」

・・・・・・自分のコピーを見る気分ってどんな感じなんだろ?
そんなことを考えながら紅茶に口をつける。

「おいしい。」

あれ?こんなにおいしいものだっけ?

「・・・・ありがとう。」

レイがうれしさを隠したような声で答えた。
それにしてもなぜに背中越し?

「レイちゃんとうまくいってるの?」

ふいに母さんが口を開いたと思えばこんな内容だ。

「うん、レイの性格上うまくいかないってことは無いですよ。」

たぶん付き合っているとかの意味でうまくいってるかと聞いたんだろうけど、僕はわざと共同生活はうまくいっているかという意味に捉えて返した。

「ねぇ、子供が二人で生活するのって大変でしょう?一緒に住まない?」

「大丈夫ですよ。お金は寝る不からぼったくってますし、レイのおかげで家事も楽になってますから。」

なるほど、今日来たのは一緒に住もうっていいたかったのか。

「でも・・・・・・親子は一緒に住んだほうが自然だと思わない?」

「思いますけど・・・・・不自然に育ってきましたから・・・・・今さらですね。」

いわゆる遠い目というものをしてどこか向こぉぉぉぉぉぉぉぉぉのほうを眺める。

「今さら・・・・・そうね、今さらよね。」

一人のほうが楽だしねぇ。

「それじゃあ、エヴァンゲリオンに乗ってくれない?」

「何回も乗ってますよ。」

・・・・・・・・これが本命?

「そうね、でもパイロットじゃないから・・・・・・正式にチルドレンならない?」

「・・・・・なりません、どこかの組織に所属するのは好きじゃないんですよ。」

「母さんがいる組織でも?」

「はい、たとえ恋人が所属しているところでもいくつもりはありません。」

だいたい・・・・・・・親としてはもう失格なんだよ、あなたもあいつも。
・・・・・・・・駄目だ、思考が暗くなってきた。

「じゃあ、一緒に住むか所属するかどっちか選んでっていったら?」

「どっちもいやです。」

「シンジは意外とわがままなのね。」

「わがままを言ってるのは母さんですよ。僕はただ頑固なだけですから。」

あまえることはしない。
あまえたらあまえるだけ苦しくなるってわかってるから。

「わかったわ。母さんは忙しいからもうネルフにいくけど・・・・・・会いたくなったらいつでもきてね。」

「会いたくなったら勝手にいきますよ。」

「レイちゃん、シンジをよろしくね。」

「はい。」

・・・・・・・・・帰ったか。

「はああああぁぁぁぁぁ。」

ため息が出る。
疲れる。
どうしてみんな僕をエヴァンゲリオンに乗せたがるんだろう?

「疲れたの?」

レイが多少心配そうに僕の顔を覗き込む。

「まあね・・・・・・・・・・来てくれて嬉しくないわけじゃないけど、僕の味方というわけじゃなさそうだから・・・・・正直つらい。」

やさしくするくせに向こうよりなんだから・・・・・・反応に困る。

「私は、碇君の味方なの?」

「それは君が決めてよ。」

「自分で?」

「そう、自分の意志で決めるんだ。」

「・・・・・・・・・・・」

「とりあえず僕は敵じゃないと認識してるけどね。」

「敵じゃない?」

「そう、位置付けでいえば信用はできないけど、安心はできる相手ってところかな。」

「どういうこと?」

「君は裏切らないって思ってるってこと。」

「・・・・・・・・・・・」

「敵になるときはちゃんと言いそうだしね、つまりそういうこと。」

「私がシンジ君の敵になるの?」

「ありえない話ではないでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

レイにしては珍しい泣きそうな顔をして僕を見つめている。
何か問題発言でもしちゃったかな?

「ならない・・・・」

「え?」

「私はシンジ君の敵には絶対にならない。」

レイの口調はいつもキッパリとしているが、今まで以上にきっぱりと言い切る。

「父さんの命令でも?」

「あ・・・・・・・」

やっぱり父さんの命令には逆らえないんだね。
レイにとって碇ゲンドウという人物は絶対なんだろう。

「いいんだよ、敵になってもさ、利害が一致しなかったら敵になるしかないだろ?」

「・・・・・でも、それでも・・・・・敵にはならない。」

うつむきながらもしっかりとした声で僕の敵にはならないと宣言する。
でも、人間は変わっていくものだからここでそう宣言されても信じるわけにはいかない。

「わかったよ。」

できるだけ、やさしく答える。
たぶん、安心したのであろうレイは必死な表情を緩めたが、まだ表情がかたい。

「あの・・・・・明日から二日ネルフの診断があるの・・・・・いっていい?」

「レイが決めたことだったらいいよ、行っておいで。」

レイは心のそこからほっとした表情になった。
僕が何か言うと思ったのかな?







翌日、アスカが訪ねてきた。
昨日は母さんで今日はアスカか、僕って人気があるのかな?

「珍しいね、アスカが僕の部屋に訪ねてくるなんてさ。」

茶化してみるがアスカは厳しい顔つきのままで僕をにらみつけている。
レイがいないのがちょっと救いかも・・・・・だって対立するし。

「一昨日の使徒ってエヴァだったって知ってる?」

アスカは意を決したようにそんなことを口走る。

「一応ね、エヴァに似てるなぁって言ったら今はエヴァではないって言われたから、それが何?」

「そのエヴァの中にパイロットが乗ってたのは知ってる?」

「うん、パイロットごと殺せって言う命令だったしね。」

「・・・・・・・命令だったら何だってするの?」

「まさか、自分が危険になってまで命令に従う義務はないよ。」

ことと場合によりけりだけどね。

「・・・・・・パイロットが知り合いとわかっててもできる?」

「知り合いでも僕の敵になるんだったら殺すよ。」

僕は基本的に自分至上主義だからね。

「シンジ、参号機に乗ってたパイロットってね、鈴原トウジだったのよ。」

あ〜〜〜、アレにはトウジが乗ってたのか。

「だから何?」

「あんたは友達を殺したのよ!!だから何?わないでしょ!!!!」

うるさいなぁ。

「だからどうしたの?友達を殺したからってこれから何が変わるの?後悔してトウジが生き返るの?」

「あんたの腕だったら助けることもできるじゃない!」

そこかアスカが引っかかってたところは。

「できたよ、父さんが余計なことをしなければね。」

「余計なこと?」

僕がまいたえさにさっそく食いつくアスカ。

「オートパイロットシステムの実験を実践中にしてさ、僕もあやうく死ぬところだったんだよ。」

「オートパイロットシステム?」

「どういう原理かはネルフの人に聞いてね、それとオートパイロットシステムって名前じゃない可能性もあるからそのへんはよろしく。」

少しパニクったからよくわかってないんだよね。

「それでも、あんたなら何とかできたでしょ?」

「しつこいね、僕は完全じゃないの、人は完全にはなれないの、自分の命か他人の命かって聞かれたら僕は迷わず自分の命をとるよ。」

死ぬのは怖くないけど、自分から死を選べるほど強くも無い。
それが碇シンジという人間だ。

「他人のために生きるとか言っておいて・・・・」

「自分のためにしか生きれない、それが真実、だから自分が気持ちよくなるように生きていくんだよ、他人のためになることをするのはあくまで自分のため、そう考えないと苦しくなる。」

守っても、その守った相手から迫害される。
それは普通のこと、だけど、悲しいこと。

「それにトウジもトウジなりの考えがあってエヴァなんかに乗ったんだ、どういう理由かはわからないけど、命を賭ける戦闘兵器だって知ってて乗ったんだからそこで命を落としてもしょうがないことだよ。」

そこまで言い終えると僕はアスカを見据えてきめ台詞を口にする。

「もちろん君も、僕もね。」

アスカが息を呑むのがわかった。
自分だけは大丈夫、自分が死ぬはずが無い、人はそういう錯覚を持って生きている。
しかし、人は簡単に死ぬ、たやすく壊れてしまう、それが現実。

「僕たちがやってることって殺し合いだよ。そこは間違えちゃいけない。」

「でも、相手は使徒。」

「使徒に殺されるのと人に殺されるのはどう違う?同じだよ、結局は死ぬんだから。」

アスカは自分の意見を否定されてひどくご機嫌斜めになったらしく振り返って走って出て行った。
・・・・・・・・僕は別に殺したいわけではなんだけどね。
うまく生きれないのは良くわかっているつもりだけどさ。















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