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「あなたは・・・・・・・誰?」

白髪に白眼、黄色っぽい光をまとい、四枚の羽をもつ天使のようなものに問いかける。

”俺は君だよ”

「あなたが・・・・・・・僕?」

”そう”

「じゃあ、僕が記憶が無いことも知ってるの?」

”知っている。理由もね”

「なんで昔のことを忘れちゃったのかな?」

”つらいからだよ。とてもね”

「今もつらいよ。」

”今よりももっと・・・・・ね・・・・・・一時、そのつらさから逃げるために記憶を封じてるんだよ”

「僕は自分から逃げるほど、愚かではないよ。」

”わかってる?君はそんなに強くは無いよ”

「・・・・・・そうかもね。」

”今を楽しめよ。それが良いことなんだから”

「そうかもしれない、でも、記憶が無いと楽しめないよ。」

”それを決めるのは君、だけど、覚えておいて、記憶が戻るということは、君が君じゃなくなるってことだよ”

「僕が碇シンジじゃなくなるってこと?」

”そう”

「僕は碇シンジじゃないの?」

”碇シンジだよ。でも、他の人でもある”

「他の人?」

”時が来れば嫌でも思い出すよ。だから今は碇シンジとして生きていればいい”

「・・・・・・・・・・・・・時がくれば・・・・・・か・・・・・・・」

”がんばれ”

「ありがと・・・・・・・でも、もう碇シンジじゃない気がする。」

”俺の影響かもね、芯の部分に俺がいるからおのずと影響をうけるんだろう”

「そんなものなの?」

”そんなものだよ・・・・・・・・・やっとおでましか・・・・・”

「何がきたの?」

”すぐにわかるよ”

闇の世界がふっと明るくなった。
見渡してみる・・・・・海に島・・・・・・・・木の下には男の人と女の人・・・・そして赤ちゃん・・・・・・

「セカンド・インパクトの後をいきていくのか、この子は・・・・この地獄に・・・・・・」

お父さん・・・・かな?

「いいえ、生きていこうと思えばどこだって天国になるわ。だって生きてるんですもの、幸せになるチャンスはどこにでもあるわ。」

天国にするんだよね。

「そうか・・・・・・そうだな・・・・」

赤ちゃんは僕で抱いてる人はお母さんだね。
なんとなくわかる。

「シンジ。」

お母さんが僕に向かって話しかけてきた。

「いいのよ、こちらに来ても・・・・・・・・足が動かないの?それともあなたが行きたいのは私のところではなく、あなたの後ろに無限に広がる海の向こうなのかしら。」

後ろを振り向くと向こう側がみえない・・・・・・確かに無限を連想させられる。

「あなたがどこに行こうと私はいつもあなたをみてるわ。自分の進む道はあなたが自分で決めるのよ。」

やさしく、包まれるような声。
レイと同じような声の質なのに、こんなにも違ってきこえるものなんだ・・・・・・・

「わかってる・・・・・・・・僕の行動は僕が決めるよ。」

ゆっくりと確実にお母さんのほうへと足を運ぶ。

「私のところでいいのね?」

お母さんがあくまでもやさしく問いかけてくる。

「僕は僕のためにしか動かないよ。」

ニッコリと笑いかけてお母さんに抱きつく。
意識を肉体のほうへと向ける・・・・・・って!反応が無い?
少々呆然としてしまったけど、ないものはしょうがないので新しく作り出すことにしよう。

「一緒に行こう♪」

「え?」

次の瞬間ガラスが割れたみたいに世界が壊れた。
情報にもとづいて体を構築!!!
出口は・・・・・・・・・・・・あっちかな?
移動を開始すると碇シンジとしての記憶が蘇ってきた。
悲しみ、諦め、切望、勇気、偽り、いつも最後には諦めるしかなかった僕・・・・・・・・・・思い出したかった記憶が今、戻った。








「あれ?」

いつの間にか脱出が成功していたようだ。
腕の中にはなぜか母さんがいる・・・・・・・・眠っているみたいだ。

「葛城さん・・・・・・・・何してるの?」

あれ?僕の声が変わってる・・・・・・・・・・・・・・・・・
レイ?
近くにレイがいる・・・・・・・・わかる・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・誰?」

「シンジですよ。それよりも、服ないですか?この人の分と僕の分、あ、僕の分は更衣室にあるんでしたっけ?持ってきてもらえますか?」

なぜか葛城さんは思考停止しているようでボケぇ〜〜〜〜っとしてるのでこの際無視しよう。
それにしても感覚が敏感になってる・・・・・・・・世界の色が違う・・・・いままで見えていなかった小さな色の違いを見分けているように思える。
聴覚もするどいのかこの部屋の大体のことが聞こえてくる。
触覚も良いのか視線ですら感じ取れる。
これはもう、知覚範囲と呼ばれるものがとてつもなく広くなったといえるかもしれないね。
しばらく自分の感覚を確かめるように意識を集中してなれるようにする。
それをすまして更衣室に向けて歩く。
あれ?誰かくる?

「赤木さん・・・・・・・・・・・」

なんだろう?母さんを見た瞬間に嫉妬みたいな匂いが・・・・・・・・・・・・

「シンジ君?」

確かめるような声色だね。

「そうですよ、それよりも白衣貸してくれませんか?母さんに何か着せないと。」

「シンジ君、私が運んであげましょうか?」

「どうも。」

僕は母さんを赤木さんに渡して更衣室に向かう。
隣のマヤさんはなぜか顔を赤くしてたけど、何かあったのかな?







「お帰り、遅かったね。」

「シンジ・・・君?」

家に帰ってきたレイはなぜかよそよそしくしている。

「何をそんなにオロオロしてるの?」

「・・・・・雰囲気が違うから・・・・」

「そうなの?あんまりわからないな。」

あの闇の中で僕とであったから変わったのかな?

「髪・・・・・白い・・・・・・」

「え?」

かみがしろい?

「紙は白いのが当たり前じゃないの?」

色がついてるのはなんとなく色紙とか思い浮かべちゃうし。

「違う、髪の毛が白くなってる。」

はい?

「髪の毛?僕の?」

洗面所に入って鏡を見てみる。
確かに真っ白だ。
闇の中でであった自分と瓜二つの顔をしている自分がいる。
白い髪の毛、白い瞳、普通の白い瞳というのは失明したときくらいのもののはずなにのに・・・・・・
髪の毛にいたってもレイみたいに瞳が赤くないのでアルビノというわけではないだろうけど真っ白だ。

「本当に真っ白だね、しかもちょっと顔も変わってるみたいだし。」

「でも、良かった。」

え?話がつながってないよぉ。

「何が?」

「シンジ君がエヴァから帰ってこれて。」

「・・・・・・・・・・は?僕ってエヴァに取り込まれでもしてたの?」

「そう、知らなかったの?」

「全然知らなかった・・・・・・・・・・・・・・・」

取り込まれた・・・・・・正確には自分から入り込んだんだよね。
まさか自分の体ごとエヴァの中に入っていたとは思ってなかったけど。

「一ヶ月もとりこまれてたのに?」

「え?一ヶ月も?」

「本当に気づいてないのね。」

「まあ、自覚症状は無いからね。」

「でも、本当によかった・・・・」

何かやさしい匂いがする。

「何がよかったの?」

「・・・・・シンジ君が帰ってきてくれて・・・・・・・」

帰ってきて『くれて』?

「そう、ありがとう♪心配してくれてたんだね。」

レイが真っ赤になってうつむいてしまった。
僕の好きな匂いが増す。
可愛い♪
・・・・・・・・・って!匂い?

「レイ、何かにおわない?」

「いえ、何も臭わないわ。」

そっか、そうだね、僕も前は匂わなかったし・・・・・ということは今だから匂うのかな?
碇シンジとはどうみても違う身体。
なぜこうなったんだろう?
母さんもどこか違うのかな?
そんなことを考えているとレイがどうしたの?っというように僕の顔を観察していた。

「気にしなくていいよ、僕の勘違いだったみたいだから。」

「そう。」

レイはそれになった得したのか普段に戻った。
それにしても、僕が動揺してるな。
僕の体はみためだけじゃなくて機能も大幅に変わってしまったようだ。
早く把握しなきゃ・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、聞くの忘れてたんだけど、ちゃんとこの部屋は暖かい?変化が無いならここへよんだ意味ないし、聞かなくちゃと思ってたんだ。」

「変わらなかったわ。」

「そう。」

僕としてはちょっと残念かな。

「暖かいのはシンジ君だから・・・・・・・・・・この部屋にいてもシンジ君がいないと意味がないの。」

「僕が暖かいの?」

体温は高いほうなのかな?

「・・・・・・・・・・・うん・・・・・」

赤くなってる。
こういう顔見るのってなんだかいい♪

「そう。」

僕は唐突にレイを抱きしめた。

「レイ、暖かい?」

僕としてはレイのほうが暖かいんだけどね♪

「・・・・・・・・・・・・・・・うん。」

この匂いが好き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何かを思い出しそうになる。

「お風呂入れといて、入ったら先に寝てていいから。」

僕はレイを離して騎士剣を持ち外に出て剣を振る。
重さを正確に把握できる。
それでいて剣に振り回されることなく振るえる。
この体で騎士剣を使うのは容易なことだと感じる。
そればかりかなんとなく役不足ではないかとも思う。
ようはものたりない。
僕が剣を振っていたらレイがみに来ていた。

「お風呂は?」

「いれてるわ。」

「あふれさせないでよ。」

「わかってる。」

もしかしたら・・・・・・・・・・・・・・・平穏を幸せと感じるのが僕なのかもしれない。
記憶を取り戻したら平穏じゃなくなる・・・・・・だから記憶を封印した・・・・・だとしたら自分からかかわらない限り平穏は続く?
やめよう、ただの想像だ、考える材料が少なすぎる。
・・・・・・・・・・・・・・・前の体のときの意識が強いのか?同じように動いてしまう。
この体はもっと、もっと速いはずだ。
・・・・・・・・・・・・・・なんで僕はこんなことをしてるんだ?
ふと、疑問に思ってしまった。
なぜ僕は自分を鍛える?
なぜ僕は自分を知ろうとする?
なぜ僕は周りを見ようとする?
なぜ僕は生きようとしない?
いくつものなぜは僕の胸の中に蓄積される。
これから僕は・・・・・・・・・・・・・どう動きたいんだ?












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