35



加持さんと交渉が成立してから二日後戸籍ができてこの街から明日マナたちが旅立つ。
加持さんいわく死んだ人間がこの街でうろうろしてちゃまずいだろということだった。
本当は今日行っても良かったらしいんだけど別れを惜しむ時間を与えたいらしい。
余計なお世話もいいところなんだけどね。
ムサシ君にはにらまれっぱなしだし。

「明日、お別れなんだね。」

なぜか今日はムサシが大人しい、いつもなら横槍をすかさず入れるのに。

「でも、生きてる、永遠の別れじゃないよ、会おうと思えばいつでも会える。」

「でも、会うと迷惑かけちゃうね。」

「誰が迷惑?」

「シンジ君が・・・・・・・たくさんの人に疎まれちゃう。」

「僕は迷惑じゃないけどね。」

「私、遠い町で一人で生きてく。」

「おいおいおいおいおいおい!ムサシ君は?彼も一緒に行くんだよ?なぜ一人?」

「親友っていっても、ずっと一緒にいれるわけじゃないもん、やっぱり一人よ。」

それもそうかな?

「人は一人で生きていくもの・・・・か、でも、生きていたら誰かとはかかわるものだから、一人と思っていても案外一人じゃないことも多いんだよ。」

一人で泣いていたって、そのことを知っててくれる人がいるだけで楽になれるらしいし。

「そうかもしれない・・・・けど、やっぱり寂しいと思う。」

マナは何かをつぶやいたけど、僕の耳には届かなかった。

「明日の出発には見送りはいらないから。」

「いいの?」

「つらくなっちゃうから・・・・・・・」

「わかった。」

もう、寝る時間だね。
僕が席を立って部屋に入ろうとしたらマナに抱きつかれて進めなくなった。

「好きだよ。」

振り返った僕にそういって唇を重ねるマナ。
キスって結構・・・・・・いや、なんでもない。
自分をすこしごまかして離れた唇を今度は僕から軽く重ねる。

「おやすみ。」

そして自分の部屋に入った。
もう、マナと会うことは無いかもしれないな。
漠然と僕の胸にはそんな思いが残っていた。





4時ごろにマナは僕の寝室に入ってきて別れを言って出て行った。
僕は気づいていたけど、わざと起きずに寝たフリをした。
あっちはもう区切りをつけて僕とは会わないと決めたみたいだからそれを尊重しただけなんだけどね。
まあ今は、加持さんとの交渉の時の約束を果たすためにとってくるデータはどんなのですか?とたずねにきている。

「データはゼーレという組織に関してのものがほしいんだ。」

「わかりました。」

ゼーレね・・・・・・・・・・・面倒くさいなぁ。

「それよりシンジ君、彼女のことどう思ってたんだい?」

「彼女って?」

いきなり何を?

「マナちゃんのことだよ、付き合ってたんだろ?」

「付き合ってた?マナと?本気ですか?」

驚きだ、ただただ、驚きだ。

「あれ?仲良かったんじゃなかったのかい?デートしたり、好きだって告白もされたんだろ?」

「良く知ってますね、確かにデートしましたし、好きだとも言われましたけど、付き合ったわけじゃないですよ。」

「断ったのかい?}

「僕のことを好きになる人なんているわけ無いじゃないですか。」

自分のこともわからないやつが他人に好きになってもらえるとは思えない。

「少なくともマナちゃんは好きだったはずだぞ。実はなネルフのほうでシンジ君のそばにいる方法としてシンジ君のことを調べること・・・・・・スパイだな、そういうことを提案されたんだが、マナちゃんはシンジ君の敵になりたくないといって断ったんだぞ。」

「僕のことを好きじゃないからそばにいるのは不都合だっただけじゃないんですか?」

「シンジ君はマナちゃんのことをなんとも思ってなかったのかい?」

「マナには感謝しています。」

「感謝?」

「いろいろ役に立ってくれたんで。」

「だから助けたのかい?」

「はい、僕が僕であるために・・・・・・・僕が碇シンジあることを、その自信をくれましたから。」

「どういうことだい?」

「わからなかったらいいです。」

「つれないなぁ。」

「それより、少し旅にでる予定があるんですよ、それまでにデータのほうを何とかしときますね。」

「旅をするのかい?君がこの第3東京を出るのは好ましくないんだがなぁ。」

「自分の身は自分で守れますから大丈夫ですよ。」

「君は大丈夫でも、使徒に襲ってこられたらどうするんだい?」

「それこそ大丈夫でしょう?アスカもレイもいるんですから。」

「その二人よりも戦闘能力が高いのは他でもないシンジ君なんだがな。」

「僕はあくまでも一般人ですから戦う理由はないはずですよ。」

「君はエヴァに乗れる。それじゃあ理由にはならないのかい?」

「なりません。迷惑な話です。人に押し付けられた戦いの場なんて僕にとってはなんの魅力もありません。」

戦いは自分で選ばないと意味がうまれないからね。
加持さんの顔には魅力って・・・・(汗)って感じの表情が浮かんでいる。
上を向く、天井が見えたが、意識は外の空に向ける。

「僕は僕でいたいんです。誰の道具でもない、僕という存在でいたいんです。だから、仕組まれた戦場に出る気はありません。ちゃんと自分から動きたいんです。」

加持さんを見る。
相変わらず推し量るような目をしている。
僕は何も隠してないのに。

「そうか、ところで旅ってどこに行くんだい?」

「とりあえず北へ行こうと思ってます。」

「北へ?」

「前は西に行ったので今回は北です。」

「ほう、深い意味はないんだね。」

「そうですね。」

「マナちゃんの住所をいっておこうか?」

「会いたくなったら来るでしょうからいいです。僕からはいきません。」

会う理由は無い。
もう充分にもらったから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そうか、でも、行ってあげてもいいと思うぞ。」

「気が向いたら行くってことでいいですか?」

「住所もきかずにか?」

「住所、教えてくれないんでしょ?」

「まいったな。」

適当に言ったのに図星だったようだ。

「適当にさまよって会ったら会ったでいいですし、会えなくても別にいいです。」

「そうか、それじゃあ、俺は仕事に戻るとするか。」

「じゃあ、僕もお仕事しますか♪」

加持さんとの交渉が無事に終わって一息ってところかな?
・・・・・・・・・・・・・・とりあえず最終の目的地だけ決めておくか。
北といえば北海道・・・・・・・北海道といえば・・・・・・摩周湖・・・・・かな?
一番綺麗な湖って興味あるし。
・・・・・・・・・・図書室で調べていくか・・・・・・・・・・・




「マヤさん、お久しぶりです。」

ネルフの作戦司令室に来るのも久しぶりだなあ。

「あ、葛城さんも僕のお守りですか?」

僕が来ているのをどこで聞いたのか葛城さんも来ていた。

「そう、シンジ君の興味のあることに興味があってね。」

さいですか。
とりあえず葛城さんを無視して僕のデータを見てチルドレンの適正のデータを見てから加持さんの依頼のデータを観覧する。

「あの、CDか何かにデータを入れて持ってかえりたいんですけどいいですか?」

「持ち出しは駄目よ。」

葛城さんが即答してこの案はボツ、仕方ないI-ブレインに記憶していくしかないかな。

「あなたがチルドレンになってくれたら別にいいけどね。」

とんでもなく無茶を言う人だね。

「嫌です、あきらめます。」

まだチルドレンにすることをあきらめてなかったんだ。
案外しぶとい人だね。

「言うと思ったわ。それじゃあ、今後一回分の出撃ってことで手を打たない?」

「それは妥当ですね、いいですよ。」

それでレポートを作成する手間を省けるならいい。
でも、葛城さんはまるでこういう事態になることを予想していたようだ。
加持さんが何か吹き込んだのかな?
まあいいや。

「マヤ!こんなところにいたの?」

あ、赤木さん登場だ。

「先輩、どうしたんですか?」

「どうしたじゃないわよ、もう実験が始まるわよ。」

「もうそんな時間なんですか?すぐに行きます。」

マヤさんはデータを入れたCDを僕に渡してくれて外に出て行った。

「シンジ君、ちょっと見学していかない?」

???????????

「何をですか?」

「どんな実験をしているのか見てくれないかしら?ちゃんと人道的なことをしているってわかってほしいから。」

なるほど、こんな実験だよって見せることで僕に実験に協力してほしいわけだ。

「見るだけならいいですよ。」

データをもらった手前、断ると回収されかねないからね。

「ならついてきて。」

僕は赤木さんに言われたとおり後ろをついて歩く。
気持ち悪い巨人のいる部屋に来た。

『ほぉら、お望みの姿になったわよ、十七回も垢を落とされてね』

アスカの声だ。
どんな実験をしているのかは知らないけど不満たらたらだね。

「では二人ともその部屋を出て、その姿のままエントリープラグに入ってちょうだい。」

「えーーーー!」

お望みの姿ってなんだろう?

「大丈夫、映像モニターは切ってあるから、プライバシーは保護してあるから。」

プライバシーにかかわることですか?

『そういう問題じゃないでしょう!気持ちの問題よ!』

「このテストはプラグスーツの補助無しに直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ。」

直接ってことは・・・・・・・・・・・裸ってこと?

「アスカ、命令よ。」

『もー!、絶対見ないでよ!』

『行きましょう』

レイもアスカも大変だね。
それ以上にマヤさんも大変そう。
この中で見学の僕を除くと葛城さんが暇そう。
次に赤木さんが暇そうな感じがするのはなぜだろう?
そのあともボーーーーッと眺めていた。
ふわあああああああ、つまんないの、やっぱり実験なんてでないほうがいいね。




・・・・・・・・・・・・・・・少し寝ちゃったみたいだね。
モニターには三つの名前と二色に色分けされた図形みたいなものが映っていた。
なんの実験やってるんだろう?

「どのくらい持つ?」

あ、冬月さんだ、久しぶりだね。

「二時間くらいかと。」

赤木さんが答えた。
あと二時間くらいはかかるってことかな?

「・・・・・・・・・・・・・・・・マギが敵に回るとはな。」

マギが敵に回るって?ここのコンピューターが敵に?・・・・・・・・・つまりのっとられたって事?って、お父さんいたの?全然気がつかなかったよ。

「コンピューター戦なら手伝いますよ。」

世界最高峰のコンピューターをのっとるプログラムにはちょっと興味ある。
僕は赤木さんに助け舟を出すことにした。

「あら?あなたコンピューターは使えるの?」

「電脳戦なら負けることはまず無いですよ。」

I-ブレインを扱っている手前、プログラムには強いみたいだし。

「できるの?」

「直接あいつと戦えるコンピューターにこいつを接続したら解決してみせますよ。」

僕は持ってきていたかばんからミスリルでできたボードヒラヒラと見せびらかせて言う。

「それは?」

「僕専用のキーボードと思ってください。」

「いいわ、ついてきなさい。」

お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
素人にはうんぬんとか言って駄目なのかと思ったよ。
赤木さんは小さい扉を開いて入っていく、僕も入る、後ろからマヤさんも入ってきた。

「ここからアクセスできるわ。」

赤木さんが示したところに接続する。
赤木さんは別のところに接続した。

「あなたが駄目だった場合私がしなきゃいけないから。」

フォローとも聞こえることを言っていただいた。
さてさて、僕はコイツの相手でもしてますか。

(異邦人起動。リンク徴収、インプリュード発動。)

ボードの上に手を置き魔法、異邦人を起動させ、目を閉じる。
体が抜け殻になって精神が本体に変化し、情報世界に侵入する。
I-ブレインを頼りにしている僕は情報世界にいる限りは無敵といっていい。
そう、敵が僕のI-ブレインを超える処理能力を持っていない限りは。
敵と思われるプログラム発見、生物っぽいなあ。
それが僕の感想、それはともかく攻撃を開始する。
基本的なウイルスを作成一瞬で完成、ここで違和感。

「あ、加速してないや。」

ウイルスをぶつけて魔法を追加する。

(ラグランジュ起動。知覚倍率を80倍に設定)

身体能力制御の劣化版を起動する。
加速の風圧や重圧や慣性など肉体を破壊するもの全てから保護もつとめる身体能力制御に比べてラグランジュは高い数値を設定できるが限界を超えると肉体が壊れてしまうのが困りものだ。
だいたい、肉体は5倍ほどが限界でそれ以上が無理だ。

「これで完璧かな?」

即座にプログラムを構築する。
もう、さっき放ったプログラムは簡単なものだったせいかもう壊れかけている。
体感にして5秒で新しいプログラムが完成する。
放つつまた新しいプログラムを構築する。
少しづつ高度なプログラムに変えていく。
相手も少しづつ後退はしているがほとんど後ろにさがってはいない。
このプログラムって進化しているみたいな印象を受ける。

「でも、もうそろそろ限界かな?」

ウイルスを与えすぎたせいでもうほとんどきかなくなってしまったけど、その分進行するというプログラムがなくなってしまっていた。
ウイルス駆除に進化しすぎて本来の乗っ取りのプログラムが残ってない。
コイツ全体をスキャンして問題が少しでもあると思ったところは力をねじ伏せる。
最終確認をして体に精神体をもどす。

「ふう、終わりましたよ。どうですか?」

(ラグランジュ、異邦人終了)

「終わったの?確かに進行は止まってるけど・・・・・・・」

「いやあ、ウイルスを与えすぎたら高度なウイルスバスターになっちゃって、もうハッキングツールとしての能力は無いはずですけど?」

これは確信、同じ科学神の産物だからね。
・・・・・・・・・・・・科学神?なんだそれ?

「いらないんでしたらデリートで消し去れますよ。ちょっともったいない気もしますけど。」

「・・・・・・・・・・・・・わかったわ。」

ふぅ、ちょっと面白かったけど疲れたなあ。






[34][index S] [36]