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僕は今、自分の部屋に戻って小手と剣とナイフを装備して屋上に出ている。
この装備をするために揃えた青い服と装飾品を付けて空を眺めている。
腰にナイフを二本ぶら下げ、騎士剣の先を地面に付けて支えるようにして、小手は服の上につけている。
使徒は空から降ってくる、幸い今日は快晴で雲ひとつ無いという表現が当てはまる。
自分の肉眼では使徒を捕らえることはできない。
だが、自分では知覚できないものでもI-ブレインなら知覚できる。
ラプラスと予測演算をフル回転させて目に映る情報から使徒の落下地点をはじき出す。
じっと待つ・・・・・何時間もたったように感じる。

(予測演算成功)

頭の中でここから約13k離れたところに19秒後に到着することが表示される。
すぐさま落下地点の情報を記憶し戦闘モードに入る。

(ラプラス終了。光速度、万有引力、プランク定数、取得。自己領域展開)

騎士剣をしっかりと握り論理回路を発動させる。
騎士剣が嘘のように軽くなり淡く発光する。

(身体能力制御発動。運動速度、知覚速度40倍で定義)

騎士剣の能力を使って運動能力を引き上げる
周りの時間を遅くし、さらに自分の速度を速くする。
この状態で目的地に向かう。
運動能力の上昇になれていなくて何度かビルにぶつかりそうになる。
騎士剣を手にしたなら普段の感覚は全て捨てろ!
漆黒の騎士の助言を思い出した。
運動能力の上昇に乗るように感覚もそれに合わせて肥大させ、無駄な力を省く。
爽快に走ることができるようになった。
邪魔なビルもジャンプするだけで跳び超えられる。
途中でジャンプするのが面倒臭くなってビルからビルに飛び移りながら移動したけど。
そうこうして目的の場所につく。
上を見ると使徒の予測した起動が表示される。
重力剣を抜き構える。

「君は僕の敵なのか?」

意味の無いことを口にしてしまった。

(自己領域終了。グリューナグ発動。運動速度40倍、知覚速度60倍で再定義)

レイが感情を覚えていくのを見るのも良い。
アスカが何やらにぎやかに感情を起伏させてるのも面白い。
クラスメートの敬遠と畏怖と慕われもなかなかのものだ。
なにより、僕自身のことを僕自身が知りたいと思った。

「だから・・・・・・・・・・・・危険因子の君は邪魔なんだ・・・・・・・・・消えてね。」

重力剣を使徒に当てるための最良の投げ方と最良の力の入れ方が表示され、その通りに体を動かす。
重力剣を投げる。
僕の手から離れた瞬間グリューナグの影響を受けて情報強化され本来の重力を無視して進行方向に毎秒3倍の重力を受けつつ加速して空気抵抗による摩擦で焼けることなく進む。
重力剣の論理回路も発動していて、あらゆる抵抗を無視し直進する。
目標が遠ければ遠いほど威力を上昇させていく僕の最強の遠距離攻撃。
命中率はI-ブレインのサポートを受けて意外なほどに高い。
投げ終わった後、少しして爆発を確認した。
重力剣に刻まれているもう一つの論理回路の能力で目標に当たったから局所的核爆発が発動したようだ。
核爆発を起こした後、重力剣の原子は汚染物質ごと消失する。
ゆっくりと爆発が大きくなっていく、ここまで影響がきそうだ。

(アインシュタイン起動。容量不足、グリューナグ、身体能力制御強制終了。空間曲率制御開始。次元回廊発動)

次元回廊を盾にして爆発をやり過ごす。
周りを見渡すと零号機が知覚できるくらい近くに来ていた。
あと数秒でここまでこれる距離だね。
みつかったらちょっとまずいよね?

(アインシュタイン終了。自己領域展開)

とりあえず自分の部屋へ戻ろう。






「おはよう、僕が生きてるってことは殲滅に成功したみたいだね。」

朝、登校してきたアスカに声をかけた。

「当然よ。」

何が気に入らないのかそっけなく流された。
てっきりあんたなんていなくても倒せるとか啖呵を切ってくれると思ったのに。
あ、レイだ。

「おはよう、昨日はお疲れ様。」

「・・・・・おはよう。」

何か僕にだけ反応鈍いね。
他の人たちとは普通に話せてるのにさ。
一応指導したのは僕なんだけど。
それにしてもどちらもあんまりいい反応見せてくれなかったな。
二人とも、思うところがあるんだろうけどね。
・・・・・どちらにせよ、僕には関係ないか・・・・・・





「シンジ、ちょっと屋上に来てくれない?」

弁当を開けようとしたところにアスカが声をかけてきた。

「別にけど、お弁当もっていっていい?」

口調は完全に馬鹿にしているように聞こえなくも無い。

「じゃあ、待ってるから。」

そういい残すとスタスタと行ってしまった。
教室じゃ駄目なのかな?
弁当を持ってすぐに後を追う。
屋上に来たら、アスカが何やら心の準備をしているようだ。

「で、用事は何?」

まだ後ろを向いているアスカに声をかける。
アスカはまだ僕が来ていないと思っていたのか、ビクっと体をはねさせたがすぐに普通に戻る。

「ちょっと聞きたいことがあったの。」

「あんまり難しいことは聞かないでね。」

頭はあまり良いほうではないんだよ・・・・多分ね。

「なんで昨日エヴァに乗ることを拒否したのよ。」

なぜか攻められているみたいだ。

「なんでって?乗りたくないから乗らなかった。それだけの理由では不足?」

「それが納得できないのよ!あんた言ったわよね?自分を必要としてくれるならそのために生きるのもいいって!」

あ〜〜〜、アレのことね。

「確かに言ったね。それで?」

「それでって・・・・必要とされたでしょ!なんで乗らなかったのよ!」

だってアレって、僕のことじゃないし。

「何か不都合はあった?零号機はレイ、弐号機はアスカ、初号機は修理中、僕は邪魔なだけでしょ?」

「なんでよ?」

「レイもアスカもエヴァンゲリオンに乗りたいんでしょ?レイは命令だからって言うだろうけど、望んで乗っているのは変わりないからね。」

「私たちのために乗らなかったって言いたいの?」

そんなことはないよ。

「あくまで自分のためだから気にしなくていいよ。」

ところでレイとかクラスの女子とかが盗み聞きしてるのはどうにかならないかな?

「そう、そういうならそれでもいいわ。」

お?納得したの?経済的だなー・・・・何がだろ?

「でもね、聞かせて、シンジの守りたいものって何?シンジは何のために戦うの?シンジのしたいことって何?シンジの生きる意味って何?」

「僕が君にした質問だね。」

ちゃんと聞いてたんだ。

「いいから!答えなさいよ。」

「・・・・・アスカの答えは見つかったの?それを先に聞きたいな。」

明らかにうろたえたけど、戸惑っていいるだけのようだね。

「私は・・・・・・自分のために・・・・・・自分の存在を認めてもらうために戦う。」

ほう。

「言ったわよ。あんたは?」

アスカの様子からして嘘を言っているわけではないようだ。

「生きる意味は無い、唯、生きているだけ。何のために戦うのか・・・・・理由は無い、戦わさせられているだけだから。守りたいものも無い。したいことは記憶を取り戻すこと、僕は記憶喪失だから。」

やっぱり驚愕の表情になったね。
クラスメートのみんなはどんな顔をしているのかな♪

「記憶喪失の割には物知りじゃない?」

「アスカって勉強できるんでしょ?アスカほど物知りじゃないよ。」

「違うわよ。」

「え?アスカって物知りじゃなかったの?」

「違う!私が言いたいのは記憶喪失なら常識とかも忘れているはずでしょうが!っつってんのよ!」

それは僕も思った。

「うん、そうだね。でも、知識はあるんだ。ただ、自分に関する記憶が全然ない。」

「自分で自分がわからないってこと?」

「うん、もしかしたら碇シンジという人物じゃないかもしれない。」

記憶が無いから、そういうこともありえる。
誰かに植え付けられた記憶でもそれが自分だと思えるならそれはそれで幸せなことなのかもしれない。

「それって寂しくない?自分がわからないなんて怖くない?」

「全然、寂しくないということを知らない、とでも言うのかな?ほら、幸せな時間を知らなければ不幸だとは気づかないみたいな感じなんだと思うよ。レイと同じなんだと思う。」

あの子の場合は圧倒的に経験不足なだけだろうけど。

「だから心配してくれなくてもいいよ。」

「だ・・・誰が心配するもんですか!」

顔を真っ赤にして出ていちゃった。
なんだかなあ。
・・・・・・・幸せを知らない・・・・か・・・・・





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