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初号機と零号機がならんで待機している。
僕がいるのはエヴァンゲリオン搭乗タラップ、そういわれた場所だ。
ちなみに隣にはレイが座っていたりもする。
視界に入るのは、満天の星と、ひときわ大きく、白い満月……。
一番高く大気の影響をあまり受けないと白く見えると知識がある。
レイみたいだ。
白い月を見ていたら自然にそう思った。
横を向きレイを見つめる。
綺麗で毅然としてて見惚れるほどの横顔・・・・・・・そこでふと疑問がよぎった。

「レイ。」

僕が声をかけるとレイはゆっくりと振り向いてくれた。  

「レイは死ぬことが怖くないの?」

初号機の盾になるということは僕よりもレイのほうが死ぬ確立が比較的高いことを意味している。

「怖くないわ。」

即答してくれたけど、納得いかないんだよな。

「なぜ怖くないの?」

「碇指令を信じてるから・・・・・・」

自分の顔が曇るのがわかる。

「それって答えになってないよ。」

よほどきっぱりと強く否定したのか、少し考えるようにうつむき答えてくれた。

「・・・・・・私が死んでも変わりはいるもの・・・・・・」

そう言ったレイの顔がとても悲しそうにみえた。
だからかもしれない、僕がこんなよくわからない気持ちになっているのは・・・・・
僕は感情的になって言い返していた。

「君が死んでも代わりがいる?そんなことはない!君が死んで代わりがいるのはチルドレンっていうこのエヴァのパイロットだ!君の・・・・君自身の代わりなんてどこにも存在しない!」

急に大声を出したせいか、レイにはめずらしいビックリした顔をしている。

「人ってね。今までためてきた記憶なんだよ。嬉しいこと、悲しいこと、驚いたこと、怒ったこと、そういったものが形成する人格がその人そのものなんだよ。」

そういった意味では僕は今、死んでいる状態なんだ。 昔の記憶が無いというのはもう、昔の僕じゃないってことだから。

「死んだら記憶や意識が失われるよね?だから死んだ人は戻ってこないんだよ。肉体が生きていたって、代わりの似ている人が自分として生きてくれたとしても、それはその人自身じゃないんだ。」

じゃあ、僕は誰なんだろう?
僕はこの娘に何を求めているの?
この娘に何と答えてほしいんだろう?
この距離でもわかる赤い瞳で僕がどう映っているのか知りたいのだろうか?
だから僕はこんなことを言葉にしているのか?

「だから、代わりがいるからって死ぬのが怖くないなんて嘘だ。ほんとに怖くないなら他に理由はあるはずなんだ。理由がないならそれは死ぬってことをわかっていないだけだ。」

君はどう反応してくれるのだろうか?
僕のこの言葉に、僕のこの押し付けに、僕のこの傲慢に、僕のこの信念に。
君の答えを聞かせてほしい。
レイはうつむいて黙ったままじっとしている。
数分たったときレイがポツリともらすように言った。

「私には何も無いもの・・・・・・・」

・・・・・・確かにこんな組織では何も作れなかったのかもしれない。
だから無垢で、だから純粋で、だから強いんだ。

「じゃあ、僕と同じだね。」

僕は笑顔を作ってそう言った。
僕は無垢でもないし純粋でもない。
でも、僕も何もない。
だから強くあれる。
レイは驚いた顔のままじっと僕を見つめている。

「もう一つ、なんでエヴァに乗るの?」

「私はエヴァに乗るために生まれてきたようなものだもの。」

無表情に見えるけど、なんだか悲しそう。

「もしエヴァのパイロットをやめてしまったら、私には何もなくなってしまう。それは死んでるのとおなじだわ・・・・・」

「レイ、死んでるのと同じっていうのと、実際死んでるのとでは超えられない境界線があるってことを覚えておいて。」

I-ブレインがアラームを鳴らした。
そろそろ時間だ。

「時間よ。行きましょう。」

それまでのことが無かったかのようにエントリープラグに向かっていくレイに僕は言った。

「この出撃で死ぬかもしれないね。」

今のレイに恐怖があるのかを確かめるためにいったのだが・・・・・

「あなたは死なないわ。私が守るもの・・・・・・・」

見当はずれな答えが返ってきた。
いや、この問いかけで恐怖があるかないかを測ろうとした僕のミスか・・・・・

「・・・・さようなら・・・・」

レイはそう言い残しエントリープラグの中に入っていった。

「君も死なないよ。僕が出撃するんだから。」

僕の目の届くところでは守ってあげよう。
僕もエヴァに乗り込み敵を倒すことに集中しはじめた。






『只今より、0時00分00秒をお知らせします。』

デジタル時計が00:00を表示した。

『時間です』

『シンジ君!日本中のエネルギー、あなたに預けるわ!』

は?日本中のエネルギーって?
とりあえずその疑問は棚上げにして使徒を倒すことに集中する。

(ラプラス起動)

未来を予測するI-ブレインの魔法をセットする。

『第一次接続開始!』

『第1から第803間区まで送電開始!』

『ヤシマ作戦スタート!!』

『電圧上昇中。加圧域へ。』

『全冷却システム、出力最大へ。』

『温度安定。問題なし。』

『陽電子流入、順調なり』

『第二次接続!』

『全加速器運転開始』

『強制収束器作動』

『最終安全装置解除!』

『撃鉄、起こせ!』

撃鉄をおこすと自動的にヒューズがセットされた。

『地球自転、及び重力の誤差修正プラス0.0009。』

『電圧発射点まで、あと0.2』

『第七次最終接続!全エネルギーポジトロンライフルへ!』

『10秒』

『9秒』

『8秒』  

『7秒』  

『6秒』  

『5秒』  

(前方より攻撃反応感知。)

『4秒』  

『目標に高エネルギー反応!』  

『何ですって!』

照準が完了した。

『撃て!!!』

号令とほぼ同時にトリガーを引く。
一瞬前に発射された使徒の可粒子砲と初号機のポジトロンライフルから発射された陽電子は互いに干渉しあい、お互いに目標をはずした。
相殺ではなくお互いの軌道に干渉するなんて!
すぐさまヒューズを交換をして、時間稼ぎのために移動を始める。

『ヒューズ交換!』

『再充電開始』

『銃身冷却開始』

身体能力制御があれば早く移動できるのだが、ポジトロンライフルの銃身が慣性と空気抵抗にたえられないだろうから使えない。

『シンジ君!移動して!時間を稼ぐのよ!』

もうやってるっての!
ある程度移動したあとで照準をあわせる。

(攻撃感知。回避不能。)

なにぃいいいいいいいい!!!
こっちが構えるのとほぼ同時に使徒は可粒子砲を放っていた。
体勢が悪くすぐには回避行動に移れない。
すると僕の前に零号機が守るように立つ。
そういえば守るって言っていたっけな。
可粒子砲が盾に到達して眩い光が放たれている。
使徒に照準をしなおす。
熱い・・・・・初号機の中でもこれだけ熱いなら、前にいる零号機はどれだけ熱いんだろう。
盾がみるみる溶けていく。

『盾が持たない!』

『まだなの?』

『あと7秒!』

(アインシュタイン起動。容量不足。ラプラス強制終了。空間曲率制御開始。次元回廊発動)

零号機の持つ盾の前に大きな黒い空間が現れる。
もっとも可粒子砲の光のおかげで全然目立たないが・・・・・
20分で自然消滅し、次元に閉じ込めた可粒子砲が解き放たれるまでにけりをつけないといけない。
よくみるともう盾がほとんど無く零号機に多少直撃をくらっていたようだった。
照準がそろった!すぐさまトリガーを引く!

『今よ!撃って!!!』

ポジトロンライフルの弾道が、一直線に使徒に向かって伸びていく。
直撃!
使徒が沈んでいく。

『やった!』

『敵ブレード本部直上にて停止!使徒完全に沈黙しました!』

スピーカーの向こうで歓声が聞こえてくるが無視。
零号機が力尽きたかのように倒れて山のふもとまで転げ落ちる。
あわてて零号機の後追うようにしてエヴァを操る。

「レイ!大丈夫か?返事しろ!」

返事がない。そこで気づく、LCLが加熱して熱い。
初号機でこれなら零号機の中はもちろんこれ以上ってことで・・・・・・いけない!
すぐに零号機のエントリープラグを引き抜き初号機から降りる。
降りたところで苦しくなって

「おえぇ〜〜〜」

吐いてしまった。
LCLを肺から出すのを忘れていた。
エントリープラグのハッチの把手をひきだし、それを両手で握り締める。

「く!」

ジュゥゥゥゥゥっと焼ける音がする。
取手が硬くなかなか開かない。

「こんのっ。はぁはぁ。」

開かない。
はやくしないと熱がこもっているはずだからレイが茹でられていく。
あ、あける方法に思い当たった。
僕はあせっていたのかもしれない。

(身体能力制御発動。容量不足。アインシュタイン終了。身体能力、知覚速度20倍で定義)

これで簡単に開くはず。
力いっぱい取手を回す。
取手が勢い良く回る。回りすぎてとれてあけられなくなってしまった。
くそ!奥の手を使うしかないか。

(システム全力起動。身体能力制御強制終了。予測演算成功。虚無の領域展開準備完了)

親指と中指をはじきパチっと音を鳴らそうとして失敗してパスッと音が鳴っただけだった。
スーツを着ているから良い音が鳴らなかったがとりあえずは空気の振動が大切なのでこれで十分だ。
出入り口の部分が球体状にくりぬかれたみたいに消失する。

(システム強制終了。再起動には12000秒以上の休止時間が必要)

I−ブレインが強制終了したがもうしばらくは使うことも無いだろうから無視。
中を覗き込むがLCLが無い。
引き抜いたときに排出されたんだろうか?
それでも熱いことには変わりないから抱きかかえて外に出る。

「レイ、大丈夫?」

「碇・・・・・君?」

意識はあるようだ。
これで死ぬ心配は無くなった。

「体は大丈夫?」

「ええ、問題ないわ。」

「それはよかった。」

安堵したのか顔が緩んでるのが自覚できる。

「何か嬉しいことでもあったの?」

・・・・・・こ・・・こいつは・・・・・・

「レイが助かってうれしいんだよ。」

「・・・・・・・・ごめんなさい。」

いきなり何をあやまってるんだろう?

「私はこんな時、どんな顔をすればいいのかわからない。ほんとはうれしいはずなのにね・・・・」

レイは今まで笑顔とかも知らずに生きてきたのか・・・・・・
それだったら、自分に何も無いといったことも納得できる気がした。

「普通はうれしかったら笑うものなんだよ。」

そういって笑いかける。
そしたら・・・・・・笑い返してくれた。
綺麗な、とても綺麗な笑顔。
魅了されて、僕の中の時間が止まる。

「どうしたの?」

レイの声で我に返る。

「あ、いや、その・・・・・レイは自分にはエヴァ以外に何も無いって言ったけどたぶんただ気づいてないだけだよ。きっと見つかるよ。エヴァ以外の何か生きる意味が。」

自分でも無責任なことをいってるのは承知しているが、今のレイにはこんな言葉が必要だと思ったんだ。

「もう出撃前にさよならなんて言わないこと、それと自分をもっと大切にね☆」

そのまま二人でネルフの人が回収してくれるのを待った。





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