08
一人増えようが二人増えようが問題は無い
それだけの力を与えられているから
でも
それでも
20人も連れてくることはないでしょう?
この状況、どうしよう?
歌を歌って切り抜けられないよね?
または悪魔を召喚して全員呪いをかけるとか。
「今度は一緒に来てもらうよ。」
そりゃ20人に囲まれちゃあね。
全員吹き飛ばすとかしなきゃいけなくなるじゃない。
それはそれでとても楽しいと思うけど。
チラリとさっきまで一緒に戦っていた人達を見る。
彼らまで巻き込むのは嫌な気分になるだろうからね。
ここは大人しく着いていったほうが無難だよね。
「はいはい、投降しますよ。」
この程度、いつでも殺せると心で呟き、両手を挙げる。
(I-ブレイン終了)
ネルフの人々はかなりの数が緊張していたようで安堵の息を漏らしていた。
・・・・・・いじめても良かった気がしてきたね。
でも、一度決めたことだからそうそう前言撤回などできはしない。
車に詰め込まれる僕。
そんなに急がなくても自分で歩けるのにね。
車が走り出した。
今ここで力を使ったらどうなるだろう?
僕を巻き込んで爆発?
ちょっと興味が・・・・・・かなりうずうずしてきた。
駄目だよ。
必死で自制する。
駄目だよ。
今ここで抑えなかったらきっとベームベームを召喚してしまうだろう。
「退屈。」
「我慢してくれ。」
即答してくれた人は比較的若い人だった。
「は〜い。」
だらけた返事を返す。
若い人は偏見が少ないんだねきっと。
「あ〜る〜はれた〜ひ〜る〜さがり〜いちば〜へつづ〜く道〜」
「う、歌わないでもらえるかい?」
「せめてドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜〜は歌いたかったです。」
少しショボンとして声に出した。
感情の変化はあったほうが人を惑わせるからね。
下手に無表情で通したらそれを知らない人からは心配されてしまう。
できるだけ他人と関わらないほうが良い状況だと思うしね。
「そ、そうか・・・・・・」
「そうなんです。」
大人しくしているからか少し戸惑っているようだね。
そういう態度こそこちらの思う壺なんだよ。
結局最初の時と同じくエヴァの前で説得するんだね。
案内にほいほいとついてきた僕も悪いんだろうけどね。
「出撃準備はできてるわ。悪いとは思うけど、あなたしか出来ないことなの!乗りなさい!」
葛城さんが何か言い出します。
「まあ、予想はしていましたけど、用事はそれだけですか?」
「予想していたってことは、いいの?」
そんな期待がこもった目で見ないでください。
「嫌です。そもそもエヴァのパイロットは僕じゃないでしょう。彼女はどうしたんですか?」
「レイは怪我をして乗れないのよ。」
「あんな重症でも乗せようとしたでしょ?」
「あれは、シンジ君が自分から乗るようにって。」
「仕向けたんですね?」
「う、それは・・・・・・」
「それにお父さんは本気だったように見えましたよ。」
人の心なんてわからないものだけど、なんとなく雰囲気はわかる。
間違いなく本気だった。
「とにかく乗れないものは乗れないの!」
「それはそっちの事情で僕には関係ないですよ!」
「世界が滅びちゃうのよ!」
「それこそ僕には関係ないですよ!」
「関係ないことはないでしょ!あなたも死ぬのよ!」
「命を大切にって教わった記憶なんて無いよ!」
「どういう育ち方をしてるのよ!」
「育ち方を言うなら、育て方を考えろ!」
記憶喪失なんだから育ち方も何も関係ないような気もするけど、刷り込みは体にしみこんでいるはずだから、記憶がなくてもたぶん影響は多少あっただろうに。
こんな言い争いは不毛だよね。
「シンジ君、あなた自分が一般人だと思ってる?」
「一般人でしょ?」
こんなところの親玉がお父さんでなきゃ、充分一般人ですよ。
「そうね、今の所はそうね、でもね、強制的に一般人ではなくせるの、ここに碇シンジを徴兵することを宣言します!」
は?宣言したからって何さ?
「これであなたはネルフの一員よ。さあ!エヴァに乗って使徒を討ちなさい!」
「知るか!!」
「時間がないの!」
「そっちの都合だろ!」
「保安部!サードチルドレンをエヴァに乗せて!」
「来るならこい!殺す気でいくから死んでも恨むなよ!!」
僕を取り囲んで一斉に銃を取り出す保安部の人々。
「乗らなければ撃つ!」
撃てるわけがない。
こいつらには僕が必要なのだから。
「銃は脅しの道具じゃないんだよ!」
さっきから叫びっぱなしのような気がする。
なんか、葛城さんを相手にするとテンションがあがる傾向にあるみたいだ。
それは結構楽しいことかもしれない。
じっと、まったりと、のほほ〜んとしてることで幸せを感じる人間でも、だ。
(I-ブレイン起動。マクスウェル起動。エントロピー制御開始。「風魔」起動)
分子運動制御デーモン、気体分子の運動制御する仮想存在「マクスウェルの悪魔」の
生成による局地的空間内のエネルギー、運動量の操作をこなさせる。
周りの運動ベクトルを操作して保安員全員を葛城さんごと吹き飛ばす。
(マクスウェル終了。ラグランジュ起動。)
いつでも格闘に入れるよ。
構えるが、ほとんど下の水溜りに落ちてしまっているためにそんなことしないでも済みそうだ。
「シンジ君!何をしたの!」
ち!この人は落ちてなかったか。
「残念。」
そういう胸中は表にださずに対応する。
ころころ表情を変えればそれだけ感情は読まれにくくなる。
無表情は近しい人や、感のいい人には読まれてしまうからね。
「何が残念よ!」
「あれ?」
別に、あなたが吹っ飛ばなくて悲しいということはありませんよ?
「ち!吹っ飛んだついでに気絶でもしといてくれれば静かだったのに。」
「シンジ君!建前と本音が逆よ!」
「あら、失敬。」
って、心を読んだのか?
「声に出てる!」
「出してないし。」
この人って本当に人間?
お耳の妖精さんがあることないこと伝えているのか脳内電波が引っ掛かったのかどっちかだろう。
それよりも吹っ飛ばしたことに疑問は持たないのかこの人は?
「シンジ君。」
落ち着いた男の人の声。
振り向くと初老の人と今までどこに行っていたのか赤木さんがいた。
「僕って有名なんですね。」
「まあね、君のお父さんが有名だからね。」
あと、チルドレンとやらとしても、か。
「それで?あなたも僕をコイツに無理やり乗せようって魂胆?」
「乗ってもらいたいのだが、駄目かな?」
「嫌ですよ。」
「理由を聞いていいか?」
状況の理解というものを知っていますか?
「最初に無理やり乗せられたことへの反発と、操作中に変なことをして僕の意識を飛ばしたこと。わざわざ僕が乗らなくてもちゃんとパイロットはいるということ、他に理由はいります?」
「いや、充分だ。」
お?今までと感じが違うね。
「しかし、シンジ君のは乗ってもらわなければならないんだよ。わかるね?」
「わかりません。」
それはもうきっぱりと言葉にしてやる。
初老の人は苦笑いを浮かべた。
「わかってもらわなければ困るのだがね。」
「名前も名乗らない人のいうことを素直に聞けと?そんなの莫迦のすることですよ。」
少なくとも僕は聞かない。
名乗っても聞かないことは多いけどね。
「ああ、失礼したね、私は冬月というものだ。」
「立場は?」
「ネルフの副指令をしている。」
「あなたのほうが指令がいいんじゃないですか?お父さんよりも適任じゃないですか?」
「私にはこなさなければならない雑務があるからね。」
「じゃあ、雑務ができないからお父さんが指令なんですね。無能なだけじゃん。」
盛大にため息を吐きつつ冬月さんを観察する。
この人って嘘が上手そうだけど、人が良さそうだね。
「そういわれるとなんだ。」
否定しないし。
冬月さんが明後日の方向を向いた。
赤木さんがなぜか不機嫌になった。
葛城さんはこの状況で大笑いしそうな雰囲気が出ている。
「碇はな、あれはあれで有能というかなんというか。」
「そんな話をしに着たのではないわよ。」
しどろもどろになる冬月さんを赤木さんが戒める。
まったく、やっと話題をそらせたのに。
「すまない、そうだった。」
そのまま続けてくれれば僕は良かったんだけどね。
「前のお詫びと君の望みのものを提供する。それでエヴァに乗ってくれないかね?」
「乗ったら前みたいに意識不明にさせて遠隔操作か何かするんでしょ。いやですよ。」
「私がそんなことは絶対にさせない。」
「口だけなら何とでも言えますよね。」
「では、どうすればいい?」
「土下座でもしてください。」
「・・・・・・わかった。」
冬月さんは確かに土下座をした。
子供に土下座をするのはかなり屈辱的なはずだけどそれをして見せた。
プライドがないわけではないだろうけど、それでもやって見せたことに評価はしないといけないだろう。
「前の出撃分の報酬と、今回の分の報酬あわせて2億円をこの出撃が終わったら用意しといてください。」
「ちょっとアンタ!ぼったくりすぎよ!」
「わかった。約束しよう。」
「それと、作戦行動中にそちらの命令が不当と判断したら僕が独自の判断で行動することを許可してください。」
「わかった。」
土下座の姿勢のまま冬月さんは約束してくれた。
「副指令!」
「葛城一尉、不当ではなければいいのだよ。」
「出撃準備は出来てたんでしたね?出ます。」
僕はさっさとエヴァの搭乗口に向かう。
出撃しましょう。
喜劇にならなければいいけどね。
[07]
[index S]
[09]