07




目を瞑っていたら何も見えなくて
目を開けて凝らしたとしても何も見えなくて
動かなくては何も変わらなくて
動いても何も変わらなくて
現実ってつまりはそういうこと





「避難しなくちゃ危ないでしょ?」

「わかってないね。避難しても危ないんだよ。」

「そんな屁理屈・・・」

「一定距離を離れればそれでいいんだよ。あとはそんなに変わらない。」

「でも避難しなきゃ。」

「どうして?」

「どうしてって・・・・・・」

「別に進んで死にたいわけじゃないけど、別に生きていたいわけじゃない。自分が思った通りに生きれたらいい。それで死んだとしてもかまわない。」

「でも・・・・・・」

「さっさと避難したら?僕の理論に付き合う義理なんて僕以外には無いんだから。」

そう、全ては僕の我がまま。
僕の我がままに振り回されるのは僕だけで充分。

「鈴原君を早く連れて行ったら?相田君は残るって言ってるし。」

「え?相田、本当?何考えてるの!」

「いや、俺も碇の真似をしてみようかと。」

「いいと思うよ。自分のことを自分で責任が持てるなら何したって。」

責任の取り方が難しいんだけどね。
相手の気の済むようにするのが責任のとり方なのか。
はたまた自分の自己満足のことをして良しとするのか。
そこら辺が微妙なんだよね。
!!!!!
この感じは・・・・・・・・・

「どうでもいいけど、僕はもう行くね。」

「え?碇は結局避難するのか?」

「違うよ。学校にいなくちゃいけない理由はないからね。」

「ちょっと碇君。」

「ホンマエエんか?」

「いいんだよ。僕が死んでも僕が困るだけ、だろ?」

そういい残して屋上から移動する。
この感じは前に感じた化け物の感じだ。
別に僕がどうこうというのはわからない。
でも、やらなくてはいけない気がする。
非常にする。
とてつもなくする。
理屈ぬきでする。
無限大にする。
宇宙的規模でする。
ビックバーンのようにする。
今なら神様にでもなれそうさ♪
・・・・・・そういうことは置いて置いて。
記憶が無くても本能の部分でそれは俺の仕事だと言っている気がする。

「記憶を無くす前の僕って何をしてたんだろう?」

ついつい口から言葉が出てしまったけど、あまり意味は無い。
動きたいから動く。
今はそれでいい。
走る。
ただただ走る。
まだよくつかみ切れていない感覚だから頭で考えると霧散してしまうから何も考えずに走る。
ふと立ち止まる。
妖しい組織がらみと思われる人たちがそこに立っていた。
人数は3人。
僕を相手にするには少なすぎる気もする。

「碇シンジ君だね?」

違います。といいたいところではある。
状況証拠からして間違いないんだけど、記憶が無いからね。
絶対的な自信を持って僕が碇シンジだとは言えない。

「たぶんね、それであなた達は?」

「ネルフ保安諜報部の者だ。」

ネルフの回し者か。
顔の筋肉が動くのを実感した。
たぶん、笑っていると思う。

「保安条例第8項の適用により君を本部まで連行する。」

やっぱりそういうことか。

「いいね?」

「駄目です。お断りします。」

今は急いでいるしね。

「ほかをあたってくださいとお父さんに伝えてください。」

そういってすれ違おうとした時に腕を掴まれた。

「何の真似ですか?」

「これが我々の仕事だからね。」

「誘拐が?」

「連行だ!」

「僕から見たら同じですよ。」

自分勝手が多すぎて困る。
まあ、僕も自分勝手だから批難はできる立場にいないんだけど、向こうだけが権利を主張するのはやはり納得いかない。

「君の意思は関係ない。ネルフ本部に来るんだ。」

また!また黄色いものが!!!!!

「冗談じゃいない。」

「そうだ、冗談ではない。」

そういって僕の腕を捻る。
痛い。

「力づくでも連れて行く。」

「じゃあ僕は力づくでも行かないことにしよう!」

(I-ブレイン起動。ラグランジュ起動。知覚倍率を3倍、運動能力を2倍に設定)

力いっぱい捻られている腕を振る。
どうすれば一番力が入れやすいか本能が知っているように体が動く。
中学生の2倍の筋力があるからといって無茶なことは出来ないはずだけど、腕をはずすには充分過ぎたようだ。
僕の腕を持っていた人の表情が苦痛に歪む。
感触から予想したらたぶん、指の骨が脱臼ぐらいしているだろう。
僕は容赦なくその痛めているほうの手を蹴った。
苦痛で動けなくなっている間に頭部にこれまた遠慮なく蹴りを入れた。
僕の行動に唖然としていたのか残りの二人はまだ動き出してはいない。
空気が体にまとわりつくわ、息がしにくいのはこの際無視しよう。
片方の男に狙いを定めて跳びその勢いを乗せた突きを入れる。
胸に入った拳に骨を砕く確かな手ごたえが残る。
下手をすれば死んじゃったな。
残った最後の一人のほうに振り向くと懐に手を入れていた。
銃でも使う気?
正気の沙汰ではないね。
僕の抜き手が銃を出した瞬間の男の手を弾き銃は宙に舞った。
抜き手で伸びきった腕に力を加え体をねじり反動をつけ拳を作り男の左の鎖骨に叩き込む。
2倍の動きというのは普通にしか動けない人にとったら脅威なのかもしれない。
そう思うようになったできごとかな。

(ラグランジュ終了)

「帰ってください。」

悶絶している三人の男をその場に残して僕はまた走り出した。
余計な時間を喰った。
これで見失ったらしゃれにもならない。
遠くで爆音がするのを自覚する。
使徒とやらと自衛隊との戦いかな?
エヴァだとあんな音はしないと思う。
!!!
近い。
相当近くにいる?

「危ない!」

「上だ!」

そういう時は走れ!とか行動を示す言葉のほうがいいんだよ!
言われるまでも無く感じ取っていたから難なく回避成功。

「なんでこんなところに人が!?」

「知るか!」

今度の敵は人型だね。
頭は狼で狼の体毛を身に纏った人間。
ウォーウルフってヤツかな?
後ろに跳んで距離を取る。
男の方はその僕の動きを見て何か思うところがあったという顔になる。
この男と女の組み合わせは見覚えがある。
たしか前もこの組み合わせで化け物と戦っていたな。

「集中したほうが良くない?」

「だれのせいで・・・・・・」

そこまで言って気を取り直したらしい。
無駄口を叩けるほど戦力差は無いんだよ。
男と女の戦力はわからないから数えないことにして、4:6でこちらが不利といったところだろう。
後は罠と経験でどうにかするしかない。
経験の部分が自覚できないのが難儀ではあるけどね。

(I-ブレイン起動。ラグランジュ起動。知覚倍率を3倍、運動能力を2倍に設定)

いくぞ!
と勢い込んでも後の先を取る方法が一番安全だから構えるだけしか出来ない。
あとは、少しづつ間合いを詰めていく。
すぐに攻撃や回避に持っていけるだけの余裕を持たせたすり足でだけど。
敵はこちらが増えたからか警戒を強めているようだけど・・・・・・関係ない。
向こうが動かなくても攻撃ができる間合いに入りさえすればこちらから打って出る。
!!!!!!
消えた?
視界から完全に消失してしまった。

「後ろ!」

男の後ろに空間の歪みが生じている。
出てくるならそこだ。

(ラグランジュ終了。マクスウェル起動。エントロピー制御開始。「氷槍」起動)

真っ直ぐ氷の槍を飛ばす。
狼男が出現した瞬間、氷の槍も到達して狼男を串刺しにした。

「変に大きい力を使うからこういうことになる。」

狼男の身体能力だけで戦っていれば勝機があったものを、みすみす自分から手放すとは莫迦なヤツ。

「正しき御神よ!汝が使いに力を与えたまえ!神御技!悪滅破衝!!」

好機を見逃さずに男は前に出したことのある必殺技を出した。
敵は跡形も無く消滅してしまった。
たぶん、死ぬと消えうせるんだとは思うんだけど・・・・・・
いかんせん記憶喪失だからねぇ。
それよりもこの男の服って僕が今着てる服と同じだ。
つまり、僕と同じ学校の子ってことだね。
女の子の方も同じく僕が今日通った学校の女子の制服。
まあ、そんなことはどうでもいい。
他に気配が無いかを確認する。
空間を歪める戦法として偽者を最初に出しておいてそれを撃破させておいて、安心しているところに攻撃するというのがある。
いちいち面倒だけど、効果はある。
それに、こいつ一匹と決まったわけでもない。
他にもいたらこちらの致命傷になりかねない。
気配は完全に消えたか?

「お前は何者だ?」

たぶん、僕に対しての問いかけだろうね。

「相手のことを聞く前に自分のことを話したら?」

僕は興味ないけど、むやみに知らない人に知られるのはちょっとね。

「それもそうか、悪かった。」

あら、意外に素直。
まあ、短刀を持ってたりする時点でちょっと関わりたくない人種だとは思うけどね。

「俺は・・・・・・」

そこまで言って黙って僕の後ろを見つめている。
僕も彼の視線の方を見る。
ネルフの人が増員して来てますよ。
しつこいよ。










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