05




「君は最高の作品だ」

白衣で眼鏡をしたいかにも学者ですというような男が俺にいった。
周りには培養液に入った人がたくさんいる。

「君はあの黒衣の騎士よりも強い。あるいは紅蓮の魔女よりも。」

男は興奮しているようだった。
黒衣の騎士も紅蓮の魔女も俺には覚えがない。
男はまだしゃべり続ける。

「お前のI-ブレインは他に類を見ない。まさに破格の最高傑作だ。お前にふさわしい魔法を入れてある。お前がどんな物語をつむぐのか楽しみだ。」

男は笑う。狂ったように。いや、実際狂っているのではないのか?
男はなお笑う。何に対してわらっているのかはわからない。
男は笑う。しつこいくらいに。
男は笑う。破滅していく自分を。
男は笑う。自分の作品を。
こういう夢をみて、僕は最悪の目覚めをした。





とある街角、公園やコンビニ、スーパーなどの位置を確かめる。
すぐに出て行くつもりだが、ここの地形を頭に入れておいたほうがいいと思ったのだ。
人の数は怪物が襲ってきたわりには多かった。
人が絶えないとはこういうことだろう。
都市にしては少ないとは思うけど・・・・・・・・・・・。
ん?
今、道端に何か・・・・・・血?
ちょっとだけ探るように周りを見渡す。
猫が怪我をしていた。
ほっといたら確実に死ぬであろうことははっきりとわかる。
それでも、僕には関係がないのだからほっとけばいいだけなんだけど・・・
僕はそっと衰弱している猫を抱える。
せめて死ぬときくらいは暖かい場所で、と思ったのかもしれない。

(I-ブレイン起動。情報身体制御起動。情報組み換え開始)

え?何?

(情報身体制御成功。情報組み換え率98%I-ブレイン停止)

なんだったんだ?
そう思ったら猫がいきなり僕の腕を蹴って飛び出した。
怪我は?
見たところ、怪我が完治しているように見えた。
猫はそのままどこかへ駆けていく。
・・・・・・瀕死の猫を完全回復?
I-ブレインって便利。

「ほんまむかつくわ!」

大きな声が聞こえてきた。黒いジャージ着た男だった。
歳は同じくらいかな?何をむかついてるんだろう?まぁ、別にいいけど。
ん?なんとなく見上げる。
病院だった。
その時、病院の窓の外をみている年下であろう女の子と目があった。
ちょっと、好奇心がでたのかもしれない。
いつもならしないようなことをしていた。
つまり・・・・・・お見舞いである。
とりあえず、その部屋に向かう。
外にいたときに目安をつけた部屋についた。
ドアを開ける。・・・・・・いた。

「何か用ですか?」

「いや、ただのお見舞いだから気にしないで。」

「知らない人に普通はお見舞いなんてしませんよ。」

しっかりした娘だ。
かなりの重傷のようだが、起きれないことはないらしい。

「いつ怪我したの?」

包帯が新しい・・・ってここは病院だから当たり前か。
なんとなく気になった。

「一昨日なんです。あの怪物が来た日です。」

「どこかのシェルターが壊されたの?」

「いいえ、抜け出してたんです。大丈夫だとおもったんですけどね。」

非難命令を無視したのか。案外不良なのかもしれない。

「用事があったんだろうけど、抜け出さないほうが身のためだよ。」

「はい、身にしみてわかっちゃいました。」

なかなか冗談も通じる。頭もいいみたいだ。

「でも、すごいのを見れました。あの怪物って戦闘機とかのミサイルがきかなかったんです。それで紫のロボットがでてきたんですけど、そのロボットがやられちゃってその時瓦礫の下敷きになっちゃって」

「僕もあの光景はみたけど、すごかったよ。絶対税金の無駄使いだと思った。」

「あ、私も思いました。」

二人とも笑う。それからしばらくたわいのない会話をした。

「そろそろ帰らないと。」

「あ、そうなんですか? 今日は楽しかったです。またきてくれませんか?」

「気が向いたらね。」

そう、気が向かないとこない。
だからか、ちょっとしたお土産を残していくことにした。

「ちょっと、目を瞑って、体を楽に、力を抜いて・・・・」 

少女に手をかざして念じる・・・・・この子を治したい!

(I-ブレイン起動。情報身体制御起動。情報組み換え開始)

少女のあるべき状態に治す。
少女の身体でおかしな部分を直していく。

「ちょっとしたおまじないをかけたからすぐによくなるよ。」

(情報身体制御成功。情報組み換え率90%I-ブレイン停止)

I-ブレインを自分の意思で使えた。
なにができるか体が覚えている?
今は勘だけど、できることを正確に把握したらすごい人間なんじゃないだろうか。
僕って何者?
そんな疑問が膨れていく。
それに今朝の夢。

「ありがとうございます。」

あ、思考が深くなちゃった。

「こっちも楽しかったから。じゃあね。」

そういって部屋をでる。
さて、材料買って、晩御飯でもつくって眠るか。
一通り器具は揃っていたし、材料があれば何の問題も無く暮らせるね。
買い物を済ませた後、記憶を頼りに帰路に着く。
これで道に迷ったとか言ったら間抜けもよいところだよね♪
ふと、買い物袋を置いて走り出す。
殺気を感じたからだ。
こんな平和な世界でこんな殺気を撒き散らす存在が在るなんてね。
楽しい・・・・・・楽しんでどうするよ。
どんな性格してるんだよ。
何か性格破綻者っぽいぞ、僕。
なぜか見つけにくい裏路地を走って目的の場所に着く。
・・・・・・四足の虎に長い毛皮を被せて、尻尾を蛇にしたような動物がいて、そこに僕と同い年くらいの少年と少女が戦っていた。
何してるんだよこの子達は・・・・・・
この動物は俺の敵なのになぜ自分以外の存在が戦っているんだ?
・・・・・・そんなことはどうだっていいことか。
獣が女の子に飛び掛った。
女の子は両手を広げてその場で立っている。
危ないことをしているのはわかってのことか?
だけど、目の前で僕が不愉快になるようなことはしてほしくないよ。

(マクスウェル起動。エントロピー制御開始。「氷盾」起動)

女の子の目の前に氷の盾を形成して、獣の攻撃を防ぎ、そのまま氷の盾で獣自身を包んでやる。
氷が体に巻きついて身動きが出来ない状態の出来上がり。
さて、これからどうしよう?
決め手が僕には無い。
外部デバイスがないと肉体強化も少ししか出来ないからね。
困った。

「清き正しき御神よ!汝が使いに力を与えたまえ!」

少年のほうが腕をブンブンと振り回して何か言っている。
何をするつもりなんだろう?

「神御技!悪滅破衝!!」

何をしたのかわからなかった。
僕が作り出した氷ごと獣が爆砕してしまった。
女の子のほうはちゃっかり非難してるし。
・・・・・・気配は無いみたいだし、僕もおいとまするとしますか。
僕はこっそりとその場を後にした。






「シンジ君、ちょっといい?」

「はい、何ですか?」

人がせっかく部屋でまったりとだらけてるのに邪魔しないでくださいよ。

「あなたは学生だから転校という扱いになるわ。その学校の場所の地図と制服を渡しておくわ。」

うわ、学校に行かなくちゃ行けないの?

「ようはそれだけですか?」

「いや、あはははは。」

・・・・・・思考が読めました。
言葉にしなくてもいいです。

「エヴァの訓練に出てくれると嬉しいかなぁって。」

「あんなのに乗るとでも?」

「じゃないと世界が滅んでしまうのよ。」

「何度も聞きました。それはいいとして、あんなことされてそれでも、信じれるほど強い人間ってどれほどいるんでしょうね?」

「仕方なかったのよ。」

「はいはい、なんでもかんでも仕方無かったんですよね。それではおやすみなさい。」

さっさとドアを閉めて空間を区切る。
解らない事が多すぎる気がする。
自分のこと。
お父さんのこと。
ネルフのこと。
エヴァのこと。
あの怪物のこと。
・・・・・・僕は何をすればいいんだろう?
何がしたい?
記憶を取り戻したい?
取り戻したいさ。
記憶が無いのは・・・・・・恐い。
自分が何者なのかわからないのは恐い。
ときどき自分で考えていることなのにそれについての知識が無いことが恐い。
本当に僕は存在しているのか?と不安になる。
恐い。
できるだけ考えないようにしているけど、恐いものは恐い。
自分が動かないとこの状況が変わることはありえないことを理解している。
だからこそ、落ち込んでいるだけでは駄目なことも知っている。
でも、落ち込んだまま行動したとして、それが良い結果になるとも限らない。
できるだけ、行動するなら、万全の体制で・・・・・・・・・
・・・・・・・やめよう、気が滅入ってくる。
泥沼にはまるのを回避するには思考の停止をすればいい。
でも、思考の停止に甘んじてしまっては打開もできない。
難しいな、人って・・・・・・・・・
空が見たいなぁ。
・・・・・・僕って空が好きなの?
・・・・・・・・・・・・寝よう。
今日は寝よう。
これ以上考えてると頭がどうにかなりそうだ。
あ、もうどうにかなっちゃってるか。












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