告知

個室に運ばれてしばらくして父親が来ていました。

(後から聞いた話ですが父親は最初の日に医者から「心配いらない」と聞かされていたので付き添いは母親に任せて自分はさっさと家に帰っていつものように晩酌をお気楽にしていたそうです。

でも次の日母親が職場に電話をしたのか?帰ってから連絡があったのか?とにかく母親が急いで連絡をとったということです。

僕はもうろうとする意識の中で「またおやじ来たのか」と心の中で思って辺りを見回すともう暗くて「あれ、夜?まぁいいや」とまた目をつぶりました。

今思えばおかしなことはどうして朝が急に夜になったのかを深く考えなかったのか不思議ですが多分夢の中で起きたことと重なっていたのだと思います。

どうして急に朝が夜になるような極めて不安定な意識の中で父親が来たことを覚えているのか!!
それは凄くうるさく感じた記憶があるからです。
人が生死の間をさまよっている時に何回も「大丈夫か!」とか「お茶いらんか?」とか聞いていたように思います。

母親は医者にかなり残酷な事を聞かされた筈なのに僕に話しかけることも無く、その前の夜も僕が一晩中騒いでいたお陰で殆ど寝ていないのに朝から父親が来るまで一人で長い1日を過ごしたにもかかわらず平然としていたような気がします。

恐るべし母親!それなのにおやじときたら・・・(涙)

母親に医者から言われたことを聞かされたと思えば仕方がないのかなぁ。
それからしばらくして医者が来て「どうですか?」なんて間抜けな質問するから僕は思わずノーリアクション。。。

そこで、すかさず父親が、と、その前に位置説明をしておきます。

まず部屋は個室その真ん中にベットがあってもちろん僕はそこに寝ています。
左側に窓があって右側(僕の足元)に扉があります。
従ってドクター達(ナース)が扉から入って来て僕が寝ているベットの右側にドクター達が左側に両親が両側にそれぞれ僕の寝ているベットを挟んで立っています。
以上が全員の位置説明です。

ちなみにこの時僕も初めて今回の怪我の説明を医者から受けるまさにその時左から!!!

ここから告知の始まり始まり〜(怒)

父親 「どうなんですか先生」

医者 少し間をおいて「首の骨が折れています。4番6番にはヒビが入っていて5番は砕けています。ですから5番目の首の骨を手術しなければいけません」

僕の心中 「なに!首の骨が折れてる?」

父親 「手術すれば治りまんのん?」

僕の心中 「どうやねん(心配)」

医者 「首の神経が切れていますからねぇ・・・」

父親 「じゃあも車椅子の生活ですか?」この場所でこの発言問題と思いません?

僕の心中 「なに?」

医者 「はい・・・」

僕の心中 「なにゆうとんねん、こいつ」こんなことを思いながら不思議とそんなにショックではありませんでした。それまでの体の感覚からなんとなく想像出来たからです。

父親 「腕は動きますの?」

僕の心中 「どうやねん!」

医者 「腕はリハビリ次第でなんとか動くかもしれません」今思えばおお嘘です。

僕の心中 「そうなんか?腕が動くならだいぶちゃうな!」その時の体の感覚からは下半身はもちろん上半身も全く感覚がなかったので、この医者の発言が少し嬉しかったことを覚えています。

父親 「手術はいつぐらいに出来ますかなぁ?」

医者 「とりあえず今あの重り(今朝の手術で頭に突き刺した棒に重りをぶら下げています)で頭を引っ張っていますから、首の骨と骨の間が伸びてからになります」

父親 「わかりました。よろしくお願いします。」

医者 「それではお大事に」

こんなん感じで僕の寝ているベットを挟んで病状説明と告知が終了致しました。
めでたしめでたしってアホか〜!2人ともどこでどんな会話をしているねん?駄目なんじゃないの?こんなところでそんな会話したら・・・

ほんまに救いようがないな、メダカでももうちょっと掬えるちゅうねん!何考えとんねん馬鹿医者何であんな奴が救急病院の医者やってんねん!確かにウチのおとんもちょっと常識ないかもしれんけど、息子が一生車椅子生活と聞かされれば誰だってテンパルちゅうねん
そういう時こそ医者が冷静に判断をして場所を変えるとか話をそらすとかそんなんするんちゃうの?今思いだしてもやっぱりアホやであの馬鹿医者そりゃつぶれるわ!

馬鹿医者が部屋を出ていってからその時初めて聞いた言葉を改めて考えると・・・
(ここからはあまり思い出したくないけど)

なんというか凄い恐怖というか自分でもなんとなくいやな予感がしていたので、やっぱりというか自分の今までの人生がこれからの人生がすべて無になる感覚、夢も希望も人生設計もお世話になった人にも当時付き合っていた彼女にも俺のことを馬鹿にしていた奴らにも(学校の先生とかその他多数)バイクに乗ることも車に乗ることも自分で生活することも社長になって天下を採ることも、何も・・・何も出来ない何もしてあげられない恩返ししようと思っていた人にもいつか見返してやろうと思っていた人にも人よりいっぱいいい思いしようと思っていた事も将来の為にいっぱい我慢して来た事も全部、すべて無になった瞬間最低最悪の瞬間があの時でした。

今考えれば愚かなことばかり考えていましたがせめて勝負して負けたかった。

その僕にとって最もデリケートな瞬間を迎えるのになんであんなバカ医者とおっちょこちょいの父親に無茶苦茶されてしまったのだろう(涙)

涙が後から後から溢れてきて必至で自分をキープしようと頑張っていたらおっちょこちょいの父親が近寄って来て指て涙を拭いながら慰めの言葉を掛けて来ました。

その瞬間ブチッと何もかもが切れて病棟中に響くような声で「みんな出ていてくれ〜〜〜」、「触るな〜〜〜」そのようなことを思い切り叫びました。

しかし一向に出ようとしないので舌を噛もうとしたら母親が僕の口に指を突っ込んで来て僕は母親が指を入れている口で「ばぶずん゛でん゛」(何すんねん)と叫びましたがよく考えれば全く僕が悪いのですがその時はそんなこと関係無くとにかく必死でいろんなことを口走っていました。

母親は父親に「なんで司のおる前であんなことを聞くのん」と怒っていました。
父親は「そんなん俺知らんやん」と言うと、母親が「あんなこと目の前で言われたら怒るに決まってるやないの!」と言うとおっちょこちょいの父親が「お前が(母親)止めてくれな」母親は「なにゆうてるのん」と夫婦げんかが始まり僕は「バービブーブー」(どうでもいいから口から指を出せ)そうすると母親はゆっくり僕の口から指を出してくれました。

それから気絶するまで僕の目から涙が止まることはありませんでした。

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