標準原価計算 

標準原価計算の必要性
 
実際原価は製品の製造のための実際に要した原価であるから、それは「真実の原価」であると考えられていた。しかし、製品の実際原価の中には、価格・能率・操業度その他原価に影響を及ぼす要素のあらゆる偶然的変動がそのまま混在している。そのため、実際原価はそのままでは、原価管理に使えないのである。
 また、実際原価の計算は全ての費目の金額が判明してからでないと行えないため、タイムリーな原価情報を提供できないという現実的な問題もある。
 これらの点を克服するため、統計的・科学的方法により製品一単位の生産に必要なコストを予め算定しておき、この単価に実際生産量を乗じて、製造原価を求める方法(標準原価計算)が考案された。

 標準原価計算を適用することにより、偶然的な価格や操業度の変動により営業成績が左右されることがなくなります。また、売上があがった時点ですぐに粗利が分かるようになるのもメリットです。

原価標準の設定
 
標準原価計算の第一歩は、原価標準(製品一単位あたりの原価)の設定から始まる。まず材料費については、その製品一単位を製造するのに必要な材料の消費量を算出し、各々の消費量に正常価格を乗ずることにより算定する。次に、直接労務費については、製造に必要な要員の工数(人時間)に標準賃率(時給)を乗じて求められる。
 さて製造間接費であるが、製造間接費は固定費であるから製品一単位あたりの費用を算定するには、一定の計算が必要である。一月に発生する製造間接費の総額をその会社にとって正常と考えられる一月の操業時間で割って一時間あたりのコストを求め、これに製品一単位あたりの正常製造時間を乗ずれば求められる。

 原価標準の設定のポイントは、「努力すれば達成可能」な水準とすることです。到底達成が不可能な目標や、余裕で達成できる目標では目標としての意義を失ってしまいします。言い換えれば、原価は毎年下げていくものという考え方ができます。例えばトヨタは毎年原価を低減する活動を展開しています。

標準原価計算の方法
 標準原価計算には、パーシャルプランシングルプランの二種類の方法がある。
 パーシャルプランとは、材料費・労務費・経費は実際原価で計算を行い、製品原価のみ標準原価を設定する方法である。そのため、原価差額の把握も製品単位までしか行えない。
 これに対してシングルプランとは、個々の材料や直接労務費そして製造間接費に至るまで標準使用量と正常価格を設定し、それぞれの原価差額を把握する方法である。(その結果として、製品は必然的に標準原価となる。)
 さらに加えて、修正パーシャルプランという方法もある。この方法は、材料及び直接労務費については標準原価を設定するが、製造間接費については実際原価を採用する方法である。

 原価計算には成長過程が必要です。最初からいきなりシングルプランを構築しようとしても、管理体制が追いつかず挫折してしまうケースが多いようです。最初は自社の実力に応じた方法を採用し、徐々に実力アップを図っていきましょう。

原価差額の分析
 標準原価計算により原価差額を把握したら、その内容を以下のような差異に区分して分析する必要がある。ただし、このような会計的分析は原因を調査する出発点に過ぎず、それを裏付ける技術的分析が不可欠である。原価計算が生産管理の裏返しと呼ばれる理由がここにある。

 材料費  材料価格差異
 材料数量差異
 直接労務費  労働賃率差異
 労働時間差異
 製造間接費  操業度差異
 予算差異
 能率差異

 原価差額の発生を避けるために、標準原価計算を避けている会社があるようですが、こうして考えてみるとそれは全く逆の発想で、原価差額の発生原因を調査・分析して、その対策を考えることにこそ意義があるように思います。事なかれ主義では会社は衰退します。

原価差額の会計処理
 標準原価計算を採用した結果生ずる原価差異については、原価計算基準及び法人税法では次のように処理が規定されている。

1)異常な原価差異:非原価項目(営業外費用又は特別損失)として製造原価と区分して計上する。

2)正常な原価差異(原価差額が総製造費用の概ね1%以内):原価差額を売上原価に全額賦課する。

3)正常な原価差異(原価差額が総製造費用の概ね1%):次の金額を棚卸資産に賦課する。

         期末棚卸資産合計額
原価差額×
--------------------------
         売上原価+期末棚卸資産合計額

4)受入価格差異:払出高と期末有高に按分する。

 法人税法上原価差額の処理は、製品ごとに按分せず一括して処理することが認められています。したがって、実務上は、原価差額の分析は重要な部分だけ行い、財務計算上は一括して処理してしまう方法がお勧めです。


参考文献: 原価計算(岡本 清)

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