実際部門別個別原価計算 

原価部門の設定
 
異なる製造活動を区分し、生産活動に対する責任体制を確立するために、発生した費用の集計単位として「原価部門」を設定する。原価を部門別に計算する目的は、合理的な製品原価の計算と適切な原価管理にある。原価部門の設定にあたっては、職制上の権限と責任を明らかにするために、組織図に即して設定を行う。

 原価部門には、製品の加工に直接従事する「製造部門」と、製造部門の活動を補助する「補助部門」とに分けられる。また、発生した費用には、どの部門で発生したか直接に認識できる「部門個別費」と二以上の部門に共通して発生する「部門共通費」とがある。したがって、部門共通費を的確に把握するためは、組織図にはなくても、○○共通部という原価計算上の架空部門を設定して、そこに費用を集計する必要がある。

 原価部門と聞くと難しく響きますが、会社組織上の○○部とほぼ同じ区分となります。つまり、会社の部課を費用の集計単位が適切になるように、調整して設定したものが原価部門といえましょう。


部門共通費・補助部門費の配賦
 二以上の部門に共通して発生した部門共通費は、その発生額を関係部門に対して、適切な配賦基準により配賦する必要がある。部門共通費は本来部門個別費として直課すべきところ、技術的理由により区分できなかったものであるから、配賦額については、元もとの勘定科目を付して関係部門へ配賦する。

 補助部門費についても、部門共通費と同様に、その発生額を関係部門に対して、適切な配賦基準により配賦する必要がある。しかし、部門共通費とは異なり、どこの部門から発生した費用を負担しているかを明確にする必要があるため、配賦額については、発生した部門の名称を付した○○部費として関係部門へ配賦する。

 部門共通費や補助部門費の配賦には難しい側面があります。それは、配賦基準が万人が認めるものでないと、実際は相当のサービスを受けているにもかかわらず、製造部門からは「経理が勝手に賦課した金額」とか、「計算上の金額」という理由を付けて、これらの配賦額を認めない傾向があるためです。

配賦基準
 配賦基準については、@関係部門に共通した基準であり、A配賦する勘定科目との相関関係があり、B基準値が容易に得られる明確な数値であること、が必要となる。実務上は、床面積・従事人員・直接作業時間等が用いられることが多い。なお、配賦基準として売上高が用いられることがあるが、売上高を用いるとサービスを費消した割合でなく、コストの負担能力に応じた配賦(負担力主義の配賦)となってしまうため、適切な原価配分は行えなくなる点に留意する必要がある。

 配賦基準の選定は非常に重要です。万人の同意を得るためには、多少の誤差は割切って従事人員や床面積等の絶対的な数値を用いる方が良いのではないでしょうか?正確性を追い求めて、作業時間等の「鉛筆を舐められる数値」を用いると、後々信憑性が問題となることもでてきます。

補助部門間の配賦
 補助部門間で用役の授受がある場合には、補助部門から他の補助部門への配賦額が発生し、その配賦額がさらに元の補助部門へ配賦されるというぐるぐる廻りの現象が発生する。この事態に対応するためには、次のような方法がある。

  直接配賦法: 補助部門間の用役の授受は無視して、製造部門に対してのみ配賦を行う方法。

 相互配賦法(簡便法): 1回目は補助部門間でも配賦を行うが、2回目は製造部門に対してのみ配賦を行う方法。

 階梯式配賦法: 補助部門を製造部門への用役の多い順に並べ、用役の少ない補助部門から、多い方の補助部門と製造部門へ一方通行で配賦を行う方法。

 原価計算を勉強したり仕事で計算していると、あたかも補助部門費の配賦計算=原価計算という程、頭を悩ませるところです。小は端数が合わないといったところから、大は事業部長からクレームが来たというところまで悩みは尽きません。配賦される方も自部門の成績がかかっているので、必死なのです。

部門別原価計算の新動向
 部門別計算の最近の動向としては、部門共通費をなくしていく方向にある。部門共通費を設定すると、責任の所在が曖昧となり、適確な原価管理を行うことができなくなるため、できる限り部門個別費として把握することが望ましい。例えば建物の減価償却費や修繕費は、「建物」部門を設定して集計し、その部門の管理責任者を置くようにするべきである。

 「皆がやっているから」というのは、日本人の好きな言葉の一つですが、この言葉には「自らの思考を停止します」という意味があります。部門共通費も「皆が使っているから」という甘い言葉の罠にはまらないように気をつけましょう。

参考文献: 原価計算(岡本 清)

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