直 接 原 価 計 算 

全部原価計算の問題点
 
財務会計や税務会計では、製品原価に固定製造間接費を含めて算定する。このようにして求めた原価を全部原価という。そのため、生産量を増やせば増やすほど製品あたりの固定製造間接費が減少することとなり、製造原価が下落する。その結果、営業利益も増加する。言い換えれば、売れない製品でも作れば作るほど、営業利益が増加することを意味する。しかし、これでは「在庫品へ固定製造間接費を売りつけていること」に他ならず、固定製造間接費を次期以後に繰延べているに過ぎない。

 現実問題としても、利益が少ないときは、生産量を増やして利益を増加させようとする会社がありました。

直接原価計算とは

 このような全部原価計算の問題点を克服する手法として、直接原価計算が考案された。直接原価計算とは、原価を変動費と固定費に分解し、売上高から先ず変動費を控除して貢献利益を計算し、さらに貢献利益から固定費を控除して営業利益を計算する方法である。直接原価計算は、正規の会計記録の中でCVP分析を行う計算方式であるともいえる。製品原価に固定製造間接費が含まれていない点に特徴がある。

売上高−変動費=貢献利益
貢献利益−固定費=営業利益

 直接原価計算では、貢献利益で固定費を回収し、回収完了後は、利益を稼得できるという考え方に基いています。

全部原価計算と直接原価計算の比較

1) 全部原価計算は原価の算定手法として財務会計や税務会計で認められており、社会的に広く認識されている。これに対して、直接原価計算は、固定製造間接費が原価に含まれていないため、管理会計上のみの原価としてしか利用できず、財務会計や税務会計で使用するときは一定の補正が必要となる。(以下参照)

2) 全部原価計算においては、販売価格−全部原価=利益として計算されるため、売上が上がればすぐに利益が計上されるような錯覚に捉われるが、実際は一定量以上の売上(損益分岐点売上)がないと利益は確保されない。一方直接原価計算においても、貢献利益を確保しただけでは、固定費が回収される保証がないという問題がある。

3) 全部原価計算は固定費込みの原価であるため、比較的長期の価格設定に適しているが、直接原価計算の原価は固定費を含まない原価であるため、短期の価格設定に適している。

 現実的には、財務報告は全部原価計算で行い、特定品目の損益分析や将来の投資計画を立てるときは、直接原価計算で行うことが多いかと思います。

直接原価計算から全部原価計算への変換

 直接原価計算で求めた営業利益を財務会計で使用するためには、製造固定費の調整を行い、全部原価計算の営業利益に変換する必要がある。

全部原価=直接原価−期末在庫品固定費+期首在庫品固定費

つまり、

全部原価計算の営業利益=直接原価計算の営業利益+期末在庫品の製造固定費−期首在庫品の製造固定費

 直接原価計算では固定費が全額控除されるため、全部原価計算の営業利益より、期末在庫品に含まれる製造固定費分だけ営業利益が少なくなっています。そのため、この式のような補正を行います。逆に期首の製造固定費は直接原価計算では前期に計上済みのため、マイナスします。

参考文献: 原価計算(岡本 清)

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