「アイリスいい加減にしろ!さっさと乗れ」

『アイリス、今回のミッションは戦いだ。疲れたまま戦えば命にかかわる。

それ以上無茶はさせられない』

「嫌よ、しつこいわね!大丈夫よ!」

かなりきつく言い返された。

「どうなっても知らないぞ!」

「心配する必要がないのよ!疲れてないんだから…」

怒鳴ったせいか息が切れだす。どう見ても疲れているだろうに…。もはや隠しきれていない。

「そんな様子で言ったって、信じられるかいい加減にしろ」

「しつこいのよ!ギルバートこそ、いい加減にしてちょうだい!!」

いきなりだが、俺とアイリスは今喧嘩している。フィソラはきっと諭しているだけだろうが、もうすぐ強行手段に出るかもしれない。

こうなったのには、訳があった。

10分前


今までフィソラの隣を歩いてきたアイリスが、急に遅れだした。

声にも表情にも出してはいないが、実際のところ疲れているはずだ。

疲れないはずがない。真夏のような暑さの中をもう30分も歩いている。

ゴーレムが出た以上、今後はいつ出てもおかしくない。そんな状態で回復魔法を使い、動けなくなるわけにはいかない。

『アイリス、私に乗りなさい。私はドラゴンだ、人が4人乗ったって、大して疲れない』

「え、何のこと?私は大丈夫よ、ほら全然疲れていないわ」

その場で飛び跳ねて見せるが、…分かり易い。少し着地がぐら付いている。

「アイリス、フィソラがどう説得したかは知らないが、フィソラはドラゴンなんだ人一人増えてもそんなに重く感じるはずないだろう

なんなら俺が降りてもいい。とりあえず乗って休め!」

「大丈夫よ、ギルバートこそ休んでおいて、さっきの戦闘…私は呪文を唱えただけ、あなたとフィソラは走ったじゃない!」

確かに走ったが、せいぜい6メートルほどの全力疾走だ。

「ずっと歩いているお前はどうなんだ。いい加減に折れろ!」

「ずっと言ってるじゃない、大丈夫よ!」

「俺は戦闘が得意なんだ、サポートのお前に比べりゃ、圧倒的に体力がある。さっき中途半端に動いてむしろ動きてえんだよ」

少し嘘が入った。動きたくないがそんな事は言ってられない。いつ敵が出ても戦えるように用意していないといけないのだ。

俺は、最初からアイリスが無理をしていると気づいていた。もうお互いのことは良く判っている。

だから多分………。

「嘘つき、あなたがそんな事思うはずないじゃない」

大きな声で言い返された。やっぱり、気づいたか!

「心配してくれてありがとう。でも代わる必要は無いわ。私がこのまま歩くから!」

有無を言わさぬその言い方で、頭にきた!

「いい加減にしろ、乗れ!!」


「疲れたらね!!!」


こんな感じで続いているわけである。

「フィソラ、アイリスを乗せてやってくれ。爪で引っ掛ければいいだろう。頼むぞ」

『私の返事が聞こえないのが残念だが、同じことを考えていた。アイリスに悟られないよう一気に行くぞ!』

俺が飛び降りアイリスを抱きかかえ、動きを封じる、こうしないとフィソラの爪で怪我をするかもしれない。

さすがのフィソラでも動き回る相手に爪を引っ掛けるのは無理だ。

すぐにフィソラが手を伸ばし爪をマントに引っ掛けた

「アイリス、あきらめて乗ってろ!俺が歩く!」

「なによ、疲れて困るのはあなたでしょ。休んでなさいよ!」

爪に引っかかり宙ぶらりんの状態で、まだ叫ぶ。

「言っただろ、俺は全く問題ねえよ!」

本当である。暑いのは事実だが。アイリスが歩いている間ずっと休んでいたのだから、この程度疲れるはずもない。

フィソラが問答無用でアイリスを背中に放り上げた。怪我が無いように手加減しているだろうし、心配は要らない。

反論する声が聞こえてこない。アイリスもようやく休む気になったようだ。 そんなはずないじゃない。前で戦うギルバートを疲れさせちゃ駄目よ!意地でも代わってやるわ。

ここまでさせるほど心配かけたのなら、むしろ私が悪かったわね…。ごめんなさい。休ませてもらうわ…心配してくれてありがとう。