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<冷凍庫>
冷凍庫の仕事はつらい。
フロムAで見つけた仕事だ。
TELで採用を確認した時は「汚れてもいい服装で来て下さい。」
という言葉だけだったのに・・・どうだ。
作業する部屋はマイナス30度。
「防寒具完備・無料貸与」の、長靴には穴が開いてる。
踵が冷たいっていうより痛くてしょうがねぇ。
一応靴下は二足履いてきたのだが。
外は真夏だ。8月に靴下の重ね履き。
一緒に行ったムカイくんは、新潟出身だからか、意外と平気な顔をしている。
慣れたバイトのヤツは腹巻とか、ホカロンを身につけてるからいいけど、
俺はたまらない。ムカイくんは少したまらない。
汚れてもいいジャージしか着ていない。
「防寒具完備・無料貸与」の、上着は紺色のジャンバーだけ。
ズボンはレインコートに裏毛がついてるだけ。
「何々商店、カニコロ30、エビフラ20」とか書かれた伝票が届くと、
冷凍庫の中に入って注文の品を集めてダストシューターみたいなエレベーターで下に送る。
冷凍庫はマイナス30度で、待機室は零度。
伝票が届く度に飛び込むマイナス30度の世界は非常に痛い。
分厚い手袋してても押せるように作られた大きな赤いボタン●を押す。
SF映画の宇宙船のハッチみたいなドアが「ゴ〜ウン」とゆっくり開く。
入るたびに、番号札を手首にはめる。
(閉じ込められた時の事故予防。無事に出たら、札は戻す。)
入ると「ズズゥ〜ン」とゆっくりハッチが閉じる。同時に小さな明かりがポッと灯る。
軍手が台車に張り付いて、鼻水が凍って唇に刺さったり、
横に汁のツララが伸びたり・・・
吐いた息はたちまち凍って落ちていく。
エンゼル・ウィスパーとか言う現象らしいが、
ほとんど悪魔のささやき。
よく、凍ったバナナで釘を打つコマーシャルとがかあるけど、
丁度あんな感じ。
寒いもんだからトイレは近くなるし、チンチンは寒くて縮んでる。
オシッコするとどうしても防寒ズボンにひっかかるのだ。(貸与の品だからいいけど。)
でも、心配はいらない。
マイナス30度に入って、ズボンをシャカシャカと揉むと、
濡れてた場所が瞬間的に凍って白い粉になってサラサラと落ちる。
その粉をまぶしたカニコロが、エレベーターに乗って運ばれて行く。
あまりに寒いっていうか痛いので、俺は間もなくギブアップ。
仕事がつらくて根を上げたのは、今までの人生であれが最初で最後。
即席しもやけが痛痒い。
真夏の日 建物自体が冷蔵庫 中外温度差60度
イイジマくんは、俺のバイクの師匠。
250ccのオフロードバイクを器用に操る。
マナーの悪い車なんかがいると、
後ろからウィリーしながら煽ったりしてしまう、鉄馬に乗ったカウボーイ。
あばら骨なんか、折ったことがない方を数えたほうが速い。
体中に針金とかワイヤーが入っていてサイボーグと化している。
現在は日本最速の公務員。公務員のくせに赤いピックアップに乗っている。
子供よりも、バイクを乗せるスペースの方が広いのだ。
俺なんか、早々と子供のためにワンボックスに乗り換えさせられたというのに・・・。
このお師匠は非常に要領がいいのか、ほとんど学校に来ないのに、
我々ボンクラ学生の中では一番取得単位が多い。
後の公務員たる所以だ。
まあ、学校に毎日行ってるからいいってものでもないけど。
そのお師匠と、北海道に行きました。
山形県でレースに参加している師匠に合流して、
彼のトランスポーター(当時は軽トラ)にバイク2台積んで八戸まで自走。
船に乗って室蘭に上陸。
そのまま日高を抜けて弟子屈まで。
そこに師匠のバイク仲間が入り浸っているライダーハウスがあるのだ。
そこを拠点に道東をツーリングしました。
ある日、知床半島の先っちょにある、
カムイワッカの滝に行こうってんで早速出発。
途中まではよかったんだけど、だんだん道は悪くなるし、終いにはザクザクの砂利道。
こうなると師匠は速い。
一般道を走るよりも速くカウンターなんかあてながらドリフトしてあっという間に視界から消えた。
俺のバイクはオンロードだし、なにしろ技術が未熟。
東京には砂利道などないのである。
必死に走った挙句、お約束通り崖から転落。
柔道家ゆえに怪我はしなかったけど、
バイクが砂利道から5メートルほど下に横たわっている。
一人じゃとても上げられない。
途方に暮れてても、師匠は助けにきてはくれない。
10分に一台ぐらいの割合で通過するライダーを呼び止めて、
5人ぐらい揃ったところで力を合わせて崖下のバイクを助けてもらう。
なんとかエンジンに火が入ったところ、ようやく師匠が登場。
俺があまりにも遅いので見にきた。
ってことだけど、転落してから一時間以上経ってるんですけど。
スパルタ教育にもほどがある。
カムイワッカの滝は、最高だった。
泥だらけになった俺も大喜び。
知ってる人も多いと思うけが、カムイワッカの滝は、温泉なのだ。
しかも当時は文字通り「秘湯」
安っぽい旅行雑誌に書かれてる秘湯とは格が違う。
努力しないとたどり着けない。
バイクのブーツやらヘルメットは木陰にかくして、
ロッククライミングみたいないでたちで・・・。
斜面に張り付いたり、岩の割れ目を飛び越えたりしながら進む。
しかも、地面が熱い。ビーチサンダル履いていても熱い。
岩にしがみつくと、おなかと手が熱い。砂漠のトカゲみたいな動きで進む。
たどり着くと、滝壷からその下流まで、みーんなお湯。好みの湯温のところで各々が浸かっている。
俺達はもちろん滝壷。足がつかないほど深い。
崖から落ちた時に擦りむいた傷がしみるなぁ。
また、来たルートをもどらなければならない。
バイクまで戻ったときは、もう汗びっしょり。
下りの林道で砂埃まみれ。
かえって汚くなって帰ってきた。
その後、師匠は網走で行われるオフロードのレースへ、
俺は全道ツーリングへと別れたのだった・・・。
秋葉原から御徒町にかけてのガード下、アメ横が好き。
独特の雰囲気が・・・。
お洒落な服とかを売ってる店のすぐ横で、
だみ声の親父が「の〜り〜500円〜。」
とか言いながら乾物を売ってたりする。
宝石店に生臭い魚の匂いが漂ってきたりする。
当時は、その名前を、昔 アメリカの進駐軍放出品の闇市から・・・
みたいなイメージだったが、後に知ったのは、「飴屋」があったことから始まったと聞いた。
そこに「中田商店」はある。
一種独特の雰囲気のお店。
ミリタリーグッズのお店なのだが、とにかく楽しい。
中国の人民服とか、ソ連軍の水筒とか、
日常生活してたら絶対に見られないものが山になって売っている。
丁度、映画「トップ・ガン」なんかが流行っちゃうもんだから、
MA-1なんかを買いに客が殺到。
中でも笑っちゃうのが「IDタグ」
ほれ、あの米兵が首にかけてるネックレス。
戦争映画で、撃たれた兵士が戦友に託して死んでいくやつ。
あれを作ってくれるのだ。
NAMEとか、
BLOOD TYPEとかを打ち込んでくれる。
申込用紙みたいなものに
血液型は・・・・A・・・と、名前は、ローマ字で・・・Tarou・・・・
とか書かされる。
それを店員がミシンみたいな機械で打ち込んでゆく。
チャラチャラ音がして敵兵に発見されないように付けるゴムの縁取りはオプション。
みんな敵が多いらしく、たいがいこのオプションを付ける。
それのために行列ができてしまうのだ。
順番待ち。
向かい側で焼いてるシシャモの匂いが漂ってくる。
シシャモかじりながら俺も、行列に並んで作ってもらった。
恥ずかしい話である。
首飾り それさえ付ければ・・・ 勘違い だけど気分は トム・クルーズ
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