茗荷谷通信 ←Top

back  14  next

このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<サブ・ウェイ>

丸の内線には、クーラーがない(なかった)。
なんでも、室外機を付けるだけのスペースが、
車体と、トンネルの天井との間にないから。と、聞いたことがある。
おそらくそうなんだろう。
その気になって外観を思い浮かべたら、なるほどパンタグラフも付いてない。
線路から電気を取っているらしい。

と、いうことは、Nゲージと一緒だ。二本ある線路の、
一本がプラスで、もう一本がマイナス?
まさか、そんなに単純なものじゃないだろうなあ・・・。
荻窪のあたりじゃ、地下鉄と、地上鉄が同じ線路走ってるし、
そのへんはどんな仕組みになってるんだ?
地上に出たとたんにパンタがピョコンと飛び出したりして・・・。

なんて考えてたら、乗り越した。
御茶ノ水に、ショッピングに来たのに・・・。
淡路町で引き返す。
3分もすると次の車両が来るからロス時間は気にならない。

こんなこと、俺の実家の方でやってしまったぐらいなら大変だ。
下手すりゃ2時間ぐらい無駄にする。
夜だったりしたら、今日中に帰って来られない。

無事、御茶ノ水で降りて橋を渡る。
左手には、秋葉原の電気街、○|○|の大きな看板が見える。
右手には後楽園遊園地のアトラクション、
橋の下には神田川。
国鉄の駅を過ぎると、右も左も楽器屋ばかりになるけど、俺の目的地はもっと先の方。
駿河台の大きい交差点を右斜めに入った所にある質屋さん。
「すずらん通り」っていうアーケードをくぐってすぐ左。

入ると、音響機器、家電、トランペット、剥製、バイオリン、麻雀パイ、
ギター、ヤカン、カメラ、ドラム、扇風機、なんの脈絡もなく、
ウットリするほどたくさんの質流れ品が、所狭しと、展示してある。
パチンコの台まである。
この、膨大な流れ物の中に、一つ。俺の来店を待っている品があるのだ。
この前来た時にツバを付けておいた品が・・・。

「おじさん!絶対、金ためて買いに来るから、もう店から下げておいてくれんやろか?」
「よし。わかった。じゃ、手付金にこれやろう。」
と、ギタースタンドをくれた。
さすが学生街。若者相手の商売がうまい。
これなら絶対に買わないわけにはいかなくなった。

滋賀から持って行った安物のギターじゃスタンドなんて似合わない。

頑張って働いてやっと金ができたのだ。アコムの兄ちゃんより偉い。
前借りじゃ、自分のものになった気がしない。

YAMAHAのフォークギター、L10-E

最後のEがミソ。
つまり、エレクトリックのE。
お尻に穴があってピンプラグを差し込む。
詰まるところ、今、全盛のエレアコの先駆者だね。
コントロールつまみが3個も付いてる。
当時、10年落ちだったから今現在(2001年)では25年選手です。
今も充分通用する。
っていうか、今みたいに材料不足の時代じゃなかったから、いい木が使ってある。

木目が細かく揃っていて、表もサイドも、裏も、全部単版だ。
それが25年の歳月で枯れて、最高のオールドサウンド。
音がギラギラしている。

それまでは、3万円のギターに2千円のピックアップねじ込んで使ってるんだから、えらい出世だよなあ。

tarou54_thumb.jpg

YAMAHA L10-E

中古で、当時7万円也

現在、程よく日焼け

これまた中古のハードケースをオマケしてもらい、
すでに年季の入った楽器を左手に下げて・・・。

何故左手かというと、ケースのふたが不意に開いてしまった時、
自分の方に開くから中身を落とさずに済む。
ウンチクだけはたくさん知っている。
知識だけの頭でっかちは、楽器街を北に歩く。
早く銀嶺荘に帰って弾きたいのに、可能な限りゆっくり歩く。
その場でパカンとケースを開けて、
路上ライブをする勇気は、まだない・・・。

見せびらかしながら。(誰も見てないって)
はやる気持ちを抑えて優雅に歩く。地下鉄に乗る。
ドアの所にハードケースを立てかけて、さりげなく手を添えて、
目は遠くを見てる。
ああ、憧れてたシチュエーションだあ。

東京は 楽器のメッカ御茶ノ水 にわか作りのミュージシャン

<おにぎり>

ハセチンが、おにぎりを持って銀嶺荘にやってきた。
事の成り行きはこうだ。
俺が失恋したのだ。しかも国際的な・・・?
哀しいHOT LINE。BGMは、ラジオから流れるハウンド・ドッグの「ラスト・シーン」。
まったくバッチリのワンシーン。

相手の彼女は大学の同級生。
しばらくのお付き合いの後、カナダに留学して行った。
英文科なのだ。俺は、文系のボンクラ学生。しかも田舎者。
スタートから間違っていた出逢いだったのかもしれない。
荻野目洋子に似た美人。

今ならPCなんかでメールのやり取りなんか簡単にできるけど、
当時は、赤と青のしましま封筒に、
なるべく薄い紙で手紙を書いて郵便局に持っていって重さを量ってもらって、
やっと送信。宛名をローマ字で書くのもしどろもどろ。

あっちは、九月が始業だから、それに合わせて行ったんだと思う。
記憶は薄い。何ヶ月か文通だけの生活を経てバレンタイン。
舶来のチョコレートが国際便で届いた。嬉しかったなあ。
地球の裏側にいるのに、まったくかわいいヤツだぜ!
ってなもんで、慢心を抱いてしまったのだろう。

一ヵ月後、世の男性を悩ませるホワイト・デー。
俺、こともあろうに「もうすぐ帰ってくるんだから、
ホワイト・デーは、それまでお預けよ。」なんて書いて赤青を送っちゃったのだ。

それが致命傷。(じゃないかもしれないが・・・)
日本を離れて数ヶ月。寂しさを覚えた時に、ホワイトデーがすっぽかされた。
寂しさに耐えられません。そんな内容の手紙が届いて、ジ・エンド。
未練たらしく、おっかなびっくり架けた国際電話。「やっぱりごめんなさい。」・・・冒頭に戻る。

「ハセチン。実はなあ。」俺が電話を架けて一部始終を話す。
「おっ、おい変な気を起こすなよ!
今、行くからよ!」電話の向こうでハセチンが騒いでる。
数十分後、本当にハセチンが銀嶺荘に顔を出した。
母さんにおにぎりを握らせて・・・。

「いくら何でも、こんなんで死ぬような、俺やないでぇ!」照れながら言うと、
「バカいえ!殺しても死なねぇだろがぁ。俺がなあ、心配してんのは、お前の金だよ。」

実は、彼女がカナダから帰ってきたら、二人で北海道旅行をしようって約束をしていて、
バイトでコツコツ二人分の旅費を貯めていたんです。
タンデムでロングツーリング・・・。
ハセチンは、俺がヤケを起こして、無駄遣いしちゃうんじゃないかと心配して駆けつけてくれたのである。
しかし、何でおにぎりだったんだろう。
貯めた旅費の半分は、高級ステレオに変身した。

十数年後、彼と逢ってその話題になったら、
「火事場の炊き出しはオニギリに決まってんだろ!」
さすが江戸っ子だ。

pe09_ml.gif

カナダから 寂しかったの御免なさい 帰国の時にゃ男連れ

back  14  next

茗荷谷通信 ←Top

Copyright (C) 2001 Tarou's Homepage. All Rights Reserved.