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このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<バブル>

時、あたかも風雲告げるバブルの真っ只中。
80年代の終わり。
俺は東京の片隅で、取り損ねた単位を必死で追いかけていた。
もう一個の学校で一年前に国家資格を取ってしまって油断していたのだ。
仲間がみんな、就職が決まって髪を切ってきた時だというのに、
俺だけ、文化人類学の教授にアポを取っているのだ。

受講中、試験の成績優秀者に、俺の名前も発表しておきながら、結果は「不可」。
絶対間違いに決まってる。
文化人類学・・・唯一面白い講義だったのに・・・
レポートだって、我ながら素晴らしいのを原稿用紙に100枚ぐらい書いて提出。

エクセルもワードもない時代だから、全部手書き。
卒業論文にも使えるかもしれないと、全部コピーしておいたぐらいの素晴らしいレポート。
題はもちろん「関西と中部、関東の文化交流、文化分け目の関ヶ原」・・・

俺の、綿密な計画の下では規定の134単位をキッチリ取れてる筈なのに、
ここで「不可」はないでしょう?学生名簿で教授のTELを調べて、架けてみたら、

「先生は今、オーストリアに行かれています。」

ってメイドらしい小娘が言う。
「イカレてるの間違いじゃねえんか?」
って言いたいのを我慢して、「いつ帰られますか?」
って聞くと「3月いっぱいは戻られません。」
って・・・。大橋の馬鹿野郎、それじゃ、俺、卒業けんやん!

オーストリアなんか、電話の架け方知らんし。
卒業待たずに就職のはずだったのに。
まあ、仕事は直接卒業証書とは関係ないから無ければ無いで困りはしないが、
ヤッパリ卒業証書もらわないと、高かった授業料が浮かばれない。

結局、仕事を始めてから、平日なのに休みを貰って、
追試を受けて卒業させて頂きました。
今は、独立開業の身です。

でも、楽しい時代であった。
クルマは、高い値段付けたほうが良く売れて、
学生ごときが3ナンバーに当たり前のように乗って、
ボンクラ学生にも毎日のように就職案内情報が、
箱に入って届けられ、
すでに就職の決まってる俺なんか、開けもしないでゴミ置き場に直行。
ゴミを増やすなって毎日ほど管理人のオバサンに怒られる。

クソ重い箱を、点線に沿って破くと、それがそのまま本棚に変身。
中に入ってる、ニッセンのカタログショッピングみたいな冊子には、
あまた百選の就職情報がビッシリ。
資料請求の葉書も切手なんかいらない。

誰もが、就職の内定を4つも5つも貰って、
どれにしようかな、なんて悩んでた時代である。
ヤマモトは、一万円札と同じ紙で出来た、
真っ白い札束を貰ってきて金勘定の練習を始めるし、
ハセチンは、小学生と机を並べてそろばん教室に通い始めるし、
楽しかったなあ。

楽して入ったその分、仕事場で「バブリー社員」とか言われてそれなりの苦労はあるらしいけど。
自営業は気楽でいいや。

泡沫(うたかた)の ネオン煌めく桃源郷 浮世刹那のシャボン玉

<免許>

ハセチンが教習所に通い始めた。
家が東京タワーのすぐ近くにある、数少ない純粋な23区民。
教習所は三田にある。
ハセチンは、気が強い。そして怒りんぼう。
だからよく教官と衝突する。
学校で逢うと、「あの野郎が・・」とか「この野郎が・・」って、
教官に対する怒りを聞かされる。
俺はクルマもバイクの免許も持ってるから、
ハセチンがいくら喚こうが、対岸の火事。
俺は、ヘラヘラ聞いていればいい。

怒りながらもいよいよ仮免が取れてしまったらしい。
路上教習が始まってしまう。
生まれて初めて一般道を走るのだ。
こうなるとハセチンは、気が弱い。ビビリんぼう。
だから王子や赤羽ぐらいの教習所にしておけばよかったのに。

そんな田舎で取る免許なんて限定付きみたいなものだ。
と、言い張り三田の教習所なんか選ぶからだ。

いきなり「第一京浜」を走らされるのだ。
そこで車線変更だの、
指示器を何秒前に出すだの言われても、
頭の中は真っ白。
登校拒否児になっちゃった。
何だかんだ理由を作っては教習を休んでしまう。
休むもんだから、次行くとすっかり勘を忘れてる。
益々嫌になる。

水商売の原理である。下に下に低い方に流れていく・・・

周りの者がだんだん心配になって、
クルマ持ってる奴(ヤマモト)の前後ろのバンパーに「仮免練習中」のボール紙貼って、
夜の晴海埠頭で個人教習。ある意味、暴走族より危険走行行為。
期限の六ヶ月をめいっぱい使って、
めでたく免許取得。価値ある一枚。

今は、シルビアでブィブィいわせてる。

命がけ 第一京浜初走行 嬉し哀しき仮免許

免許にも ランクがあると 彼は言う ならば俺のは 通行手形?

滋賀の田舎の田んぼ道で教習受けた。

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