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このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<タイムマシン>

ある日、管理人のオバサンと大家さんがやって来て、言う。
銀嶺荘も老朽化が激しく、いつ取り壊すか分らない。
故に4年契約だったのを、2年契約にしたい。
という内容だったと思う。

そして今年が更新の年にあたるので新規契約料をよこせ。
って。それがきっかけになって家賃が二千円上がって三万三千円に。
今、思い出すと、何だか騙されてたような気がしてきた。
計算で行くと、3回生になったばかりの春だ。

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2001年の正月に、関東にある嫁さんの実家に行った時、
フラッと、茗荷谷に立ち寄ってみた。
クルマを、交番の裏の方の広くなったところに停めて歩いて行くと、
交番のおまわりは・・・違う人だった。
目が合うと何か言われるかもしれないので素通り。

駅がすっかり新しくなって、立派な駅ビルになっていた。
にもかかわらず、その横には、「老朽化が激しく、
いつ取り壊すか分らない」銀嶺荘が、
そこだけ時間が止まってたみたいにそっくりそのままの状態で残ってた。

確実に14年は経っているのに・・・。である。

ただ一つ変っていたのは、見上げた、元、俺の部屋213号室の裸電球が、
蛍光灯に換えられていたことだけ。
すりガラスから漏れる明かりが無機質な、青白い光になっていた。
明かりが灯ってるということは、何代か後の213号が住んでいるということだ。

でも、あの頃より寒々しく見えたのは気のせいだろうか・・・?
下のラーメン屋のオヤヂも変わっていたけど、地獄の釜は燃え続けているだろうに・・・。
あまり眺めていると、管理人室からオバサンが出てきて怒り出しそうなので、
早々にケツをまくってきた。
「あんた!Tarouさんだね?ウチは家族連れはお断りだよ!」とか・・・

車に戻ると、俺の車を交番のおまわりが、おまわっていた。
「すんません^^、チョット、公園のトイレ借りてただけですんで。」
嫁さんと、小さな子供二人が一緒だったから、職質はされなかった。

駅が変り、おまわりが変り、俺はお父さんに変り、
銀嶺荘は住人が入れ替わり、流れる時間の中で、建物だけはタイムマシン。

銀嶺荘 傾きながら幾星霜 うぶな学生騙しつつ

代は変われど 徒然に 若人抱きて 悠久に 酸いも辛いも醸造し 甘き想いに替えまつれ

<雪>

東京にも、年によっては大雪が降る。
冬には大雪が当たり前だと思ってる俺には、面白い光景が見られる。

大雪って言っても、雪が多い地方の人なら
「今日は、少なくて良かったねぇ。」って言うぐらいの雪である。
朝、目を覚ますと外がやけに騒がしい。

女学生がキャーキャー言いながら歩いている。
雪が積もっているのだ。
どうりで夕べは冷え込んだ。
下のラーメン屋の床暖房のお陰で部屋は暖かだけど。

しばらく窓から路行く人たちを見降ろしいると、
長靴を履いてる人は皆無に近い。いや、いない
俺の実家の方じゃ、雪なんか降ると、デパートだって長靴で入っていく。
最近はカラフルでカッコいいのも売っている。

10分ぐらい見てる間に5人転んだ。
当たり前だ。
革靴なんか履いてくるからだよスーツのオジサン。
対して、騒いでるわりに、女学生は転んでくれない。

今度は南の窓から下を覗くと、感心感心。
管理人のオバサンが通路の雪かきをしている。
俺のバイクも雪を被ってる。

しかし、オバサンが手に持ってる道具がどうもおかしい。
ポリバケツでやっているのだ。
しかもツッカケ履いて。

スコップのオバケみたいなのを使うのが当たり前の国から来た俺が、
面白がって上から眺めてたら、オバサンに見つかり

「Tarouーさーん、起きてんなら手伝いなさーい!!」

って呼ばれてしまった。知らん顔するわけにもいかず、
長靴履いて降りて行くと「なんであんた長靴なんて持ってんのよ?」
いや、履いているんですけど。

バイク便は、雨の日でも走らなきゃいけない。
そんな時はゴム長が一番。
どんなに高級なレインブーツより、数倍快適。
結局、銀嶺荘で長靴を持ってるのは、
俺と、下のラーメン屋のオヤジだけ。

「オバサン、バケツなんかより、いつも使ってる、でかいチリトリの方がいいんじゃないッスか?」
って言ったら、 「あんた、頭いいねぇ。伊達に大学行ってないね。」
と、誉められた。
その日は、結局電車が止まり、バスも運休。・・・だったと思う。
学校行った記憶がない。
高尾の方がどうだったのか、テレビがないからわからない。

近くのコンビニ(MINI STOPが一個だけあった)に行っても、雪でデリバリーが間に合わず、
弁当類は売り切れだし、いくらいい長靴持ってても、
皆が履いてないから気恥ずかしくて遠くまで歩いて買いに行くのは恥ずかしい。
歩いたところで、都市機能マヒしてるから食い物なんか猫の餌の缶詰ぐらいしか残ってないだろう。
下のラーメン屋で、長靴仲間が作る野菜炒めを長靴を履いて食べた。
といっても、材料が届かないから麺がない。昨日の残り物の野菜しかない。

「タダじゃ気まずいだろうから50円でいいよ。」
と、白い長靴が黒い長靴に言ってくれた。

雪の日に 長靴履いて驚かれ 頭がいいと驚かれ

山手線 首都高速 機能マヒ 大雪騒ぎ 10センチ

ラーメン屋 麺がないけどラーメン屋 エンジンのないクルマ

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