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このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<デスペラード>

東京に行ってしばらくは、JRがまだ国鉄と呼ばれていた。
今は亡き汐留駅にバイト先の運送会社はあった。
運送会社の社員ってのは、みんな荒くれ者ばっかり。
流れ流れてたどり着いたような人が多い。

山谷から泪橋を渡って出社してくる人も多数。
朝から酒くさい。
そんな方達と一緒に四トンロングで、東京、神奈川、
埼玉を中心に右往左往していた。
基本日給7千円。
残業になると時給700円が加算される。
当時としては、結構高給だったと思う。

引っ越し屋の朝は少し早い。6時30分に始業。
そして、会社に入った瞬間にその日の運命が決まる。

ひとつの引越しに、一人の社員が作業班長を勤めるのだが、
その班長が、その日の作業内容に応じてアルバイト要員を選ぶ。

市場の魚と一緒。「お前と、お前、それにお前・・・、今日は一緒だっぺ。」
茨城なまりの人が多い。

あらかじめ見積もりに行った人の情報から、
苦労または嫌な思いをしそうな引っ越しはだいたい分かる。

そういう嫌な仕事が当たってしまった班長が選ぶ人夫は、
決まって、俺、ヤマモト、はせちん。
高校生と違って力があるし、仕事にある程度生活がかかってて、
しっかり働くから。いざとなれば、トラックも運転するし・・・。

だいたい、班長がニコニコ手招きする日は最低の仕事。
丁度、らくらくパックとかがテレビで宣伝され始めた頃だから客が勘違いしてる。
何もしなくていいと思っているのだ。

見積もりに行った人が事前に空ダンボールを置いてきて、
それに自分で詰め込むように指示して来たにも拘わらず、
引っ越し当日に行ってみるとまだ寝てる。
当然、荷造りなんてしているはずもない。

最後の晩餐でもしたのであろう、夕べの食卓がそのまんまになってるし、
冷蔵庫の中も、タンスの中もギッシリ。
でも、お客様には文句は言えない。
哀しい仕事である。

泣きながら、女物のパンツとかブラジャーを箱に詰める。
荷主も、こんな作業服来たアルバイト風情を人間とも思ってないらしく、
全然恥ずかしそうにしない。

こんな作業服来たアルバイト風情

冷蔵庫なんか、コンテナに詰めて遠くに送る場合、
そのまま積んでやる。

中身はちゃんと処分、あるいは使い切ってしまうよう、
事前にお願いしてあるわけだから、それでいいのだろう。

灼熱のコンテナ内で、向こうに着いたころには、
みんな腐ってるだろうさ。せめてもの仕打ちである。
廻りのダンボールは腐り汁吸ってグチャグチャ。ザマーミロ。

これがトラックに積んで隣の県まで自走となると話は別。
荷卸しの時、ビチャビチャじゃ俺たちが困るから、
あらかじめ用意してある、
発泡スチロールのクーラーボックスに中身を移さなければならない。
しかし、そういう家に限って量が無茶苦茶多い。
腐ったような自家製のジャムのようなものとか・・・

部屋の奥の方なんかブラックボックス。
だらしない女を嫁に貰っちゃいけないとその時学んだ。
だいたい、入ってすぐの所に観葉植物が置いてある家にこういうのが多い。
回覧版とか持ってきたお隣さんには、そこしか見えないから。
そこだけきれいにしてある。

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現場の風景の一例

大阪へ・・・愛を詰めて

「大阪じゃ、このガスコンロ、コッチの都市ガスと規格が違うから使えませんよ・・。」
「めんどくさいから、捨てさせようってんでしょ!」怒り出すし・・・
ってか、これ・・・油でグチャグチャ。黒い汁が滴ってるし・・・。
新居でこれ使うつもりけ?(どうせ使えないんやケド・・・)

家電でも関東50Hz、関西60Hzで使い分けなきゃならないものが多かった時代だ。

一応、新聞紙でくるんで、布団袋の上に積んであげる。
大事なガスコンロが振動で壊れないように。
布団袋といっても、見積もりが用意した紙製の搬送用のはキャンセルだから、
押し入れにあった一番新しくて丈夫そうな布団カバーに他の布団を押し込んだものだが・・・

なければ、代用品で済ますのも、プロとして当然の義務だ。

契約会社の社宅の引っ越しが多かった。
会社が引っ越しの料金を出してくれるわけ。
東京から大阪ならいくらとか決まっている。
その範囲内で済ますわけだが、
見積もりの人が、あらかじめこのくらいの荷物なら、
これだけのダンボール、梱包材で収まるな。
と、サラのダンボールや、材料を置いてくるのです。
それに、荷主が自分で詰め込んで、引越当日を待つ。
・・・というシステム。
使ったダンボールが少なければ、余りは返品。
その差額は荷主がもらえるらしい。

だから、せっかくの新品のダンボールを、
ほとんど使わないで、紙袋とか、コンビニの袋とかに入れただけで、
「荷造りしておいた。」と申される。

貨物コンテナ一つで悠々収まるはずなのに、荷物が積みにくい。
壊れ物はダンボールに入れましょうよと言っても、
ダンボールを返品しての差額9850円の方が貴重品らしく、
かたくなに紙袋でと言い張る。

しょうがない。ベランダの植木鉢が割れてしまわぬよう、
下に柔らかそうな革靴を敷き詰める。
これなら、植木鉢で飼ってるナメクジも怪我をしない。
靴に逃げ込めば、乾いて死ぬこともないだろう・・・。

洗濯機の中に、壊れてはいけない食器類を、お父さんのYシャツで包んで押し込む。
エアキャップ(プチプチマット)も返品なんだからしょうがない。

サイドボードのウィスキーは割れてこぼれないように、
お父さんのギターケースから中身を出して、できた安全空間に寝かして並べる。
ケースがガタつかないように、
たまたま近くにあった、形が手ごろなギターで抑えをする。
PPバンドも返品だから、他に固定するものがない。
念には念を入れて、上に長椅子を縦に置いて突っ張り棒にする。

幸い作業員がベテラン揃いだから、臨機応変に、いびつな荷物を、
パズルのように上手に積み上げてゆく。荷主の要望が最優先だ。r(^ω^*)))テレマスナ

自転車も大切だから、最後に乗せる。
これなら行った先で、真っ先に買い物に行ける。
バスとか、公共機関にはまだ不慣れなはずだし。
心憎い気配りだ。大阪では自転車が一番偉いし。

「ご苦労様でした。」と、作業が終わるのをパチンコ屋で待ってたご主人。
それを待って、コンテナのドアをバタンと閉める。
お客様の見てる前で、ロックをかける。もう、大阪まで誰も開けることができない。
安心して、「少ないけど、何か飲み物でも飲んで。」
と、当時出て間もない500円玉をもったいなさそうに1個くれた。

「それでは、失礼します。本日はご利用ありがとうございました。道中お気をつけて・・・。」
と、荷主に感謝の挨拶して現場を後にする。(^_^)/~~サヨナラ
従業員教育がしっかりしている運送会社だから、
ならず者も、ココはしっかりと紳士的に締めくくる。
帰りに、その500円を分けて3人でワンカップ飲んだ。
コンテナ積み込みの仕事だから、3人は電車で来ていたのだ・・・
・・・電車の中でワンカップ飲む作業服姿3人組みって・・・ヤダヤダ。

飲みながら、向こうで荷物受取確認の際、コンテナ開けた時の荷主の顔が目に浮かぶ。
ギターが無事かとケースを開く。中からウィスキーが出てきてビックリ。
ナメクジが這ってるギターを、縦に積まれた長椅子の下から発見して二度ビックリ。

気を取り直して、お茶でも飲もうとしても、お茶っ葉もカップも見当たらない。
それ以前に、お湯を沸かそうとしても、ガスコンロは使えないし・・・
なんで、こんなコンロ持ってきた?と、据え付け業者に軽蔑に似た質問される。
自動販売機で済ますが、後日、ゴルフバックの中から、
便所のスリッパに挟まれて、雑巾でくるまれてる湯呑茶碗を見つける。
買い置きのカップラーメンはつぶれないように、サイドボードに
きれいに並べて、ガムテープで固定されていた。

電気ポットはタンスの中で、ダウンジャケットに包まれて発掘された。
子供のランドセルの中からもウィスキーが出てきた。VSOPだ。
特に厳重に、嫁さんの下着が詰め物にされていた。

関西で食う、関東味のどん兵衛・・・非常においしい。

$¥$¥$¥$¥$¥$¥$¥$¥$¥=(´Д`) =3 ハゥー

荷主が遠くへ行っちゃう時は、気が楽だ。
しかも、社宅。荷主も、ダンボールをけちって差額ネコババだから、
自分の会社にも、我々運送会社にも文句を言えない。

ってか、向こうの荷解き業者、我々の関西の同業者がかわいそう。
でも、逆に、向こうからも同じように親切な荷造りが届くのだから、
お互い様か・・・。

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逆の仕事もありました。
マンション住まいのヤクザの引っ越し。
結構偉いさんらしく、行ってみると腕まくりした組員がズラリ。
ビクッとしてると「お世話さんです!」「ご苦労様ッス!」
ってむこうから挨拶されてしまった。
中に入ると龍の刺青の男が上半身裸で風呂上り。
綺麗な姐御もいる。

「おう、ご苦労さん。これ少ないけどとっておきな。」
ってドアを開けるなり3人の作業員に10万円のご祝儀袋をいきなりくれて、
「若けぇの呼んであるから、いいように使いな。」
とかおっしゃる。

オヤビンに言い付かってるらしく、「若けぇの」が、
「指示下さい。」
とか言うし、荷物運ぶのもバケツリレーで
あっという間に終了。
「お疲れさまでした。ありゃしたー。」
という声と花道に送られて帰ってきてしまった。
何もしないのに日給4万円。

作業時間15分。

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ならず者が多い(多かった)業界・・・引っ越しの際には
ダンボールをケチらないことが成功の秘訣。

アルバイト 荷物運んで西東 何様気取りのお客様

「若けぇの」に 荷台の上から指示を出す 次は神棚いただけますか?

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