茗荷谷通信 ←Top

back  08  next

このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<お手伝い>

管理人のオバサンに家賃を持っていく時は、わざと千円札と五千円札。
しかもシワの多いのを入れて持っていく。
小学校の給食袋みたいな茶封筒に三万一千円を入れると厚さが1センチぐらいになる。
すると、いつもは怖いオバサンが目を細めて「今月も頑張ったわねぇ。」
と、誉めてくれる。

俺が自給自足で生活してると思い込んでいるようだ。
たまに、料理のおすそ分けなんかを持って上がってきてくれる。

他の学生は、目が合ってもペコリともしないけど、
俺は、オバサンのゴミ箱の整理なんかを手伝う。
なんてったって、他の部屋にはない、西陽の射す窓の下でガタガタやっているのだ。
しかし、本当は、手伝いなどではない。

オバサンが振り回しているポリバケツのすぐ近くに俺の大事なバイクが置いてあるのだ。
傷を付けられないように監視を兼ねてである。

 
←問題のポリバケツ

下のラーメン屋から出る生ゴミも一緒だから、
オバサンがホースでジョバーってやると、
俺のバイクに生ゴミの洗い汁が ピヤァーと飛び散る。

「俺がやりますんで・・。」

オバサンが振り回すホースをひったくり、健気に優しくポリバケツを洗う。

「あんた、偉いねぇ。」
って、また株が上がる。

なけなしの 金に見せかけかき集め 手渡す封筒 鬼の目に泪

<大黒湯>

大黒湯に行くと、いつも洗い場が一つだけ空いている。
満員の時でもだ。右から2番目。

別にカランが壊れてたり、水しか出ないわけではない。
1番右に、背中に大きな刺青を入れたおっちゃんが居るのだ。

いつ行っても。

まあ、行く時間帯がだいたい決まってるからなのだが・・・。
俺、右から2番目に座る。

「おっ、兄ちゃん、久しぶりだな。
風呂は、毎日入らんといかんぜよ。」
「俺なんかなあ、若気の至りでお釈迦様背負っちまったからよぉ、
毎日ここで清めさせてもらってんのよ。」

「はぁ。」
お釈迦様っていっても、オジサンのたるんだ皮ふに、
ほっぺたを引っ張り下げられてなんだか泣いてるような顔。

四年間、このおっちゃんのお陰で席にあぶれることがなかった。
今でも一番隅っこでお釈迦様を洗い続けているのだろうか・・・。

でも、刺青にはちがいない。
泣きっ面でも、怖い人には怖い。

おっちゃんの言う通り、風呂は毎日入らなきゃいかんぜよなのだろうが、
俺、温泉は大好きなくせに、普段の風呂はあまり好きじゃない。

何分も歩いて行かなきゃってことになると尚更である。
2〜3日に1回ってことになってしまう。
頭だけは毎日洗わないと痒くなるからアパートの流しで洗う。

お湯なんて勿論出ないから、キャベツでも洗うがのごとく水で洗う。
狭い流しで、肘をあっちこっちにぶつけながら。
シャンプーなんか、すすぐのに時間かかるから、石鹸だ。
冬は冷たいのを通り越して痛い。泡切れの良さが一番大事。

配達人が持ってくる新聞紙はこの時、流しの下の敷物に便利だ。
タダだし・・・。

大黒湯

お釈迦様 若気の至りで背負われて 人に嫌われ 風呂の隅

お釈迦様 毎日磨かれ珠(たま)の肌? イヤイヤ皺寄り 泣きっ面

back  08  next

茗荷谷通信 ←Top

Copyright (C) 2001 Tarou's Homepage. All Rights Reserved.