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<定期券>
バイクの免許取得、バイクの購入は案外スムーズに進んだ。
操作も知ってたし、燃えてたから。
運送屋のバイトで、都内の道路もかなり覚えていたし、一気に行動半径が広がる。
怖い管理人のオバサンに頼み倒してタダでバイクの置き場を、
ポリバケツの横ではあるが確保してもらえたし・・・
さあ、夢の単車生活の始まり。
しかし、茗荷谷ってのは便利な場所で、繁華街に丁度いい距離で囲まれている。
渋谷はチョッと遠いけど、その気になれば、新宿、池袋ぐらいなら歩いてでも行ける。
実際、終電に乗り遅れたとか言いながら仲間が真夜中に転がり込んで来ることもしばしば。
そんな場所で、足を手に入れたもんだからもう、
丸の内線の定期券はいらなくなり、買わなくなった。
そこで、一つの問題が発生。
「第一銀嶺荘」は、10世帯で一つの便所しかない。
朝なんかは、便器の毟りあい。早い者勝ちである。
たとえ一番になっても、
ドアの外で地団太踏まれて急かされも落ち着かない。
そんな大人気ない生存競争の嫌いな俺は、
それまで、ツッカケ履いて定期券で丸の内線の改札を抜け、
駅のトイレで用を足していたのだ。
トイレ到着まで僅か15秒。
ただ、ひとつ気を付けなければならないことがある。
それはトイレットペーパー。
銀嶺荘のトイレも、駅のトイレにも、備え付けのトイレットペーパーがない。
銀嶺荘のを使うときは、トイレットペーパーの芯にひもを通して結んである、
いわゆる、マイ・ペーパーを持参して使う。
それを首にかけてトイレに向かう。
ただ持っていくだけだと、狭くて置き場すらないからだ。
入るときはバックオーライで入る。
中で方向転換できないからだ。
拭くときだって、背筋を伸ばしたまま。
前かがみになると、頭が当たってドアが開いてしまうからだ。
その調子で寝ぼけたまま駅のトイレに行ってしまったら非常に恥ずかしい。
まるで、災害救助犬ダ。
まったく読んで文字の如く、「不便」になってしまった。
入場券買ってまではなぁ〜〜
改札をなにやら急いで くぐるやつ 二本足の パトラッシュ
そんなある日、滋賀県の婆ちゃん(当時、約80歳)が、
台東区にいる娘のところに遊びに来るってんで、
八重洲口まで迎えに行った。(もちろん丸ノ内線。バイクでではない。)
晩は、どうやら銀嶺荘に泊まるつもりだ。
自分の孫が東京でどんな生活をしているのか興味があるのだ。
夕食なんかは、何か適当なものを買って来て済ませたからいいのだが、
便所に行った婆さんがなかなか帰ってこない。
一番端っこの突き当たりだから間違う筈はないし、
まさか倒れてるんじゃないか?
と、思い見に行くと、なんと洋式の便器と格闘していた。
一生懸命、蓋に向かって座ろうとしている。
あんた、80余年も生きてきて洋式経験ないんかいな?
台東区のオバサンの家は、春日通りをバス一本乗り継ぎなしで行けるから、
翌日早々に詰め込んで送っちゃった。
俺の家も、今でこそ下水が通じて洋式になったが、
それ以前はいわゆるボットン便所。
婆さん、94歳になった今でも、元気に毎日便器に跨っています。
そして洋式を上手に使いこなす。
銀嶺荘には洗濯機が無い。
当然ながら風呂も無い。
歩いて3〜4分の所にある、「大黒湯」で身体と服を洗う。
冬なんかは嫌だ。
「神田川」は、悲壮感漂ってるが、赤い手拭を首に巻いた相棒がいるからまだいい。
独りでいくわけなんだが、
俺、東京でも柔道やってたから柔道着も洗わなきゃならない。
コインランドリーだけじゃキレイにならないから、
40センチ平方の流しで、下ごしらえをしていくことになる。
あらかじめエリとか袖の裏とかをタワシで擦っておく。
すると春先だったから冷たくて硬くて、水を吸って重くなって・・・
搾っても、いつまでも滴る。
そうやってから、大黒湯(にあるコインランドリー)に向かうのだが、
そのままじゃ持っていけない。
今みたいに分別ゴミどうこう言う時代じゃないから、
もちろん黒いビニール袋で。
それに水を含んだ柔道着を入れると、
・・・まさに子供の死体が入っているようなズッシリ感。
初めてそうやって春日通りに出た時、目の前の交番のおまわりが、
袋を目ざとく睨みつけて職務質問。
「中に、何 入れてる?」
洗面器やらタオルを左手に持ってるんだから洗濯物に決まってるやん!
この おまわり、事あるごとに職務質問をしやがる。
バイクに乗るようになる前、8000円の自転車に乗っていたら、
型がママチャリってのが気に入らないらしく盗難の疑いで職務質問。
バイク買って、公園のトイレ前の水道で洗車してたら、痴漢の疑いで職務質問。
黒い袋を取り上げられて、中身を覗かれて・・・
柔道着が入ってたから、急に友達みたいな表情になって・・・。
その後は、顔を覚えてもらって一回も捕まらなかったけど。
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