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このページは、想い出のページなので、時間的概念がありません。時代を行ったり来たりします。

<ルーム・ナンバー213>

1985年に東京に出た。受験して、その足で下宿を捜して、契約してきてしまった。
落ちても、受かっても行くつもりだったから。
それに、すでにもう一つ専門学校の合格が発表されてたし。

最初、なんにも分らないでしょ。
試験が終わっての帰り道に不動産関係の人がチラシを配っていた。
そのチラシを押し付けられ、いったん宿がとってある御茶ノ水の狭いホテルに戻り、
ベッドに寝転がりながら、そのチラシを見てた。
家賃やら部屋の広さやら、それまであんまり考えたことがないから、まったく見当がつかない。
数字で表されても、広いのか、遠いのか、まして相場なんかわかららない。

行ってみるしかないか? 
ラッキー、会社は、同じお茶の水にあるらしい。
ってんで地図を見ながら、
信じられないほどたくさんの楽器屋が並ぶ道路を捜してみたらすぐ見つかった。
しかし、不動産屋なんて入るの生まれて初めて。
テレビのドラマじゃ大概ヤクザがらみでしか出てこない。
まあ、ウロウロしてても仕方ない・・・・
狭い階段をクルクルと三階まで上がって、ドアを開けた。

全然心配するような場所じゃなく、堅気の人が迎え入れてくれた。
学生を支援するチョッと公的な会社だったような記憶がある。
なんか綺麗な女の人が、対応してくれて、写真付きのリストで何軒か物件を見せてくれた。
その中で、そこから一番近い物件ってのが、茗荷谷の「第一銀嶺荘」。
・・・なんて素晴らしい名前だろう。
トップ・オブ・シルバーマウンテンやんけ。
家賃31000円。
風呂なし。
四畳半と、三畳の二間。
専門学校が、後楽園にあるから、地下鉄で2分。
駅から歩くことを考えたら、バイクならもっと早い。

場所は最高だなぁ。

って実物を見る前から、半ば決定してしまっていた。
「じゃあ、行ってみましょうか?」
その綺麗なお姉さんが言う。
緊張したなあ。
御茶ノ水の地下鉄丸の内線の駅まで、御茶ノ水橋を渡っていくわけだが、
・・・なんだかデートしてるみたい。
おとといまで、田んぼしかないような所で暮らしてた村人が、
都会慣れした女の人と歩いているのだ。

汽車の切符まで買ってもらっちゃって、
数分おきに来る車両に乗ったら緊張は最高潮。
こんなに混んでる電車なんて乗ったことが無い。
お姉さんが非常に接近している。
背なんか俺のアゴぐらいまでしかない。
御茶ノ水から茗荷谷までの数分間がもの凄く長く感じた。

「さあ、降りましょう。」
気が付いたら、地下鉄に乗ったはずなのに空がみえる。
そういえば後楽園じゃ空の上を走っていたような?
「ここです。」
駅から出たとたん、お姉さんが立ち止まる。
路が狭いから、二階建ての建物なのにかなり見上げないと全体が見えない。

本当だ。
リストにあった写真と同じだ。
再び一階に視線を移すと、ラーメン屋、ラーメン屋、不動産屋、すし屋・・・
の順にテナントが並んで入っている。
お姉さん、慣れた感じで別棟の管理人室に入って行って鍵を貰ってきた。
外階段を上っていくと突き当りに下駄箱があって、入ってすぐ右側手前の部屋。
「213」って書いてある。
おかしいな。いくら数えても10個しか部屋がないのに・・・。

お姉さん、鍵穴に鍵を突っ込んで・・・、
ってこの鍵穴・・・漫画でしか見たことの無い、あの、テルテル坊主みたいな鍵穴やんけ。
回すコツが分らないらしく、
いくら入れてガチャガチャしても鍵が開かない。
後から上がってきた管理人のオバサンが代わる。
障子ドアの左上に左手を当て斜め上に押しながら、
右手でキーを回すと、あら不思議。
音もなくスルッとロック解除。

「あんたもやってみな。」と、俺にキーを手渡す。

うおっ!、そのキーってのがファイナルファンタジーとかで出てくる、
あのアイテムにそっくり。
真鍮色に鈍く光る金属を受け取りますか?  →Yes  →No
パ〜パァラッパパ〜〜「Tarouは宝箱の鍵を入手した」

緊張していたからか、その障子戸を左手で左上に押したら・・・
中に戸が外れてしまった。
鍵、いらんやん!
ま、それはよくあることだから、気にしなくていいと慰められた。

そのアイテムは、「合鍵がないから気を付けてよ!」と、入居の際に、1個渡された。
実際、ホームセンターで作ろうとしたら、店員に笑われた。

(夏休みに滋賀に帰ったら、ウチの古い建屋にあるタンスの鍵が同じようなカタチだったので、加工したら、合鍵が作れた。)

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外れたドアを元に戻し、改めて鍵を開けて、
部屋の中を覗くと、この春に出てゆく予定だという先住民がまだ生活しているらしく、
散らかり放題。
照明は裸電球だし、流しは、40センチ平方ぐらいの面積しかない。
そこに食器(カップラーメンのドンブリ)が積み上げられている。
壁には、ハンテンがぶら下がってるし、なんとも貧乏くさい先住民のようだ。
「ここの子、浪人生だったのよぉ。もう、受験を諦めたんだって。
ウチは基本的に学生しか置かないからね。十日後には出てくよ。」
オバサンが説明してくれた。(一瞬、相部屋かとも思った)
ってか、なんだか喋り方が・・・怖い。

まあ、場所、広さ、家賃と、平均すると上々だろうな。・・・たぶん。
他を見たってこれ以上のは無いだろう。
「よし。ここに住むことにキーメタ!と、お姉さんに告げる。」 → Yes → No
「Tarouは屋根のある空間を見つけた。」

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お姉さんと、再び地下鉄に乗って御茶ノ水に戻る前に、
その建物を出て再び見上げると、窓が三つもあるのは213号室だけやんか。
他の部屋は全部一個しかない。しかも駅ビルの壁を向いての一つ。
「213」の後ろの3の数字は、窓の数?

南の端だから、南に向いた窓が2個もある。駅ビル窓と合わせて3個。
どの部屋も家賃は同じらしいから、お得感。

ただ、共同便所は一番奥にあるから一番遠い。
って、それはそれで、かえっていいと、住み始めてからわかった。

駅から歩いて二十五歩 階段上がって もう帰宅

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