イスラマバードの風 NO.7   2007年9月3日発行

 アッサラーム・アレイコム!。石原武司です。
 (あなたの上に平安あれ!=こんにちは)
 イスラマバードの7月・8月・9月前半は雨季で、よく雨が降ります。これはインド洋から湿った南西季節風が吹いてくるからです。その雨のお陰で、気温は30度くらいまで下がるのですが、湿度は反対に上がりとても蒸し暑く感じます。いずれにしてもまだまだ寝苦しい毎日が続いていて、爽やかな秋の到来を1日千秋の思いで待ちわびています。生活上のトラブルはいろいろありますが、二人とも元気でいますのでどうかご安心下さい。

◆ 雨漏り騒動の巻
 発展途上国での借家選びは難しい。私は万事大ざっぱで、家は住めればいい、途上国では多少の不具合は仕方がないと考えているが、一日家にいる妻はそういうわけにもいかないようで、家の不具合がとても気になるようだ。そんなことで、ザンビア、バヌアツでは私たちは家のことでよく夫婦喧嘩をした。
 それに懲りた私は、今回は自分の意見を言わず、家選びは全面的に妻に委ねようと心に誓った。でも、迷って最後の決断ができない妻を見て、思わず、「もうこの家に決めたら」と言ってしまった。だから、今回も家の選択に「私は責任がない」とは言い切れない。
 選んだ家は2階建ての2階部分。2ベッドルーム、2バスルームで、台所は少し狭いが、居間は40畳くらいある。フル・ファニチャーでNHKワールドも視聴できる。壁はすべて塗り直してあり、まずまずの家に見えた。難点と言えば、大家のRajaがアメリカ在住で、管理は隣町に住む叔父がするという点であった。
 ところがいざ入居してみると、いろいろ不具合が出るわ出るわ。まず、2階は暑い。夜も30度を下らず、冷房が欠かせない。水が出ない、湯が出ない、排水溝が詰まって汚水があふれ出る。台所の流しの下からゴキブリが大量に出てきたり。管理人の叔父さんは連絡してもなかなか来ない。
 追い打ちをかけたのは、8月の滝のような集中豪雨であった。7月に入って、寝室や居間の天井に雨漏りの形跡が見つかって気になっていたが、8月14日(パキスタンの独立記念日)の夜に集中豪雨があり、居間の天井から水が入ってきて、居間の1/4が水浸しになった。翌朝、二人で水をかい出したが、バケツに10杯ほどの水があった。廊下や他の部屋も雨漏りの跡で、茶色い大きな地図が出来ていた。また、どこかでショートが起きたらしく、ブレーカーが落ちて、居間の電気が点かなくなった。
 叔父さんでは埒があかないので、アメリカにいる大家のRajaにメールを出した。Rajaからは、大変申し訳ない、電気系統の修理は叔父さんを通して早急にするが、屋根の修理は雨季が完全に終わるまで待ってくれという返事が来た。電気の修理は終わったが、屋根の修理は9月4日現在、まだできていない。そのあと、3回ほど豪雨があり、居間は3回水につかった。
 私たちはよくよく家には恵まれないようだ。でも、今回の集中豪雨ではほとんどの家が雨漏りを起こしたようだ。パキスタンの住宅は、見た目はよいが実は欠陥住宅、というのがほとんどだ。そのお陰で、またまたしなくてもいい夫婦喧嘩を何度もしてしまった。 

◆ 第2回理数科研修のこと
 8月6日(月)からNISTEの第2回理数科研修が始まった。今回はイスラマバード以外の地方の中学・高校理数科教師160名を対象とした4週間の研修だった。前回は「仮説実験授業入門」というトピックで、4つのクラスで1セッション(2h)ずつ授業を持ったが、今回は中学理科クラスと高校物理・数学クラスの授業を各4セッション、計8セッション持つことになった。今回はたっぷり時間があるので、仮説実験授業だけでなく、実験器具作りにも挑戦して貰うことにした。中学理科のクラスでは、浮沈子(Cartesian Diver)とクリップモーター、高校物理・数学クラスでは、箔検電器とクリップモーターを作って貰うことにした。各クラス40人を1人で指導するのは大変なので、カウンターパートのMr.イムランにも手伝って貰うことにした。
 さて、パキスタンの先生達のものづくりの腕前はどうか?興味津々で授業に臨んだが、案の定、彼らは頭でっかちでものづくりは苦手みたいだった。特に女性の先生は、説明したこと、注意したことが全然分かってなくて、指導が大変だった。でも、浮沈子やクリップモーターが完成したときの彼らの喜びようは日本の子供以上で、準備や指導の苦労も吹き飛んだ。
 研修の最終日には修了式があり、参加した先生達には修了証書が授与される。修了式では各クラスの代表が「研修で得たもの」というテーマでスピーチをするのだが、私が受け持った2クラスの代表は共に、「実験器具づくりは楽しかった」「Mr.イシハラに感謝している」と言ってくれたように思う(ウルドゥ語だったのではっきりとはわからないが)。修了式のあと、たくさんの先生(生徒)達が私のオフィスに来てくれて、いっしょに記念写真を撮ったり、髭だらけの先生とハグハグをしたり、ちょっと日本の学校の卒業式を思い出した。

◆ イスラム教について
 パキスタンの正式名はパキスタン・イスラム共和国で、イスラム教が国教になっている。したがって、NISTEでの入所式、修了式、毎日の授業はお祈りから始まる。イスラム教徒は1日5回、メッカの方向を向いてお祈りをしなければならないが、同僚だったMr.ビラール(現在、スウェーデンに留学中)は「職場ではやらないが、家で3回やっている」と言っていた。職場でも、所長をはじめ20〜30人の熱心な信者は、正午過ぎ、玄関前の芝生に大きなゴザを敷いてお祈りをしている。パキスタン人の97%はイスラム教徒だが、信仰の篤さについては大きな差があるようだ。また、イスラムの女性は髪や肌をあらわにしてはいけないという教えがあり、女性はみんなドゥバタと呼ばれる薄布で顔を隠す。でも、インターナショナル・スクールに子供を迎えに来る裕福なパキスタン人の母親の中にはミニスカート姿も見られるそうだ。このような風潮がイスラム原理主義を生み出しているのだと思う。私はまだまだイスラム教とその信者のことを理解しているとはいいがたいが、イスラム教は日常生活に密着した、行動的な宗教という感じがする。
 NISTEの研修プログラムの中にも、「イスラム教と科学」というセッションがあり、Dr.ナントカが講義をしている。また、10年生の物理の教科書には「イスラムの教えと科学」という一節があり、そこには「コーランの教えには、信者は自然をよく学び、賢くふるまえと書いてある」「本当の科学者は信仰深い」といったことが書かれている。
 私と同じSVで、ラホール教育大学で教えているOさんが、学生を対象に、”人間は猿から進化したというダーウィンの進化論をどう思うか”というアンケートをとったところ、ほとんどの学生は”ダーウィンの進化論は正しいが、人間が猿から進化したという点は間違いである。なぜなら、コーランはそうは言っていないから”と答えている。無神論者の多い日本人から見れば彼らの考えは明らかにおかしいが、コーランの教えを最上位に置く彼らから見れば当然のことかもしれない。
 イスラム教は、豚は不浄の動物であるとして食べることを禁じている。また、コーランは飲酒も禁じている。学校は、プライマリーは男女共学であるが、それ以上は男女別学。女性はあまり外に出ず、主として家の中で過ごすのがよいとされている。そういえば、イスラマバードでも昼間に歩いている女性の姿をほとんど見かけない(夜はそうでもない)。郡部では、女性の下着も親か夫が買いに行くそうだ。結婚はもちろん親同士が決めた結婚しか許されない(都市部では最近、恋愛結婚も増えてきているらしい)。イスラム社会は封建的・禁欲的過ぎて、特に女性にとって生きづらい社会のように思えるが、当のパキスタン女性はどう思っているのか聞いたことがないのでわからない。
 こちらにきて5ヶ月、私は禁酒を守っているが、心の底には「お好み焼きの豚玉をあてにして冷たいビールを飲んでみた〜い。」という欲望が渦巻いている。アラーよ許せ!

右側2階が我が家


居間の天井から水が・・・


水のかい出し作業


水浸しの家具


高校物理・数学クラス


中学理科クラス


所長から修了証書を受け取る


女の先生達に囲まれて


昼のお祈りをするNISTE職員


物理の教科書より


パキスタン初のノーベル賞受賞者