イスラマバードの風 NO.5   2007年7月17日発行

 アッサラーム・アレイコム!。石原武司です。
 (あなたの上に平安あれ!=こんにちは)
 イスラマバードでは、7月に入ってよく雨が降るようになりました。ずっと20%以下だった湿度も、最近は30%台、40%台を示すようになりました。雨が降った後、2〜3日は暑さが和らぎ、少し過ごしやすくなります。だからこちらでは、曇り空で今にも雨が降り出しそうな日を”Fine”(いい天気)といいます。パキスタン人もこの暑さには閉口しているようです。

◆ レッド・モスク銃撃戦
 銃撃戦については日本でも大きく報道され、ご心配をお掛けしたことと思いますが、私たちは無事に生きていますのでどうかご安心下さい。
 7月3日〜10日の一週間、イスラマバードの一角は戦場と化しました。政府軍がレッド・モスク(現地語ラール・マスジッド)の掃討作戦を開始したからです。このモスクは我が家から3km程離れていますが、夜になると連発花火のような銃声が毎日のように聞こえ、日増しにその激しさを増してゆきました。平和な日本ではとても考えられないことです。この期間、JICA関係者はモスクのあるG6地区への立ち入り禁止、イスラマバード全域で夜間外出禁止、二日間は完全外出禁止でモスクと反対方向にある職場に行くことも禁じられました。銃撃戦で使われたカラシニコフという銃は、2km離れても殺傷力があるからです。
 問題のモスクは、イスラム原理主義派のモスクで、神学校も併設、数千人の学生を抱えています。その昔、ソ連のアフガン侵攻のとき、このモスクから多くの義勇兵が出て行きました。また、アフガニスタンのタリバーンを育てたのもこのモスクだといわれています。
 政府がこのモスクの掃討に踏み切ったのは、@モスクの指導者が無許可の放送局を開設、イスラム原理主義の主張と政府批判を始めたこと、A神学校の女学生が綱紀粛正のため売春に関わった中国人を軟禁したこと、Bモスク・神学校の建物が違法建築であるためとされていますが、それは表向きで、その存在がムシャラフ政権の存続を揺るがしかねないからに違いありません。
 このモスクに立てこもった(女性も多数参加)のはイスラム過激派といわれていますが、政府は過激派のレッテルを貼ることによって、武力行使を正当化しているように思います。また、この戦闘での犠牲者は双方で80人を越えると言われていますが、もっと他に犠牲者を出さずに済む方法はなかったものか、例えば長期の兵糧攻めにするとか・・・・。
 戦闘は終わりましたが、イスラム原理主義派の報復の自爆テロが各地で起こっています。私はこれまで日本で起こる残忍な犯罪を見聞きして、日本人にもっと宗教心があれば・・・・と思っていましたが、宗教も怖いとつくづく思います。熱心な信者は死を恐れません。死を恐れない者は他人の死も軽んじます。だから、自爆テロのような行為が可能になるのだと思います。私はこの事件を機に、イスラム教と教徒の心情をもっと知りたいと思うようになりました。

◆ 理数科研修始まる
 7月2日(月)から今年度のNISTEの理数科研修が始まりました。第1回目はイスラマバード周辺の中学・高校の理数科教師を対象とした4週間の研修です。研修は参加者160人を4グループに分けて実施、私も各グループ、1セッション(2時間)の授業をもつことになり、すでに2グループの授業を終えました。
 授業のトピックは「仮説実験授業入門」で、授業例として「回路と抵抗」を取り上げました。この国に仮説実験授業を持ち込んだのは、私の前任者のNさんです。彼はパキスタンの理科教育が余りにも暗記一辺倒(科学用語の定義を英語で覚えさせる)であることを憂い、生徒に考えさせる授業をということで仮説実験授業を導入したのです。
 私もNさんの考え方に大いに共感、彼が蒔いた種を無駄にしないために、授業は仮説実験授業のスタイルをとることにしました。教材はNさんが作られたパワーポイントの教材を少し変えて使わせていただきました。余った時間に、私が作った「簡易バッテリーホルダー」「簡易豆球ホルダー」「真空ポンプ2種類(注射器を使ったものと空気入れを使ったもの)、「ゴムピタ君」「電導度テスター2種類(LEDを使ったものと電子メロディを使ったもの)、「静電気実験用回転台」などを紹介しました。
 仮説実験授業では、生徒は予想の選択肢のいずれかに必ず手を挙げねばならないのですが、参加者達は間違ったら教師の沽券にかかわると思っているからか、最初は2/3位しか手が挙がりませんでした。でも最後にはほぼ全員手を挙げるようになり、自分に説明させろと要求するようになりました。理科教育で一番大切なのは、「教師が理科好きであること」と私は思っているので、先生達の反応をとても嬉しく思いました。
 仮説実験授業の終わりに質問を受けつけたところ、一人の教師が「電圧の定義を教えてください」と聞いてきました。「電圧」という概念はとても教えるのが難しい概念で、「これは私を試しているのだ」と考え、正面から答えるのはやめて、「電圧の定義は厳密に言うととても難しい。簡単に言うと、導体に電流を流す能力です」と答えておきました。
 また、私が紹介した実験器具はとても好評で、やってみせるたびに盛大な拍手をもらいました。授業が終わって、実験器具を箱に詰めオフィスに戻ろうとすると、受講者が3人やってきて、「あなたはrespectable teacherだから、そんなことをしてはいけない。私たちに運ばせてください」と言ってくれました。
 私の仕事のひとつである研修講師の仕事が順調にスタートしてほっとしているところです。 ではまた。

イスラマバードの街(マルガラ山より)


イスラマバードの地図


同地区にあるもうひとつのモスク


研修生入所式


仮説実験授業をする私


自分の考えを説明する受講者


簡易電池ホルダーと豆球ホルダー


空気入れ利用の真空ポンプ


静電気実験用回転台