イスラマバードの風 NO.32     2010年8月30日発行

 アッサラーム・アレイコム! ご無沙汰しています。 石原武司です。
 4月24日から8月13日まで、パキスタン国小中学校理科教育改善プロジェクトの仕事でイスラマバードに行っていました。

 プロジェクトも2年目に入り、ますます忙しくなってきました。
プロジェクトの目標は、新しいカリキュラムで提唱されている生徒中心・探求重視の理科授業をパキスタン全土に広めること、具体的には4年生〜8年生の教師用指導書を作成し、それらを使ってマスター・トレーナー(指導主事)の研修を実施し、マスター・トレーナーが現場教師を適切に指導できる研修システムを確立することです。1年目は4年生の指導書を8ヶ月かかって作成しましたが、2年目の今年は、5・6年生の指導書を各4ヶ月で作成しなければなりません。それと平行して、マスター・トレーナーの研修(7月60人、8月60人)も始まりました。

 プロジェクトはこれまでのところ、まずまず順調ですが、問題点も明らかになってきました。
 第1の問題点は、教師用指導書の作成を担当するTPD(Teaching Plan Development)メンバー(約40人)が「生徒中心・探求過程重視のレッスン・プランとはどのようなものか」がよくわかっていない、つまり、彼らの作るレッスン・プランは、暗記中心の従来通りのレッスン・プランから抜け出せていないことです。
 第2の問題点は、このプロジェクトのパキスタン側推進母体であるNISTE(National Institute of Science and Technical Education)という組織がガタガタになっていることです。昨年11月に所長が退職した後、後任の所長が決まらず、新しく着任した副所長がNISTEを支配しています。この副所長はプロジェクトの二人の責任者の首を切り、さらにNISTE内の数名のTPDメンバーを正規職員ではないという理由で解雇しようとしています。プロジェクトを推進する立場にいる人が妨害する側にまわっているのです。困ったことです。

 そういった問題点を克服して、プロジェクトを推進すべく、私とM氏は4月23日、イスラマバード入りしました。24日、NISTEの建物の2階にあるプロジェクト事務所に行ったのですが、NISTEの建物は閑散としています。いったい何があったのかと不審に思って門番に聞くと、今日から週休2日の試行が始まったのだという。週休2日制は、電力不足を解消するのが目的で、2日前の国会で決まったのだという。たとえ試行にしろ、日本だったら1年以上前に決まっていて、いろいろ準備をするのですが、ここは2日前に決まって即実施となる。でも、週休2日のお陰で、今年は一番暑い6月を難なく乗り越えることができました。
 7月は雨の日が多く、涼しい毎日で、今年はこのまま夏が終わると思いきや、7月の終わりからの雨が大洪水をもたらすのです。

■家族宛メール(8月1日)

 みなさん、お元気ですか? 私は元気です。日本は酷暑が続いているそうですが、こちらはとても涼しい毎日です。
 今週は日本の梅雨のように3日も雨が続いて、各地で大きな被害が出ています。イスラマの隣のラワルピンディでも死者が出ていますが、死者は全国で200人を超えるそうです。また、ちょうど雨が降り出した日、カラチ発イスラマ行きの旅客機がマルガラ山に激突、乗客乗員全員、152人の死者が出ました。週末にあったマスタートレーナー研修の修了式では全員で黙祷しました。
 郁子さんの手術の日が8月19日に決まったそうですね。でも、まだ3週間も先ですね。こういうときはどういうべきか、「待ち遠しい」とはいいませんね。「同じやるならサッサとやっちょくれ」という気分かと心中お察しします。
 私が痔の手術をしたときのことを思い出すのですが、あの時はガンの容疑で入院したのですが、実はガンではなくて痔だとわかって、医者は即時に手術を宣告しました。ガンという高貴な病気から、痔という世間をはばかる下品な病気に格下げされ、私は落ち込んでいたのに、そんな感傷に浸っている暇もなく、手術と相成りました。でも、本音を言えば、ガンでなくてよかったという思いが強くて、手術はちっとも怖くありませんでした。
 手術は麻酔がよく効いて、まったく痛みを感じませんでした。また、術後の痛みも全く覚えていません。手術の後は快便快食、本当に手術をしてよかったと、今でも思っています。あのとき検査入院を勧めてくれた当時の小野高の校医さんに感謝しています。郁子さんの手術もきっと私の場合と同じようにうまくいくでしょう。うまくいくようアラーに祈りましょう。手術でお世話になる方々に配るものを買って帰りますね。(岩塩とナツメ)

 いよいよ今回の滞在もあと2週間となりましたが、来週が山場です。来週はTPDワークショップがあり、レッスンプラン改善のための会議を毎日6時間します。
 敦、菜穂子、匠はもう夏休みに入ったのですね。毎日どうしていますか? 
ではまた。


■家族宛メール(8月8日)

 いよいよ帰国まであと数日となりました。先週がもっとも大変な1週間だったのですが、アラーのお陰で無事乗り切ることができました。「アラーは偉大なり、アラーの他に神はなし、ムハンマドは最後の預言者なり」と、アラーにお礼をいう今日この頃です。
 でも、アラーのお膝元のパキスタンはいま大変です。先週、パキスタンは大雨で200人を超える死者が出たと書きましたが、死者の数は日を追って増え、とうとう1000人を越えました。痛ましい限りです。水害の被害者は400万人を越え、国連では150万人分の食料援助が検討されています。
 たった数日の雨でこんな大被害がでるなんて、これは天災ではなく人災です。何しろ国家予算の7割が軍事費で、民生用予算はたった3割、河川対策など皆無に近いからこんなことになるのです。
 洪水だけでなく、いっこうに治まらない自爆テロ、高い失業率、物価上昇、電力不足、拡大する貧富の格差、この国は瀕死の状態のように思います。パキスタン国民はいま第2のジナーの出現を待ち望んでいるように思いますが、一向に現れる気配がなく、現大統領のザルダリはいまいち人気がありません。

 今日は昼食のあと、最近出来たタイマッサージの店に行きました。少し前から首と腰が痛くて、時間が出来たらぜひ行きたいと思っていました。経営者はタイ人か中国人かどちらかで、マッサージをしてくれるのは、フィリピン人の女性です。料金は1時間3500Rsで、日本人の私から見ても「ちょっと高いなぁ」という感じです。それでも、店の中にはお金持ちの令嬢という感じの若いパキスタン女性が3・4人連れだって来ていました。運転手のリズワンは、「月に3回行ったら自分の給料は飛んでしまう」と言っていましたが、パキスタンは貧富の格差の大きい国であることを改めて感じました。
 明日の日曜日は散髪に行くのと、郁子さんの手術で世話になるであろう人にあげるSmall Giftとして、ラピスラズリを5・6個買って帰るつもりです。
 ということで、もうすぐ帰ります。純さん、8月14日(土)夕方、迎えよろしく。でも、大雨の時は仕事を優先してください。宅急便で荷物を送り、リムジンで帰ります。

■ 妻の手術のこと
 妻は、昨年の秋以来、膝痛に苦しんでいました。いわゆるロコモティブシンドロームで、整形外科に通って定期的に注射を打ってもらっていましたが、一向によくならず、今年6月の検査で突発性骨壊死という診断を受け、人工関節にする以外に手はないと医者に言われました。
 はじめ妻は、脛骨と大腿骨の一部を切り取ってチタンの部品を埋め込む人工関節手術をとても嫌がっていましたが、それ以外に痛みを軽減する方法はないと知って、手術を受ける決心をしたようです。
 手術は、私がパキスタンから帰ってすぐ、8月19日に三木市民病院で受けました。上の写真は、手術室に入る直前にとったものです。何事につけカッコをつける彼女は、「真幸(まさき)くあらばまた還り見ん」といって手術室に入って行きました。
 幸い手術は成功し、今はリハビリに励んでいます。9月10日頃には退院出来そうです。

■ パキスタン洪水災害カンパにご協力下さい
 パキスタンの洪水災害は日増しに拡大し、8月中旬には死者は1500人を越え、被災者数は1500万人(パキスタンの人口の1割)に達しました。パキスタンは基本的には農業国で、インダス川の水を利用した潅漑網が発達しています。この発達した潅漑網が被害を大きくしたといわれています。現在、国連をはじめ世界各国から援助の手が差しのべられていますが、まだまだ十分とはいえません。私もパキスタンの友人から援助の要請を受けました。私は縁あってパキスタンに深入りすることになりました。何か出来ることはないかと考えています。





















  
  お便りお待ちしています