イスラマバードの風 NO.14      2008年3月21日発行

 アッサラーム・アレイコム!石原武司です。
 (あなたの上に平安あれ!)
 今日3月21日はムハンマド(マホメッド)の生誕日で、パキスタンでは祝日です。イスラマバードでは杏の花も咲き始めました。現在午後1時ですが、室温は26度、多分外の気温は30度を越えていることでしょう。人々の服装もほとんどが半袖、春を跳び越えてすっかり初夏の雰囲気です。
 私がパキスタンに来たのは昨年の3月30日。まもなく1年になります。自爆テロと夏の暑さを除けば、私はパキスタンが嫌いではありません。というよりむしろ気に入っています。あと1年、パキスタンの理科教育の改善に役立つ仕事を残すと同時に、パキスタンをもっとよく知りたいと思っています。
 
◆ 家の補修
 昨年8月の大雨の時、天井からの雨漏りで我が家は水浸しになりました。大家はアメリカに住んでいるので、写真を添付したメールで惨状を訴えた結果、10月になってやっと屋根の修理をしてくれました。しかし、しみだらけの天井や壁はそのままでした。大家は賃貸契約を継続して貰うことを諦めたのか、契約期限(4月19日)まで何もしないつもりのようでした。それは余りにもテナントを馬鹿にしていると思ったので、天井と壁のペインティングを要求しました。「3月9日に来客がある。それまでにペインティングをしてくれ、さもないと契約更新はありえない」とメールすると、「すぐに工事にかかる」という返事がありました。ついでに、「工事期間中は近くのゲストハウスに泊まらせろ」と要求すると、それもOKしてくれました。ということで、2/28〜3/6、家の近くのゲストハウス(1泊2500Rs+tax)ですごしました。
 私たちはパキスタンでも借家選びに失敗しました。やはり、大家が外国にいるような借家は避けるべきでした。しかし、大家が外国にいるという例は意外と多いようです。成功すると母国を捨ててアメリカやカナダに移住するパキスタン人が多いからです。
 さて、もう一年どうするか。借家を変わるとすれば、また家探しを始めねば・・・・。

◆ Mr.アッバスとMs.ショイバとビデオ制作
 私の配属先のNISTEはビデオ制作部門を持っていて、30分もの、1時間ものの教材ビデオを作っています。スタッフも設備も揃っていて、さすがプロといえるようなビデオを作っています。
 私は家庭用ビデオカメラとムービーメーカーという簡易編集ソフトを使って、実験ビデオを作り始めましたが、ちょうど10本ほど作り終えた頃、私が所属するScience Training Unitの責任者であるMr.アッバスがMr.カーンが率いるビデオ制作部門と交渉してくれて、プロの指導を受けることになりました。われわれが作った”Bottle Tornado”という作品を、同じカメラを使ってプロが作ったらどうなるか、プロの撮影技術、編集技術を学ぼうというのがねらいです。
 1週間後に作品が出来ましたが、一番学ぶべき点は照明法だと思いました。われわれは被写体に照明を直接当てていましたが、彼らは間接照明しか使いません。その方が明るい映像が得られるのです。ただ、編集については、彼らはプリミアを用いて、高度なテクニックを駆使していましたが、われわれの目的にはそんな高度なテクニックは不要です。Simple is best.です。
 Mr.アッバスは有能な管理職です。Training Unit には、研究員15(女10、男5)、アシスタント10(全員男)、雑役夫5が働いていますが、毎朝全員が彼の所に行ってその日の仕事の指示を受けます。私は彼の部下ではないのですが、なぜか私は彼が苦手で、彼が休んでいたり、席を外しているとほっとします。
 私がビデオ制作を本格的に開始したとき、彼は2つの提案をしました。ひとつは、新しく私のカウンターパートとして、研究員のMs.ショイバを任命したこと。もうひとつは、ビデオ制作を推進するため、Mr.アッバス(物理)、Ms.フメイラ(数学)、Ms.サイマ(生物)、Ms.サバ(化学)、Ms.ショイバ、私の6名をメンバーとするビデオ開発委員会という組織を作ったことです。実はこの両方が、ビデオ制作のペースをスローダウンさせ、私のストレスの原因になっています。
 彼がMs.ショイバを新しく私のカウンターパートに任命したのは、任期が終わって私がいなくなっても、ビデオ制作の仕事を継続できるように、彼女にビデオ制作のノウハウを学ばせたいと考えたからです。それはいいことなので、私は彼女にビデオ編集を教えるべく、いつも彼女を待っているのですが、彼女は他の仕事が忙しいからといって、なかなか私のところにきません。どうも彼女はビデオ編集を覚える気がなく、そんなことはアシスタントのする仕事だと思っているようです。その上、彼女はビデオ制作の目的を理解しておらず、ビデオにウルドゥ語のナレーションを入れるべきだと言い張ります。このビデオは先生のためのビデオで、ウェブに載せる短いビデオだから、英語の字幕だけで十分で、ナレーションはない方が返っていいのだということをわからせるのにとても苦労をしました。
 ビデオ開発委員会も,、ビデオの質を高めるためという目的はいいのですが、実際はビデオの些細な欠点を指摘するばかりで、私ひとりが手直しに四苦八苦することになります。ビデオは10 MB程度にリダクションして教材データベースにするのですから、質より量が大切なのです。.それがなかなかわかってもらえません。10本のexcellentビデオより100本のgoodビデオの方が大切なのです。下手な英語を駆使して、5人を説得するのは疲れます。ビデオ開発委員会の前日はたいてい寝苦しい夜になります。でも、最近は何事も「インシャラ」(神の御心のままに)、最後は「どうぞその線でやって下さい。でも私はそれを指導出来ません。」とケツをまくってやろうと思っています。

◆ Dr.シャミィのこと
 彼はNISTEの副所長ですが、私が一時帰国していた昨年12月に就任したので、私はその存在を知りませんでした。NISTEではDG(所長)は神様のような存在ですが、副所長はどちらかというと影の薄い存在です。今回、所長に私の作ったビデオを見せることになったのですが、その前に副所長に見せて、その意見を聞いて、いくらか手直しして所長に見せるということになっていました。
 副所長は背の高い、ちょっと強面の人でした。予定では、物・化・生・数学のビデオを1本ずつ見せて、感想を聞くつもりでしたが、もっと見せろというので、10本全部見せました。字幕が見にくいとか、英語が間違っているとか、手厳しい意見を言うので、てっきり私の作ったビデオが気に入らないのだと思いましたが、上映の後、私を自分の部屋に招いて、チャイ(紅茶)をご馳走してくれました。彼は私の作ったビデオを大変高く評価してくれていて、それをウェブサイトに載せる計画にも全面的に賛成だといってくれました。
 彼はイギリスで生物学の博士号を取りましたが、今は理科教育の改善に取り組んでいて、その方面での著書も何冊かあります。かれは余り敬虔なイスラム教徒ではなく、タバコも吸うし、家ではビールも飲むそうです。日本には、3ヶ月広島大にいったことがあると言っていました。
 私はやっとよき理解者に巡り会えたという思いで、その日は一日幸せな気分に浸っていました。

◆ 初めての学校訪問
 Dr.シャミィに「私はパキスタンの学校を訪問したことがない」というと、自分がアレンジしてやるからぜひ行こう、「作ったビデオを生徒にみせてやるとよい」と言ってくれました。
 彼がアレンジしてくれたのは、F8/4 Islambad Model College for Boysという学校です。この学校はイスラマバードで2番目の名門校で、Grade6〜Grade14まで約2000人の学生がいる大きな学校です。校長はDr.シャミィの大学の同級生で、彼も学位を持っています。
 学校では、集会室のような部屋で、Grade8(中3)の生徒約80人と先生たち20人、計100人にビデオを見せました。この学校は液晶プロジェクターも持っていました。アンケートも書いてもらいましたが、ビデオは概ね好評で、家に帰って自分でもやってみたいという感想がいくつもありました。ビデオは先生向けに作ったのですが、生徒にも通用することがわかったのは収穫でした。
 ビデオ上映の後、校内を見学させてもらいましたが、実験室の設備、備品は日本の高校以上に揃っていました。コンピュータ教室には、ラップトップが30台入っていて、LANでつながっていました。どう考えても、これはパキスタンの学校ではない、ちょっと特別な学校だと思いました。今度はぜひパキスタンの標準的な学校を見学したいと思いました。
 
◆ 帰国報告会
 異国の地、パキスタンでも3月はやはり別れの季節です。3月10・11日、この3月に帰国する隊員3名、SV3名の帰国報告会がありました。隊員のひとりは現職教員で理科部会のメンバーであるKさん、SVのひとりはやはり現職教員で理科部会の中心になっていたOさんです。Oさんは、われわれ3名と私の前任者のNさんの開発した実験・実験器具をPDFにして、JICA Pakistan 理科部会のHPを立ち上げてくれました。
 URLは、http://jicapkscience.com/ です。
ぜひ一度覗いてみて下さい。
 3名しかいなかった理科部会のメンバーのうち2人が帰国、残るは私ひとりになってしまいますが、実はそうはなりません。3月6日に4人のSVが着任されましたが、そのうち3名は理科教育のSVです。月末には理科教育のSVがもうお一人来られるし、今年中にあと3人くらい理科教育SVが赴任する予定です。パキスタンJICAは、隊員は減る一方なのに、SV、それも理科教育SVは増加の一途をたどっています。
 ひとりでやった仕事は霧散してしまいがちですが、グループでやった仕事は後に残ります。ぜひ、理科部会を充実させて、パキスタンの理科教育の改善に役立つものが残せたらと思っています。
 今回、私といっしょに赴任したSVのYさんも帰国されます。もともと1年任期でこられたので仕方ありませんが、寂しくなります。
 歓送迎会の席で、意外なことがわかりました。コンピュータ指導ということで、4ヶ月の短期派遣でこられた I さんは、実は私の高校・大学の後輩でした。バヌアツでは、中学の後輩に出会い、ザンビアでは高校の教え子と出会いました。世界は狭いということを身をもって経験しました。
 ではまた。

咲き始めた杏の花


露天の散髪屋は50ルピー


家のペインティング工事


ゲストハウス「キャピタル・グランデ」


Mr.アッバス(左端)とビデオプロ集団


Mr.カーン(左端)とMs.ショイバ(右端)


Mr.アッバスとMr.カーン


演技指導をするMr.カーン


Dr.シャミィ(副所長室で)


研修参加者に講義をするDr.シャミィ


Dr.シャミィ・私・F8/4モデル・カレッジ校長


ビデオを見る先生たちと生徒たち


中庭と教室棟


理科教育SVのOさんの報告


理科教育JOCVのKさんの報告


JOCV,SV合同歓送迎会