イスラマバードの風 NO.13      2008年2月17日発行

 アッサラーム・アレイコム!石原武司です。
 (あなたの上に平安あれ!)
 2月中旬、日本ではまだまだ寒さ厳しい時期ですが、ここイスラマバードはもうすっかり春の雰囲気です。現在、2月17日午前10時ですが、室内の気温は20℃です。ジョギングに行く朝6時頃でも15℃くらいあり、ちっとも寒くありません。
 ほぼ1年間住んでみた結論は、パキスタンの夏は長く(4月〜9月)、耐え難い暑さですが、冬はとても短く(12月〜1月)、寒さも大したことはありません。

 ◆ パキスタンの総選挙 
 さて、明日2月18日はいよいよパキスタンの総選挙です。下院議員365人と4つの州の州議会議員約800人を選ぶ選挙です。当初、この選挙は1月8日に予定されていましたが、昨年末にブット元首相が暗殺されたため、延期されていたものです。
 ブットの喪に服するため、選挙運動は2月6日まで自粛、2月7日から再開されました。しかし、イスラマバードは有権者人口が少ないせいか、選挙運動といっても連呼や集会はなく、ビラがいたるところに貼りまくられているくらいで、至って静かでした。
 国会議員の選挙は、1999年にムシャラフがクーデターを起こして以来2回目です。パキスタンの主な政党は3つで、ムシャラフを支持する与党のPML-Q(パキスタン・ムスリム連盟Q派)、元首相でムシャラフに追放されたシャリフが率いる野党のPML-N(同じくN派)、そしてブットが率いていた野党のPPP(パキスタン人民党)です。
 パキスタンの国会議員になるには、@パキスタンの国籍を有すること、A学士以上の学歴を有すること、B過去に汚職等で起訴されていないことが必要ですが、Aは明らかにおかしいですね。これは、2002年のムシャラフによる憲法改正で決まったことです。
 面白いのは、この国は識字率が低い(53%)ので、字の読めない人でも投票が出来るように、政党や候補者を表すのに絵を使っていることです。与党のPML-Qは自転車の絵、シャリフのPML-Nはトラの絵、故ブットのPPPは矢印を使っています。それ以外に、腕時計の絵、本の絵、バイクの絵を使っている政党や候補者もあります。

 ◆ インドとパキスタン
 パキスタンとインドは元はひとつの国(イギリスの植民地)でしたが、1947年に宗教別に独立したのです。独立から60年、インドは現在、目覚ましい経済成長を遂げていますが、パキスタンはそれほどではありません。独立当初は、むしろパキスタンの方がインフラ整備が進んでいたのに、どうしてそんな違いが出来たのでしょう。それは結局、教育の違い、しいては宗教の違いからくるのではないかと思います。
 識字率はパキスタンは53%であるに対し、インドは約63%です。10%しか違いませんが、パキスタンの人口は1億5000万人であるのに対し、インドの人口は11億人。したがって、読み書きの出来る人口は、8000万人対7億人。何事も裾野が広いと頂上も高いことを考えると、この違いはとても大きい。
 パキスタンでも、イスラマなどでは識字率は80%を越えるでしょうが、地方に行くと20%台、30%台に下がります。特に、女性の識字率が極めて低いそうです。これは、経済的な理由もあるでしょうが、宗教的理由もあります。地方の親は、子供をお金のかかる学校にやるかわりに、お金のかからないイスラム神学校(マドラサ)にやります。神学校でも少しは読み書きを教わるでしょうが、主教材はコーランとイスラム法です。自爆テロを志願する若者は、マドラサで育てられるという話も聞きます。パキスタン政府は、このマドラサをガバメント・スクールに取り込みたいと考えているようですが、簡単にはいかないようです。

 ◆ 犬に噛まれるの記
 1月30日朝6時過ぎ、私は公園までのジョギングと公園での腹筋運動を終え、いつものコースを歩いて自宅に帰るところでした。まだ薄暗い中、住宅街にさしかかったところ、私の前に白いスピッツみたいな犬が現れました。私をみて「ウー」と唸るので、「公道なのにけしからん」と足で蹴飛ばす振りをして、追い払おうとしました。犬はちょっと逃げたようだったので、そのまま通り過ぎようとした途端、右足首に犬がぶつかってきました。特に噛まれたという感じはしなかったのですが、家に帰って調べてみると、ジャージーの下にはいていたズボン下に穴が開いていました。幸いにも皮膚に傷はありませんでした。
 貴重なズボン下に穴が開いたのは痛いけれど、その件は一件落着と思って、テレビ(NHKワールド)を見ながら朝食をとることにしました。その時ちょうど海外安全情報をやっていて、「世界では狂犬病で亡くなる人が年間5万5千人もいます。特に、インド、バングラディシュ、パキスタン、中国、ミャンマーでは毎年1000人以上の人が狂犬病で亡くなっています。狂犬病は犬猫以外にコウモリなどによっても媒介され、感染すると100%死に至ります。」というアナウンス。思わず、食事の手が止まりました。「本当に大丈夫だろうか」「一見傷はないようだけど、目に見えない傷があるのでは?」と、俄然心配になりました。
 さっそくJICAの医療調整員のSさんに電話してみました。Sさんは、「念のため、病院に行かれた方がいいでしょう」ということで、Shifa病院の救急外来に行くことを勧めました。Shifa病院は私の職場のニステから遠くないので、出勤の途中に寄ることにしました。救急外来の医師に事情を話すと、自分は処置できない、感染症の専門医に診てもらいなさいと言い、その医師の部屋まで案内してくれました。しかし、その医師は12時まで来ないということなので、12時にもう一度来ることにしました。
 感染症の専門医は30代くらいの若い医師でした。名刺には、アメリカでドクターを取得したと書いてありました。彼は、「外傷がないのでまず大丈夫だと思うが、念のため噛んだ犬が予防接種をしているかどうか確かめなさい。もし、してないとわかったらすぐに来なさい。処置します。」と言いました。彼は話し好きで、いろいろ話をしているうちに、彼の奥さんと私の職場の同僚Mrs.ヒュメイラが姉妹であることがわかりました。彼は私に、「何か変化があったら、夜中でも電話しなさい。」と自宅の電話番号も教えてくれました。
 その日の帰宅後、噛んだ犬を探しに行きました。確かこの当たりだったと思うところで、その家のチョキダール(門番)に、「この当たりに白い小型犬を飼っている家はないか」と聞きました。チョキダールは地方出身者が多く、英語が余り分かりません。でも、何とか私の言うことがわかったようで、4軒ほど先の家を教えてくれました。その家は車を2台持っている豪邸で、私は車を洗っていた男に、「白い小型犬を飼っていませんか? 私はその犬に噛まれた。」と言うと、その男は「うちにはそんな犬はいない。隣の外国人の家だ。」と教えてくれました。そこで、隣の家のブザーを何度も押しましたが、どうも留守のようで誰も出てきません。仕方がないので、翌朝もう一度出直すことにしました。
 翌朝、出勤前にその家に行ってブザーを押すと、やっと飼い主とおぼしき男が出てきました。私はここぞとばかり、前の晩に箇条書きにしていたことを一気にしゃべりました。しかし、その男は怪訝な顔をして聞いているばかり。そして、「うちは犬は飼っていない。その犬は隣の犬だ。」と、昨日訪ねた家を指して言いました。私は耳を疑いましたが、なるほどその家には犬がいる雰囲気はありませんでした。
 私はもう一度、昨日訪ねた家に行きました。門の外から何度もブザーを押しましたが誰も出てきません。門が開いていたので、私は建物に付いたブザーを押そうと中に入って行きました。すると、犬のけたたましい鳴き声。いました!私を噛んだ犬はその家の裏の犬小屋にいました。私は家の裏に回って証拠写真を撮りました。犬の鳴き声は一層大きくなり、その鳴き声で家の中からやっと人が出てきました。その家の主婦とおぼしき、50〜60のおばさんでした。私は、「散歩中、この家の前で白い小型の犬に噛まれた。その犬はこの犬だ。」と破れたズボン下を見せながら言いました。すると、そのおばさんは「それはきっと別の犬だ。この犬はいつも繋いでいるからそれはあり得ない。うちの子供もその犬に噛まれたことがある。」と言います。色も大きさも同じ犬が、同じような場所に2匹いるはずがありません。私は「間違いなくこの犬だ」と言い張りましたが、そのおばさんは絶対に認めようとしません。きっと、私が賠償を要求するとでも思ったからでしょう。私はただ、噛まれた犬が狂犬でないことを確かめたいだけなのに・・・。
 仕方がないので、私は作戦を変えて、「この犬は予防接種をしているか?」と聞きました。すると、おばさんは「この近辺の飼い犬はみんな予防接種をしている」と答えました。私は少し安心して、「もしこの犬が、この一週間で、病気になったり死んだりしたら、私に電話してくれ」と、名刺を置いて帰りました。おばさんが電話をしてくれることはまずあり得ないので、その日から10日程、毎日その家の前を通り、犬が元気なことを確認しました。
 この一件で私は、金持ちのパキスタン人のいやな一面を見たような気がします。「アラーはすべてお見通しで、お前はきっと地獄に行くであろう」とでも言ってやれたら、どんなに気分がすっきりしたことでしょう。でも、この一件のお陰で、狂犬病に詳しくなったし、これまで余り親しくなかった同僚のMrs.ヒュメイラと親しく話ができるようになりました。人間万事塞翁が馬ですね。

 ◆ 幼稚園児のためのサイエンス・ショー
 イスラマバードの日本人会の中に子供会があり、週に1回集まりを持っています。先日、その会にJOCVのKさんと私が呼ばれました。幼稚園児と小学生低学年のためのサイエンス・ショーをやって欲しいという依頼でした。
 何を見せようかと思案した末、「電気と遊ぼう」というテーマで、静電気の実験を見せ、「ストローくん」(静電気テスター)を作ってもらうことにしました。アインシュタインが子供の頃、磁石遊びがとても好きだったという話は有名です。大抵の子供は磁石遊びが好きですが、それは離れていても働く力がとても不思議だからです。静電気力も離れていても働く力ですから、きっと子供が興味を示すと思ったからです。
 結果は、半分成功、半分失敗でした。静電気に興味を持たせることはできましたが、静電気の法則をわからせるのはやはり無理でした。でも、この中の何人かは大きくなってもこの日の実験を覚えていて、科学者や技術者になるかもしれませんね。
ではまた。
  

午前10時の気温は20℃でした


与党(PML-Q)の立候補者


シャリフの党(PML-N)の立候補者


ブットの党(PPP)の候補者


腕時計の候補者とオートバイの候補者


シャリフ党(PML-N)の支持者の車


犬に噛まれたズボン下


シファ病院


飼い主の家


私を噛んだ犬


幼稚園児のためのサイエンス・ショー


静電気を起こす幼稚園児


サイエンス・ショーを見る子どもたち


ストローくんを説明する私


実験に見入る子どもたち


みんなで集合写真