アメリカ見聞録9

続 アメリカ音楽事情  ニューオーリンズの巻 Music in New Orleans

  今回の旅の圧巻はなんと言ってもNew Orleansへ行けた事である。この項ではNew Orleansの音楽に焦点をあてる事にする。僕はこれまではNew Orleansの音楽というとすぐにDixieland Jazzを思い浮かべていた。カンカン帽を被ったバンドマンが陽気で賑やかな音楽を奏でる光景が目に浮かぶのである。 Louis Armstrong の"When the Saints Go Marching In."「聖者が街にやって来る」などはその代表的音楽なのだ。だが,今回少々今までのconceptが変わる貴重な経験をする事となった。
  まず、New Orleans のjazzはDixieland Jazzとは言わずModern Jazz等に対してTraditional JazzとかNew Orleans Jazzと言うのが正しい言い方なのだそうだ。アメリカでは何かなよなよと頼りない音楽をdixieland musicと言うのだそうである。これは今回僕が学んだASSI(アメリカ研究夏季セミナー)の教授陣の一人で学生時代に'Jazz Archive'というjazzのラジオ番組を持っていた程のjazzについてはかなり博識なBill Peterman教授に直々に教わった事なので間違いない。
  さて、有名なBourbon Streetに入るとそこはNew Orleansのど真中、ネオンがきらめき賑やかな音楽が店のあちこちから誘うように流れてくる。蒸し暑いせいもあるが、客寄せのためであろう店のドアは開け放たれ通りから見える店の中ではlive performanceの最中なのである。そのBourbon Streetからすこしはずれた所にそれはあった。それとは、言わずと知れたjazzの殿堂Preservation Hallである。
  教室よりすこし狭いくらいのスペースにエアコンも無く、大きい扇風機が回っているだけ。良く見るとstageも無い。天井から演奏者に向けて、2つの白熱灯が適当な明かりとなっている。7,80人がぎっしりと入って前の人は床に座り、3列ほどbenchがあり後は立見席。もちろん飲み物はなし。トイレも無く、隣のBarに行って来いと言うのだから恐れ入る。Jazzを聞くのにこれほどの悪条件もめったにないだろう。編成は、trumpet, clarinet, banjo, trombone, Base, piano, drumsと誠に贅沢。各奏者が達者も達者。ensembleがまたすごい。一人一人のimprovisationがたっぷりあり、そしてchorusに帰ってくる。
  身体が揺れ、拍手と歓声が起き、場内が一体となって痺れていく。時にはやさしく語り、時には泣き、時には爆発する喜びと悲しみが表現されていく。基調は悲しくもあり明るくもある。Jazzを聞いて鳥肌が立ち泣きそうになるほど感動したのは初めての体験だ。これが本物のjazzなのかとしみじみと思った。Jazzの根源に触れた思いでホテルに帰ってもしばらく興奮がおさまらなかった。Preservation Hallに行って本当に良かった。New Orleansに来て本当に良かった。
  ペット奏者がDavis、ベース奏者がWalter Palet(?)。とても人懐っこい親父で、僕を見て日本語で「こんにちは」と声をかけてくれた。これほどの彼らがCDを出していないという。

Preservation Hallは後で聞くと元は学校の校舎だったということでなるほどと思った訳である。このすぐ隣にあるピアノのduoのliveでアメリカのcountry songsを連夜にわたって賑やかに繰り広げているOユBrienユsというbarや、Bourbon St.にある静かな大人の雰囲気でcoolなmodern jazzの生演奏が楽しめるRoyal Sonesta Hotelのラウンジなども是非再訪したい素晴らしい所だった。

アメリカ見聞録10へ

連載エッセイ アメリカ見聞録のTopへ