6画像データの保存、出力、及び活用に付いての私見

 最近よく耳にする言葉に「デジタルアーカイブ」という言葉が有ります。人類のあらゆる文化遺産をデジタルデータ化して保存しようと云った様な意味合いだと思いますが、一旦データ化をすると、単に保存する以上にその使い安さも格段に良くなります。私はこの部分に非常に興味が有ります。

 例えば、大きな博物館などに収蔵されている国宝や重文クラスの名品は、そうそう容易く見る事が出来ません。特別展などで年に一度とか、数年に一度しか見る事が出来無い場合も有ります。しかも、その場迄こちらが足を運ばなければならない訳で、たとえ見られたとしても、ガラス越しで光線の状態も必ずしも良くは無いのが現状です。また、写真を見ようと本を購入しても、元の写真の状態や印刷精度の問題で、期待した程の綺麗な写真を見る事は出来ません。更にそれらの本は高価で保管に当たっては場所もとります。

 これらの問題をこの技術は一挙に解決してくれます。この技術は費用もあまりかからず、少し練習すれば誰にでも出来ます。刀剣類に限らず、各博物館でこの技術を導入すれば、各々の博物館の収蔵品の画像を今迄には無かった超高解像度のデジタルデータとして保存できます。美術品の写真は今迄、限られた出版社と専属のカメラマンによって撮影され、フイルムは出版社に保管されて来ました。

 しかし、各博物館が画像を製作して、そこのサーバーに収蔵品の画像データを溜めておけば、画像の版権はその博物館に所属し、一般の人々はその博物館に行く事で、収蔵品の総てのオリジナル画像を常時見る事が可能になります。更には、博物館や美術館のサーバーをインターネットなどに接続すれば、世界中からその画像を見る事も可能になります。こうする事により、収蔵庫の奥に埋もれている文化財は、本当の意味での人類共通の文化遺産になると思います。

 私は刀鍛冶と云う立場上、刀剣類の研究をしていますが、刀剣の場合、鑑賞は手に取って見るのが基本です。しかし、名品と云われる様な文化財の刀剣類はそれが不可能に近いのです。この技術によって作られた画像は、実際に刀剣類を手に取って見るより遥かに細かい所迄、綺麗に見る事が出来ます。また、この様なデーターは、現在ではCDやDVDなどのディスクに焼いて販売が可能になっていますから、今迄の高価でかさばる本は必要無くなります。

 ただ、デジタルデータは複製されやすいと云った欠点も有りますから、採算を重視する博物館や美術館ではデジタルデータ自体を公開したり販売するのに消極的な所も有ります。そう云った場合、近年発達が著しいインクジェットプリンターによる出力も選択肢に入るのではないかと思われます。現在では、商業印刷の精度を遥かに越え、写真に迫る解像度のプリンターが開発され、その美しさには目を見張るものが有ります。そのような物を活用して、印刷物として画像の展示や販売を行えば需要は十分に有ると思われます。今迄、綺麗な刀の実物大の全身写真は販売された例がなかったので、これは刀の研究家や愛好家にとっては、とても有り難い事なのです。

 それに、いくら今のインクジェットプリンターが良くなったとはいえ、一旦印刷物として出力してしまいますと、データはかなり劣化してしまいますから、印刷物の複製はそれほど脅威ではなくなります。また、透かし印刷などの技術の導入により、複製を阻止する事も可能になるかもしれません。

 今の所、インクジェットプリンターによる印刷は、商業印刷に比べコストは高くつきますが、既に採算がとれる所迄安くなって来ています。将来的には更に印刷コストが下がると予想されますし、こう云った物はその場で必要枚数だけ印刷する事が可能です。大量の印刷物を発注してストックを抱える必要も無くなりますから、経済的に見ても良い方法ではないかと思われます。

 私は情報のユーザー側の人間ですから、私に都合の良い発想でこの項を書きましたが、それは情報の供給者側、特に公立の博物館や美術館から見ても良い提案ではないかと思いますので、このアイディアに限らず、こう云った新しい技術の導入がなされる事を期待いたします。

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