師匠探し

ここでは実際に刀鍛冶の住所を調べたり、作品を見る方法を紹介して行きます。

刀鍛冶の住所などを調べる

先ず刀鍛冶の住所を調べるには、大きな書店や図書館、伝統工芸品を扱う店などに行きます。そういった所には美術家名鑑が何種類か置いてありますので、その中の金工作家の所に、刀鍛冶の欄があります。大方の刀鍛冶の名前、住所、電話番号など連絡先だけはそれで分かります。

また、最近では、現代刀について色々書かれた書籍も増えてきました。大きな本屋さんで探してみると何冊か見かけますし、刀屋さんにも置いてある場合があります。

この他、東京などの大きな刀屋さんでは、独自に取り引きの有る刀鍛冶の解説付きの作品集なども出しています。こういった本では刀鍛冶の作風や考え方も研究出来ます。神田などの古本屋で刀関係の書籍を置いている所では、こういった書籍をまとめて購入することが出来るかもしれません。以前私の所に来た学生は国会図書館まで行って、現代の刀鍛冶についてかなり調べたと言っていました。一生の仕事を決めようというのですから、それくらいの努力は必要かもしれませんが、私は頭が下がりました。まっ、調べようはいくらでもあると云う事です。

次に実際に現代刀を見る方法を書いておきます。

東京で現代刀を見る 

刀鍛冶は毎年コンクールがありますから、その時多くの作品を見ることが出来ますし、コクールの初日には受賞式がありますから本人達も会場に来ます。例年コンクールは、渋谷の刀剣博物館で6月上旬から中旬にかけて開催されます。

刀剣博物館の電話番号は、03ー3379ー1386です。

会場では作品の写真や住所を書いたパンフレットも販売されると思います。このパンフレットは、刀剣博物館に常時置いてあると思いますから、購入するのもよいかもしれません。

残念ながら、私は日本美術刀剣保存協会の方針に疑問を持っていますので、今年限りで刀匠会を退会しました。そんな訳で今年から出品を取り止めることにしましたが......。

大阪で現代刀を見る 

毎年大阪城の天守閣においても現代刀の展覧会が開催されています。概ね、毎年6月の終わり頃から7月の中旬にかけてです。東京展と同じ内容ですが、土曜と日曜日には、関西の刀匠が刀の説明の為会場に来ています。また会場では作品の写真や住所を書いたパンフレットも販売されると思います。

その他の現代刀を見る方法

他に、刀匠会の各地方支部がその地方の刀鍛冶の展覧会を行うことがあります。また時折デパートなどで現代刀の個展なども開催されてる事もありますから、それらを見るのもよいと思います。これら催し物に関する情報は、できるだけ私のHPの掲示板に載せるようにもいたします。又、東京などの大きな刀屋さんでは、常時現代刀を取り扱っている店もありますから、それらの店では実物を手にとってじっくり見ることも出来ます。この様にして、実際の作品を見て、自分が弟子入りしたい刀匠を探す時の参考にしてください。

鍛冶屋も色々

では、受け入れ側の刀鍛冶を見てみましょう。現在、刀鍛冶になる為の専門学校は有りません。刀鍛冶になるにはどこかの刀鍛冶の元に弟子に入るのが一般的です。弟子を受け入れる刀鍛冶にも色々あります。現在では、もう少なくなってしまいましたが、私達が習ったような、完全住み込みで、衣食住の面倒は見てくれるものの、24時間拘束、給料なし、覚えるまで出られない、といった、昔ながらの徒弟制度を守っている刀鍛冶もいますし、今風に弟子は自分でアパートを借りて師匠の仕事場に通い、月謝を払い1日8時間だけ勉強をするような所まであるようです(私はそういった所にはあまり付き合いがありませんので細かいことは分かりませんが)。

どんな師匠につくかは貴方の自由ですが、その師匠の作風や技量、それに人柄を十分検討して、一生自分の師として尊敬できる人を選ぶことが大切です。どんな伝法の刀鍛冶に習うにしても、結局は師匠となるべき刀鍛冶の人間性を見抜くことが最も大事だと思います。給料や就業条件を並べて就職先を探すのとはだいぶ状況が違います。仕事がきついとか師匠について行けないとかで途中で辞めるのは、相手先に大変な迷惑ですし、貴方にとっても貴重な時期を棒に振る事になります。この選択はなかなか難しいです。

偉い先生?

それから、よく「偉い先生」に弟子入りすると、コンクールでよい点数がもらえるのかと聞かれることがあります。そういった傾向は有るかもしれませんが、他の工芸の世界よりはコネの力は弱いようです。ただ「偉い先生」は作品を作る際、コンクールで良い点数を取るためのポイントを知っています。そこで勉強をする弟子達はそのテクニックも勉強します。結果的にコンクールでは有利になります。でも、「偉い先生」に弟子入りしなくとも、高い技術と高い志を持った師匠の所で勉強をしなければいけないのは絶対条件です。高い技術を習得しなければ、独立時のスタートラインで大きく出遅れることになります。また、高い志を持った師匠の所で学ぶことは後の生き方に大きく影響します。ですから、ここでの選択の失敗は取り返しのつかない結果を生むことになります。

駄目押し

もう一度書いておきますが、刀を作るには「何が何でも刀を作りたいと云う執念」と、溢れるような刀に対する情熱が必要です。よほどの覚悟がない限り刀鍛冶になることをお勧めはしません。この仕事は、自分の周りの人に迷惑をかけることを気にしていては出来ない仕事である事だけは事実です。何が何でも刀を作りたいという執念と、丈夫な体が有れば何とかなりますが、つまらないプライドや世間体を気にする心は決心を鈍らせますから、捨てる必要が有ると思います。ひらったく言えば頭を丸めて出家するぐらいの気持ちが必要です。貴方は大丈夫ですか?

そして、そのなれの果てがここに居ます。こんな事は書きたくありませんが、50歳を目前にして家族を養うほどの稼ぎもなく、いまだに独身です。今でこそ親や周りの人に迷惑をかけないように生活はしていますが、生活費などを引いた収入の残りの殆どは、弟子を食べさせるためと、より良い刀を作るための研究費に当ててしまいますから、いつも貧乏で、今も10年前と同じ服を着ています。それでも自分にとって理想の刀を作りたい一心であがいているのが現状です。他の人が見れば、きっとかなりの変わり者に見えたり、滑稽に見えたりすると思います。

最後に一つ

私が一生涯の幸運だったと思える事を一つ。それは師 宮入行平のもとで勉強が出来たということです。短い時間だったですが、この師匠に巡り会えた事で、私の人生は悔いの無い人生になったと思っています。そして、これが私の最大の誇りでもあります。これから弟子入り先を探す皆さん、良い師匠を見つけて弟子入りして下さいね。

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