「ふー・・・」
結局あの依頼、奪還料を貰うことが出来なかった。
ちょっと凹む俺・・・
ただでさえ最近収入が無かったというのに・・・
しょうがなく、最近の日課となってる型の練習をする。
30分ほどぶっ通しでやってると誰かが階段を上がってくる音がして、
ドアがノックされる。
「ん・・・誰だ?」
「・・・私です」
「先輩か」
ドアを開けて迎える。
「どうかしたの?先輩」
「・・・・・・」
なにやら言い出し辛そうにモジモジしてる。
「・・・・・・」
だから俺も先輩が言い出すのをじっと待った。
「あの・・・元気出してください」
「え?」
「元気無さそうだから」
「・・・大丈夫だよ、心配しないでも」
軽くガッツポーズを取ってみせる。
自分では気にしてないつもりだったが、どうやら態度に現れていたようだったから。
「・・・・・はい」
To Heart〜虹の遊歩道エクセレント 〜
第三話「その後の物語(3)」
「おはよう、藤田」
同じ語学の友人に声をかけられる。
「・・・・・おはよ」
久しぶりに俺は大学に来ていた。
この学校は試験とレポートさえきちんとやっておけば出席重視の授業はあまりなかった。
というより、そちら重視の授業ばかりを選んで取った。
綾香や先輩は一時限から出席しているため、
俺は二時限から一人でのんびりやって来た。
「ふぁ〜〜、だりい」
綾香は違う講義だし、
大して親しい友人のいない講義だった。
それにレジュメも配ったのを貰ったし、もうやることも無かった。
机に伏す。
そしてその直後俺は眠りに落ちていった。
「ねえ、来栖川さんってどこのサークルにも所属してないよね?」
「ええ・・そうだけど?」
昼休み、綾香と芹香が共に昼食を取っていると、
同じ語学の連中が群がってきていた。
「じゃあさあ、俺達のテニスサークルに入らない?」
大学に入ってからいまだこういう勧誘がやけに多い。
未所属だからしょうがないと言えばしょうがないが、正直少々鬱陶しくなっていた。
「ごめんね、色々忙しいんだ、私」
「え〜、いいじゃん。楽しいと思うよ?」
あわよくば綾香と・・・
そんなスケベ心が見え隠れしていた。
「・・・・・浩之さんに繋がらないんだけど」
携帯片手にどこまでもマイペースな芹香。
「あれ?どうしたんだろ、あいつ」
男達の表情が変わる。
「・・浩之って誰?」
入学して一年と二ヶ月、あまり学校に来ない浩之をいまだ知らない人間も多かった。
「え・・・誰って・・・」
思わず芹香と顔を見合わせる綾香。
ちょっとだけお互いの顔が朱に染まる。
「ま・・・まさか・・・」
そんな表情に気づき嫌そうな顔をする男。
限りなく真実に近く、彼らのとって最悪の予想が脳裏に浮かんだのだろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
じっと見つめられてか、それとも他の理由からか、
林檎のように真っ赤になる二人。
「のおおおおおおお!!」
頭を抱えて絶叫する男達、
「あ、浩之さん」
そこにタイミング悪く浩之がやって来た。
だが食券を買うため反対側を向いていたため、芹香たちに気づかない。
「呼んできますね」
「あ、お願い」
どんな状況でもマイペースな姉に、
「少しは状況を把握してよね」
綾香はちょっとだけやれやれな気分だった。
「しかし・・・なんで俺が睨まれないといけないんだ?」
「ん・・気のせいじゃない?」
全ての講義を終えて共に帰宅する三人。
浩之は昼間の事がまだ気にかかっていた。
「だって・・殺気立ってたぞ?アイツら」
「・・・・・」
沈黙する芹香。
自分の所為だと理解しているためだ。
こういう小技も芹香は体得していた。
「ま、いいんじゃな・・」
不意に綾香の言葉が止まる。
いかにも怪しいモノを見かけてしまったからだ。
浩之達の事務所は4階建てで、2階以上は居住区になっていた。
その四階のベランダに誰かが雨樋を伝って登ろうとしているのだ。
「下着ドロ!?」
「おのれ!!」
身近にあったこぶし大の石をピッチャーの如く投げつける。
それは一直線の男の頭に命中した。
「ストライク!!」
男が寿命のつきた蝉みたいに落ちてくる。
そこに一人の少女が走り込んだ。
「ハリーアップ!!」
拳銃を突きつける。
「な!?」
突然の事態にちょっとついていけない浩之。
まさか第三者が見張っているとは思ってもみなかったのだ。
「って・・・・・」
その少女を見て綾香が驚く。
見知った顔だったから。
そしてそれは浩之も同様だった。
「レミィ!?」
「久しぶりね、ヒロユキ」
浩之が事務所を構えている西新宿、
繁華街から離れたこの場所は色々と治安が悪い場所だった。
そんな場所に普通の人間はあまり住んでいなかった。
だが中には例外もいる、
宮内レミィはその例外の一人だった。
「ふんふんふ〜ん」
家族がロスに帰った後も、彼女は一人日本の大学に通っていた。
洗濯物を干していると、とある事に気づいた。
「レースの下着が・・・無い?」
そう、お気に入りのショーツが一枚見あたらないのだ。
「おかしいネ」
辺りを見渡す。
しかし彼女が住んでいるのは何と言っても12階建てのマンションの一番上。
壁をよじ登って来るには不可能に近い場所だった。
「気のせい・・・じゃない」
日本に長くいるため、だいぶ流暢になってきた日本語。
目を閉じていれば彼女がハーフだと気づく日本人は少ないだろう。
「泥棒(プロ)・・の仕業・・・よね?」
拳に力が入る。
「絶対に捕まえてやる!!」
「ってわけなのヨ」
「なるほどねえ・・・」
下着ドロ、それは結構深刻な問題だった。
事務所のベランダにはすぐにセリオを呼んで最新式のトラップを仕掛けて貰った。
勿論特殊部隊のデータをDLしてだ。
与論だが、セリオシリーズが売りに出されても、
サテライトシステムでDL出来るデータはかなり制限された。
DLされたら危険なデータなどがあるからだ。
制限されたというよりむしろ、落とせるデータが限られたとも言えるが・・・
おかげで落とせるのはほとんど「家政婦」などの、
人間の仕事を奪わない職業に限定されてしまった。
そうでないと、人間の仕事が無くなってしまうからだ。
「これでよしだな・・しかし」
許せない奴がいたものだ。
「捕まえましょうよ、浩之」
俺も綾香と同意見だった。
先ほどの下着ドロは別口の奴だと調べの結果わかったが、
下着ドロというのは基本的に女の敵だ。
「しかし1人や2人捕まえるならまだしも、全滅させるのは骨だぞ?」
いくらなんでもそれは不可能に思える。
「兎に角その凄腕っていう下着ドロだけでも」
12階建てをよじ登っていく下着ドロ、
敵ながら天晴れな奴だと思う。
「そうだな」
久しぶりに何かやり甲斐のある仕事のようだ。
まあ、無償奉仕だが。
取りあえず久しぶりに昔のメンツに収集かけた俺は、
第一回下着ドロ対策本部を事務所に設立するのであった。
つづく