浩之の非日常(仮)
第二話(改訂版)
東鳩習作SS『浩之の非日常』
−月曜日@
『ピピピピッピピピピッ・・・・ガチャ』
ゆさゆさゆさ・・・・ゆさゆさゆさ・・・・
「・・・・・おきてください」
・・・あー・・・
ゆさゆさ・・・・ゆさゆさ・・・・
むくっ
「ふぁぁ・・・先輩、オハヨー。起こしてくれたのか?」
こくん、と先輩は頷く。
「へへ、さんきゅー先輩」
なでなでなで・・・
お礼に先輩の頭を撫でる。起き抜けで何の手入れもしていないのに、サラサラとした艶のある髪。
「先輩の髪ってさぁ・・・ホントにサラサラしてていいよな、オレなんか寝癖で出っ張ってるんだぜ?」
「・・・・・・・・・」
「”不思議な感じです”って?オレ変なコトしちゃったか、ごめん」
そう言って手を引っ込めると、先輩は『ふるふる』と頭を振った。
「そっか?じゃぁ遠慮なく・・・・」
また撫でる。
「姉さん、浩之ー、入るわよ〜」
『がちゃ・・・』
綾香が入ってきた。そしてオレ達を見て、
「何やってんの?浩之は」
「頭撫でてんだ」
「そりゃ・・・見れば解るわよ」
「そうだ綾香、そこに直れ、じゃなくて座れ」
「なになに?・・・こう?」
返事をして綾香が座ると、オレはもう片方の手で綾香の頭を撫で始めた。
なでなでなで・・・
「え・・・?」
何やら解らないような顔をする綾香。
「へへ・・・やっぱり二人とも髪がサラサラしてて良いよな。キレイだしなー」
「ひろゆき・・・・」
なでなでなで・・・・なでなでなでり・・・・
「−浩之さん」
「うおぉぉぅっ!?」
「セリオっ!?」
「・・・・・・・!」
3人揃ってビビる。特にオレ、変に悦に入っていたのを釘でも刺されたかのようだ。
「で・・・セリオ、どうしたの?」
とっさに切り替えて綾香が取り繕う。
「−朝食の支度が整いました。皆さん、食卓へどうぞ」
やましいコトをしていたわけではないのだが、ヤッパ誰が見てもアレは変だったな。ドコまで見られていたのやら。
『ぴんぽ〜ん』
あかりか・・・・?ヤベっ、どないしょっ。
「浩之ちゃ〜ん!」
『ブーッ』
「うわっ、汚ねっ」
綾香がみそ汁で霧吹きやがった・・・うへぇ、みっともねーなぁ。
「ひ・・・ヒロユキチャン?」
綾香がカタコトで繰り返す。そっか、コイツはあかりが初めてだったか。
「と・・・取り敢えずオレ出てくるわっ、テーブル適当に拭いといてくれよっ」
「−解りました」
『ガチャ・・バタン』
「よー、あかり・・・オハヨ」
「浩之ちゃん、今日は?もう着替えとか済んでるみたいだけど・・・それにおばさん達の車がないね。帰っちゃったの?」
ウワ・・・急所ばっかり突いてきやがる。どうやってウソをつくか・・・ムダっぽいけど。
「お袋達なら、今朝方スグに・・・行く前にオレ起こしてったから」
わ・・・我ながら上出来と言いたいが、イッパイイッパイだ。こりゃムリだな、はぁ。
「そうなんだ・・・解った。もう学校行ける?」
「おう・・・ちっと待ってろ」
綾香達とは時間をずらして出発でもすればいいだろう・・・とドアに手を掛けようとしたとき、
「はろはろ〜」
・・・・・綾香、オメーたった今オレの苦労を・・・・
「あ、違った。オハヨーかな?」
もうどうでもいいっす・・・勘弁してぇ。
「来栖川・・・先輩?」
「先輩・・・?あぁ、姉さんと同じ制服ね」
「え・・・・?」
あかり混乱、オレもオレで混乱。
「初めまして、妹の来栖川綾香よ。綾香って呼んでくれて良いわ♪」
「はぁ・・・あ、私は神岸あかりって言います。よろしく・・・」
二人でお辞儀し合う。オレは真っ白。あーあぁ、頼むから志保にチクってくれるなよ・・・
「浩之ちゃん・・・?」
「あ?」
マヌケ面で返す。どの面下げて・・・情けないのでマヌケ面下げるしか。
「これって・・・どういうこと?」
怪訝そうな顔であかりが聞いてくる。どう答える?
1.同棲
2.外泊
・・・・同じじゃん。
「浩之はね、私との勝負に負けたから罰ゲームで私を家に泊めることになったの」
だーッ!余計な助け船は出さんでよろしっ!・・・と、強くも言えない。だって他に言いようが有るかよ?
「ば、罰ゲーム・・・・?」
あかりはワケが解らない模様。そりゃそうだ、ワザワザ来栖川のお嬢様がこんな小市民の家に泊まりに来るなんて・・・無いよなぁ。
「浩之ちゃん、綾香さんとは・・・どういった・・・その・・・関係なの?」
ンーなモジモジした態度で核心を突いてくるなッ!と言いたい。・・・ホントのとこどうなのか、オレにも解らないんだからな・・・
「こ・・・拳で語り合った仲だ・・・」
そっぽ向いて答えるオレ。じゃなきゃこんなマンガで、しかも野郎同士でも無ければ有り得ないようなセリフは吐けない。
「浩之はね・・・ん〜、そうね〜・・・ボーイフレンド♪」
び・・・ビミョーだ。
「そ・・・そうなんですか・・・」
−その後、先輩達も含め学校まで歩いて登校、綾香とセリオは寺女なので途中で別れた。
「じゃぁ先輩、放課後な〜」
「・・・・・・・」
先輩を下駄箱まで連れてきて、オレとあかりが2年の下駄箱に向かう途中・・・
「悪ぃなあかり・・・やっぱ、こういうのは言いにくくってよ。ゴメンな」
「うぅん・・・夕べ浩之ちゃんの家の前で執事さんの声がしたから・・・でも来栖川先輩だけだと思ってたから、ちょっと驚いたよ」
「わ・・・・解ってたワケ?」
「だって、あの執事さんの声大きかったんだもん」
き・・・近所メーワクジジィが・・・それより
「解ってて今朝は?」
「だって・・・最初にウソついたのは浩之ちゃんでしょ?」
言い返せない。今日は早いから志保が居ないな・・・気配もないし・・・・よし、
「なぁあかり・・・解ってると思うけど、志保には言わないでくれよ・・・アイツはコトを大きくするから」
「うん、解ってる」
教室に着く頃に予鈴が鳴った。普段はこの予鈴が鳴る頃は息を切らしてるんだよな・・・ご苦労なこった。オレのことなんだけど。
「あれ?浩之おはよう、今日は早いんだね」
「雅史か、オハヨ。遅い日も有れば早い日も有るってコトだ」
いつかあかりに言ったようなコトで返す。
「そんなものかな?あ、あかりちゃんもおはよう。いつもこうだとあかりちゃんも助かるのにね」
「雅史ちゃんおはよう。・・・そうねぇ、でも浩之ちゃんは私が起こしに行ってあげないと寝坊しちゃうから」
「起こしに来るだけでいいじゃねーか。ワザワザ登校まで付き合うことねぇよ」
そんな他愛のない談笑。
−授業中は殆ど、熟眠。端折るわけではないが、敢えて言うことも無し。
昼休み、中庭で昼食がてら先輩と日光浴。
「先輩、なんか昨日はビビるやら嬉しいやら複雑だったけど、綾香にしろ先輩にしろ人の家に泊まるのに、先輩ん家では止められたりしなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「”おじいさまが海外に行っていて、お父様とお母様からは許可がおりました”って?・・・ふーん、両親は理解が有る・・・ってよか、ウチの親父とかと似
たり寄ったりだな。悪いコトじゃねーけど、オレそういう親って結構好きだぜ」
日差しを浴びて呆けているうちに・・・また寝た。
目が覚めると先輩の膝枕・・・やっちまった。
「ゴメンな、先輩・・・寝ちゃったのかオレ・・・」
「・・・・・・・」
「”構いません”って?う〜ん、でもやっぱり先輩の前で寝るとはな〜。オレもまだまだ修行が足りないぜ。そうだ先輩、今日は放課後どうすんの?」
「・・・・・・・」
「え?歩いて帰れんの?・・・じゃぁどっか寄ろうぜ!・・・・ゴメン、却下」
「・・・・・・・」
「いや、オレ仕送りまだだった・・・ギリギリだ。情けねぇけど」
「・・・・・・・」
「”お金なら大丈夫”って・・・そういう問題じゃないと思うけど」
膝枕して貰っている姿勢で、「女の子に借りるわけにはッ!」なーんてリキむ気も起きなかった。
そのうち、予鈴が鳴って解散・・・午後の退屈な授業に戻る。
−放課後
「浩之に姉さんと・・・それに神岸さん、お疲れさま〜」
「−お疲れさまです、芹香お嬢様、浩之さん・・・神岸さん」
「おー綾香とセリオか、ワザワザこっちに来たんか・・・お疲れ」
「えっと・・・お疲れさま」
「・・・・・・・」
志保は・・・まいた。あんなの知るかコンチクショウ!・・・である。
「姉さんが長瀬と一緒に帰らないのって珍しいわよね・・・折角だからどっか寄ってく?」
「うっ」
「浩之、どうしたのっ?」
「仕送り来るまで金が無いからな。綾香、貸してくれ」
「イヤ。浩之って忘れるもの」
ひでー・・・ま、当たり前か。試しに言ってみただけだし。
「言うと思ったぜ・・・じゃぁ、どうすっか」
「んー・・・折角姉さんが徒歩だからね」
おや・・・?
「うぃーっす、葵ちゃん。今帰り?」
「あ、藤田先輩に・・・綾香さん!?」
後ろから呼び止められて振り向いた葵ちゃんは、一緒に居た綾香を見て、驚く。
「あぁ、失礼しました・・・神岸先輩に、芹香先輩に・・・えっと」
「−セリオと申します。以後宜しくお願いします」
ペコリ・・・・
「あぁっ、ご丁寧にっ」
ペコッ
慌ててお辞儀を返す葵ちゃん。初対面だったか・・・
「マルチさんと同じく、メイドロボットの方なんですか?」
「−はい、そうです」
マルチは・・・あぁ・・・湿っぽいのは苦手なんだが。それとなく後でセリオに聞いてみるか。
「確か葵ってエクストリームの同好会作ったのよね?」
「はっ、はいっ!」
「月曜だかんなー・・・休みだろ?確か」
「残念ねぇ・・・顔出そうと思ったけど」
「いっ、いえいえっ!綾香さんさえ宜しければぜひっ!」
綾香の『残念ねぇ・・・』が相当キいたらしい。
「・・・いいのか?葵ちゃん」
その後、葵ちゃんは先輩にも格闘技の素晴らしさを説く・・・筈だったのだが、綾香との組み手になってしまい・・・・
「先輩、手首は・・・もっとこう・・・」
『ぱすっ』
『ぱすっ』
ま、まぁ先輩も楽しんでる(?)みたいだし、良しとするか。審判はあかりに任せたのだが・・・殆ど二人のセルフジャッジだろうな。
「浩之ちゃん、綾香さんと拳で語り合ったってこういう意味だったんだ・・・スゴイよね、綾香さんと勝負したんでしょ?」
「あ・・・あぁ」
ボクシングルールと違うとはいえ、河原で勝負したときと動きが違うのが解る。あのルールじゃなかったら、どうやって相手が出来ただろう・・・・怒らせな
い方がいいな。
「はぁっ、はっ・・・」
終わったみたいだ。綾香が勝ったみたいだ。
「ん〜、もうチョットね、葵」
「いっ、いえっ・・・私なんかまだまだですっ。それよりも有り難う御座いました!」
と言って礼をする葵ちゃん。
「葵の悪いクセね〜。まだ抜けてなかったのかしら、いいんだけどさ」
「なぁ・・・綾香、ひょっとしてボクシングルールってアレ・・・すっげぇハンデだったんじゃねーか?」
「浩之、そんなコト無いわよ。私はボクシングルールで出来うる限りの力を尽くしたもの・・・そりゃぁ、多少遠慮はあったけど」
「ふ、藤田先輩!綾香さんと勝負したんですかっ!?」
葵ちゃんが目の色を変えて聞いてくる。このコは・・・
「あぁ・・・聞いての通り、ボクシングルールだけどな。なぁ葵ちゃん、やっぱしエクストリームみたいになんでもアリとボクシングじゃぁ動き違うんかな?」
「ちっ、違うと思いますっ」
綾香が居て緊張しているのか・・・?いや、本当に随分違うのかもしれないけど。どっちだか。
「ほらね、浩之は気にしなくて良いのよ」
「う〜む・・・ま、いっか。帰り支度かな、そろそろ」
「そうね〜、結構時間気にせずやったからね」
「・・・・・・・」
「あ、先輩。お開きだってさ・・・そろそろ帰り支度しようぜ」
こくこく・・・
こうしていつにもなく大所帯だった本日のエクストリーム同好会はお開き。6人連れだって帰りも一緒に・・・
「あっ、綾香さん、藤田先輩の家に泊まってるんですか〜〜〜!!??」
いっ、言うなや〜〜〜〜!!!!
つづく