あきひろさんよりHP開設記念ToHeart SS (連載)(^^
浩之の非日常(仮)
−日曜日
「今日はえぇ天気やー」
寝癖も気にせず、モーニングコーヒーと洒落込む。平和ボケ高校生、藤田浩之ここにあり。
『ピンポーン』
「はい、どなた様で・・・」
「ぶッ・・・ぷははははははッ!」
オレの顔を見るや否や、いきなり吹き出したその失礼な客は綾香だった。
「何が可笑しい」
「ひ、浩之・・・くくくッ」
「だから何が可笑しいんだってば」
いつものクセで頭を掻きながらそう言ったとき、気づいた。寝癖とそれに・・・ヒゲ。
「あー、ホラ、アレだ。今日は日曜で何もないし、起き抜けだからな」
「起き抜けって・・・こんな昼近くまで寝てたの?不規則ねぇ。それに『何もない』ってどういうコト?」
「そのまんまの意味だ。暇だから昼過ぎまで寝てても良かったけど、目が覚めた」
「ちょっとちょっと、忘れたの?」
何を・・・?と聞き返しても良いけど、いたずらに怒らせると始末に負えない。しばし考える・・・が思いつかない。適当にはぐらすとするか。
「あー、冗談。忘れてない。支度してくるわ」
多分またゲーセンなりそこらへ繰り出してバカ騒ぎだ。そんな約束してたのか・・・
「支度って・・やっぱ忘れてんじゃないの」
「違うのか?ゲーセンとかじゃないのか?」
「はぁ・・・セリオ、ヒント」
「−はい、綾香お嬢様」
でっけぇスーツケースを引いたセリオが現れた。
「おいおい、なんだ。どっか泊まりがけで?学校どーすんだよ」
「ここに泊まるの」
と綾香。モロ爆弾発言だが・・・
「綾香ぁ・・・頭を打ったならそう言ってくれ」
「頭打ったのはアンタでしょ!忘れたの、この前の勝負の時・・・」
この前って、最後にしたのはサバイバルゲーム・・・
「あ、サバゲー」
「そ、負けたら何でも言うことを一つ・・・で、私が勝ったからお泊まり」
は・・・?なんでまたこんな中流の家に・・・イヤ、そうじゃなくて!
「じょっ、ジョーダンじゃねぇっ!それこそ度を超してるじゃねーか!誰だよ、『一生家来になれ』って言ったら『度が過ぎてる』なって言ったの」
「確かに言ったけど、頼んだら承諾してくれたじゃない。それに浩之はご両親が家に居ないから問題ないじゃない。・・・あ、学校へはココから通うんで
ご心配なく」
く・・・コイツ何処まで知っているのやら・・・・いや、情けないがオレが口を滑らしたって可能性も。それに、ここから学校へだと?ご心配大アリじゃ!
「両親が居ないから却って問題なんじゃねーか」
と毒づく。
「セリオ居るから問題ないし」
一蹴されたな・・・
「解った。上がれよ・・・オレは顔でも洗ってくる。リビングこっちだから適当に頼むわ。」
キリがないので先に折れて、洗面所に向かう。
頭を洗って、寝癖を直して歯を磨いて顔も洗う・・・ヒゲも剃らねば。
一通り終えてリビングに戻ると普段使っていないキッチンから良い匂いが・・・しない。
「チッ、押し掛け女房みたいにメシ作ってくれれば・・・」
「だって私は客だもの。用意するのは浩之でしょう?・・・最も、もう食事は来る前に済ませたから良いけど」
そりゃそーだわな、自分で食わないのに作るなんて・・・
『ピンポーン』
またかよ・・・・客が多いぜ全く。
「はいはいはい・・・」
ドアを開ける・・・がっ
「やっほー、ヒロぉ〜。志保ちゃんニュースの号外よぉ〜♪」
「・・・・・・要らん」
ドアを閉めようとすると志保が足を入れてきた。
「ちょっと待ってよヒロ〜。今回のニュース、聞いて損はないわよぉ?・・・ってアイタタタ・・・なんで閉めるのよッ?」
冗談じゃねーッ、綾香が居るのがバれたら・・・・・考えるだけでもイヤになる。
「なんでって・・・なぁ、お前うるさいから・・・・としか」
「お客さん、今ならこの志保ちゃんのトークライブ特等席のチケット付きよっ♪」
「新聞の勧誘かテメーはッ!」
志保の足を押し出してドアを閉める、そして鍵を掛ける・・・完了。
「キー!!覚えてなさいよ!ヒローー!!!」
何とでも言いやがれ。
リビングに戻ると綾香とセリオで・・・チェスをしていた。
「なんだ綾香チェス出来んのか?」
「うん。今セリオがサテライトからダウンロードしたデータと勝負してるの。浩之はチェスできる?」
「オレは将棋しかできねーよ。そうだ、オレはこれからコンビニでメシ買ってくるから・・・居留守頼むわぁ」
「居留守ぅ?・・・普通は留守番頼むじゃない」
「近所に誤解されたくないからなぁ」
「あっそ・・・解った。じゃぁ電話も留守電ね」
「おぅ、じゃぁ行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
「−行ってらっしゃいませ、浩之さん」
コンビニで適当に物色した帰りに、あかりと行き会った。
「あ、浩之ちゃん」
「おぅ、あかりか」
「浩之ちゃん、休みだからって寝坊したでしょ。それにお昼もコンビニ弁当なの?」
「るせー、ほっとけ。オレはコイツで栄養摂ってんだ」
「もぉ・・・・だから授業中眠くなっちゃうんだよ。」
「ちゃんとしたモノ食っても眠くなることに変わりはねーよ」
「浩之ちゃん、お昼は買っちゃったから仕方がないけど、今日の夕飯作ってあげようか?」
「お・・・そうだなー、頼めるか?」
「うん、じゃぁ今夜7時頃ね」
よし・・・思いがけぬコトで夕飯ゲットだぜ。やっぱ家の中に籠もってばっかりじゃぁなく、たまには外に出るモンだ。こういうナイスなイベントが有るかも
しれないからな。
「そう言えば浩之ちゃん、志保が怒ってたよ。休みだって言うのに家の中に入れないし、話も聞いてくれなかったって」
「貴重な休日のひとときまで、あんな下らねぇガセで潰すことあるかよ。何だアイツ、オレが相手にしなかったからあかりの所に行ったのか。ご苦労な
こったな」
そう、志保が来たときは危なかったよな。綾香が居るのがバレるトコだったぜ・・・・はて綾香・・・・
「なぁ・・・あかり」
「なに、浩之ちゃん」
「やっぱ今夜メシいいや・・・そういやぁ親父達が帰ってくるんだよ」
勿論ウソ。帰ってきたらそれこそヤバイ。綾香とセリオが居るからな。
「え・・・そっか。仕方ないね。あ、志保を待たせちゃうから私そろそろ行くね・・・じゃぁ、おばさん達によろしくね」
「あぁ、じゃーな」
綾香達が居るせいであかりの手料理を逃してしまった・・・こりゃー高くつくぜ。夕飯くらいは作って貰うとするか。
「ただいまー」
ドアを開けて玄関にはいるが誰も来た様子はない・・・いや、もう帰ったとか言うパターンはあるが。
「あ、浩之。お帰り〜」
「お帰りなさいませ、浩之さん」
「そういえば電話が有ったわ。浩之のお父さんから」
「ふーん」
留守電を切ってメッセージ再生・・・・無い。
「何も入ってねーじゃんか。なんで親父からだって解った?」
「うん、だって出たもの」
・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「あー・・・」
開いた口が塞がらない。
「浩之?」
はっと我に返る。
「・・・なんか言ってた?」
「別になんとも。泊まりは許可が下りたわよ、かくして公認。無断外泊なんて言われないわよね♪」
無断外泊・・・いや、親の了承があってもお嬢様学校行ってるんだから、男の家に外泊はマズイだろう・・・・じゃなくて!
靴を脱ぐのも忘れて、親父の会社に電話をかけた。・・・結果は、公認だそうだ。流石は親父、見事なまでの放任主義だぜ。もうちょっとこう・・・普通は
反対するもんだけどなぁ・・・。
かくして、部屋割りはオレは当然ながらオレの部屋。綾香とセリオはオレの両親の部屋と相成った。階段の辺りで、
「−綾香お嬢様、いけません。お荷物は私がお持ちします」
「いいのよ、セリオ。女の子なんだからムリしないの」
「−しかし、私はメイドロボで・・・」
言いかけたところを綾香が遮る。
「しかしもかかしも無いの!」
そっか、綾香にとってセリオは『友達』だもんな。
オレは自分の部屋に戻って、寝た。
ぐーすぴー・・・
もうダメっす・・・食いきれませんよ、隊長・・・(謎)
ゆさゆさ・・・ゆさゆさ・・・
「・・ゆき、浩之!」
「あー?」
見ると、綾香がオレを呼びながらオレの背中を揺すっていた。
「あやか・・?」
「もう、一日何時間寝てるのよ・・・まるで牛ね」
牛とはご挨拶だな・・・と言おうと思ったけど、言えているので反論しない。・・・・そうか、あのまま寝ちまったのか、オレ。参ったな、起きぬけの寝ぼけヅ
ラを今日は綾香に二度も見られたのか・・・あんまいい気分じゃないな。
「で、なんだ。オレに用か?」
多少ダルそうに言う。
「もぉ・・・フツー女の子が泊まりに来て、寝る?何かして遊ぼうとか、そうじゃない?」
「何して遊べってんだよ。家の中で殴り合えってか?」
「あのねぇ・・・何も家の中じゃなくて、外に遊びに行くとかあるじゃない。それに殴り合うってなによ。私にはソレしか能がないみたいじゃない」
「外には出たくねーんだ」
「家の中に籠もってばかり居ると、モヤシっ子になっちゃうわよ」
外出が面倒では有るが、今回は違う。綾香を連れて外をブラブラ歩いて、志保にでも出くわして見ろ。明日の校内ワイドシィーネタになっちまうぜ。
「まぁ、聞け・・・・その、なんだ、オレ達が連れ立って外を出歩いたら周りの目にはどう映る?」
「浩之、そんなコト気にしてるの?」
「いや、そのコト自体は気にならないが・・・良く居るだろ、ドコの学校にもうるせぇヤジが」
ドコにも居るとは思うが、オレは志保より煩いヤジはお目にかかったことがない。
「あたしは別に良いわよ。なんて言われたって」
「オレは問題アリだ」
相手は志保。校内で後ろ指なんか指されて平気でいられるほどオレの神経はズ太くない。
「でも、これまでで十分そういった噂とかは広まってるかもよ?」
・・・確かに、今まで何で気にしなかったんだろう・・・今朝、志保が来て危ない目に遭った所為だ。危機感というヤツか。
「とにかく、家の中でジッとしてたんじゃ始まらないわ。セリオも一緒に行きましょう」
オレの手を取り、そのまま引いていく綾香。
「あぁ・・・あぁぁぁぁぁ」
ワザとらしい声を上げて、なすがままにされるオレ・・・・もうどうにでもなれ。
ゲーセン→喫茶店→カラオケ→屋台でラーメンの強行軍。コレが一日でだったら大したことは無いが、出発が昼下がりだったので無理もない。
「ふぅ・・・・セリオ、今日のスコアは・・・?」
「−綾香お嬢様は20戦12勝です」
「ったく、小市民にゲーセンであれだけ使わせやがって・・・恨むぞ」
「ふふふ、最近私もゲームに慣れてきたみたいだわ・・・最初は浩之にやられっぱなしだったものねぇ」
「はいはい・・・ったく」
今日の散財の所為で仕送りまで自炊を余儀なくされた。今日は結局コンビニと外食で済ませちまったな。・・・明日から綾香に頼もう。
「さぁて・・・帰るか」
ひとしきり遊び回って今日は疲れた・・・帰って寝るか。
帰ってきてから風呂沸かしをセットして、リビングでテレビのチャンネル回しをしたら綾香にまた捕まってしまった。
「ねぇ浩之、トレーニング付き合ってよ」
「一人でやればいいじゃねーか、オレは忙しーんだ」
とテレビに向き直ると、
「いつも長瀬に相手して貰ってるんだけど、今日はそうもいかないでしょ?それに忙しいって言ったって、ただテレビ見てるだけじゃない。どこがどう忙
しいのよ。ほらほら、お風呂に入る前にいい汗かいておかないと!」
ぐっ、返す言葉もない・・・それにしてもあの執事のじーさんが相手だって?一体何をやらされるんだ?想像するだけでも背筋が凍るぜ。
「いやぁ・・・これから見たいドラマが・・・」
などと押し問答になっているところへ、
『ピンポーン』
「おぉ客だ・・・オレが出るから綾香は2階に上がっててくれ」
「なんで?」
「昼間言ったばっかだろーがっ!」
と、綾香を追い払って玄関先に向かう。なんてタイミングが良いんだ・・・とも思ったが、昼間の志保の件がある。安心は出来ない。
「どなたでしょう?」
と、ドア越しに聞くが、返事はない。
「・・・・・・・」
返事が一向に返ってこないのでイタズラかと思ったが、ふと思うところがあってドアを開けた。
「せ、センパイ・・・」
「・・・・・・・」
「え?何かあったのですかって?・・・・いや、なんでも無い、なんでも無いよ〜先輩。ただこんな時間に来る客が珍しかったから」
こうしてみると、オレは近所づきあいが悪いのか?などと思ってしまう。
「・・・・・・・」
「え?”妹が来てますか”って?あぁ、綾香なら来てるぜ」
先輩をリビングに通して、綾香を呼んでくる。
「あ、姉さん。どうしたの?」
大方、来栖川の会長さんとかがよこしたか。外には黒塗りのリムジン・・・住宅街に置くには何ともミスマッチなクルマだ。
先輩と綾香が何やら話している様子だったが、
「でね、浩之ってば!」
外を見て考えていたら、綾香に声を掛けられた。
「なんだ、帰ってこいとか言われたのか?」
「違うってば、姉さんも泊まるんだって」
・・・あー・・・
「マジ?」
「・・・・・・マジです」
う、うーん・・・・いやなんとも、来栖川のお嬢様が二人ともオレの家に泊まり・・・うーん・・・そりゃぁ二人とも美人なので文句はないが・・・・・・。
「でも、セバスのじーさんが許しはしねーだろーけど?」
もっともらしい線で、オレの両親の許可・・・とも思ったが、親父がアレじゃぁアテにならないだろう。一人増えても〜なんて言われるのがオチだ。
「姉さんなら上手く丸め込むわよぉ♪」
哀れじーさん、もはや敵にあらずッスか・・・
「ほら・・若い男女がアレだ、一つ屋根の下に・・・なぁ」
「セリオ居るから問題ないし」
昼間と同じ事を言われてしまった。完敗だ・・・。
「そういやぁ、そのセリオどうした?」
「充電中よ。でもすぐ終わるわ」
「取り敢えず、オレはじーさんと会わないでおくわ。何言われるか解らねぇし・・・」
「藤田様・・・」
・・・・・・・いつ玄関に?
−30分後−
小学生の「遠足のしおり」よろしく、クドクドと説教を受けたが綾香と先輩の活躍(?)によりじーさんは去っていった。この一件で来栖川にマークされたり
しないよなぁ・・・深く考えるのは止そう。もうハラくくったかんな。
「さて、姉さんも泊まるとなると部屋割りね・・・浩之はリビングのソファかしら」
「姉妹なんだし、二人で寝れば?」
ボケっとしたツラで言い返す。先輩は申し訳なさそうな顔で何か言いたそうにしている。
「ちょっとちょっと・・・シングルのベッドに二人で?冗談言わないでよ。セリオもベッドで寝るんだからね、いい?」
「−しかし綾香お嬢様、それでは浩之さんが・・・」
「セリオもベッドで寝ていいのっ!」
せ・・・セリオ、お前・・・いいご主人持ったなぁ・・・。友達としちゃ強引だが。
しかし、誰かのベッドに入れてくれ・・・などとスケベなことも言えない。
「え・・・姉さん、浩之と一緒の部屋で寝ても良いって?ちょっと、相手は浩之よ!何されるか解らないのよ!?」
「失礼なヤツだなぁ・・・オレだって命は惜しいんだ。迂闊なマネはしねーぞ」
泊まりってだけで十分に命を危険にさらしているが。
「”じゃぁ私がソファで寝ます”って?・・・もぉ、しょうがないわね・・・ご両親の部屋には私たちで物を置いて陣取っちゃってるし・・・解ったわ。何かあった
ら大声で叫ぶのよ?」
先輩に大声で叫べって・・・ムリ有るだろ。
他愛のない話のあと、皆それぞれ解散して、オレは先輩を部屋に迎え入れた。
「なんもねーけどさ・・・取り敢えずオレは布団敷いて寝るから、先輩はベッド使ってくれ」
「でも・・・」
「ストップ、オレは今日はモーレツに布団で寝たいんだ」
「え?”解りました”って?へへ、さんきゅーな。先輩」
と言って先輩の頭を優しく撫でた。
「いっつも先輩にやってもらってるかんな。オレがやるとヘンかな?」
「・・・いえ」
先輩が頬を赤くして答える。かっ、カワイイッ!可愛過ぎるぜ先輩!
取り敢えず、ヘンな気を起こさないうちに布団を敷く。
「じゃぁ先輩、おやすみー」
「おやすみなさい」
電気を消して、布団を顔まで被る。普段は腹までが良いところだが寝顔を見られるかと思うと恥ずかしくなってきた。床のゴツゴツしたカンジが気にな
るが、すぐ慣れるだろう・・・。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
寝れない・・・やはり意識せずに入られないのだろうか・・・。先輩の方を見てみると、先輩は静かな寝息をたてて寝ていた。
先輩が眠っているのを見て、安心した。信用されていると思ったからだ。そう思うと、さっきまでの雑念が消えていく・・・。
「さんきゅーな、先輩」
そう言って、オレは眠りについた・・・。
つづく