……………………

 ……………

 ……わあああああ……

 ……わあああああああああぁぁぁ……

 ……すごい……

 ……天才だ……

 ……わずか7歳で、父親を越えるとは……

 

 …てんさい…ぼくのこと?

 

 ……すごい、すごすぎる……

 ……齢10にして、瑞原流を極めるとは……

 ……これならば…この子ならば……

 ……魔王を…倒せるやも……

 

 …まおう?

 

 ……魔王を……

 

 …まおうを…たおす…

 

 ……魔王を倒し、最強の剣士となるやも……

 

 …まおうをたおし、さいきょうのけんしになる…

 

 

 …………それが、ぼくのしめい……

 

 

 

「…ふっふっふ…、やあーーっと見つけたっ!!」

 背後からのその声に、二十一はこわごわと振り向いた。

 そして、そこにいたのは予想通りの人物だった。

「…し、シィル…」

「私に対して居留守を使うなんて、いい度胸してるわね」

「いや、その…」

 そこで、シルフは二十一の側にいる者達に気づく。

「…あれ、あなたは?」

 二十一の隣、椿の逆側にいた少女が頭をさげる。

「…その節はどうもすみませんでした。瑞原弥生です」

 

 

 ……………

 ……

「…しっかし、次の対戦相手のパートナーがどんな話なの?」

 酒場に移動した二十一の一行、当然のように席に座っているシルフが、まず口を開いた。

「…話…というよりは、……お願いに近いかもしれません…」

 弥生はおずおずとそう言った。

「…お願い?」

 水の入ったコップを置くと、二十一は聞いた。

「…負けてください…とでも言うのかしら?」

 シルフが再び口をはさんだ。

「…シィル」

「…はいはい」

 咎めるような二十一の視線に、シルフはクリームソーダのストローに口を付けることによって黙った。

「お願いというのは他でもありません…

 

 …弟に勝って下さい」

 

「…えっ!? …どういうことですか?」

 おずおずと、椿が聞いた。

「…勝って欲しいのです、明日の試合で弟…月心に…」

 弥生は念を押すようにそう言った。

「…くわしく、聞かせてもらえないかな?」

 二十一は正面から弥生の目を見つめてそう言った。

「…皆さん、月心のことをどう思いましたか?」

 弥生のその問いに対して…

「え、えっと…」

「…そ、その…」

「生意気なガキ」

 三者三様の返事を返した。

「おそらく、シルフィナさんのように皆さんも思われたでしょう」

 その弥生の断定するよな問いに対し、二十一は頭を掻き、椿は顔を赤くしてうつむくことで答えた。

「…昔はあんな子じゃなかった。素直でやさしい…あんな他人を馬鹿にするような子じゃあなかった。

 …それが、ある日突然…」

 弥生はそこまで言うと、声をつまらせた。

「…何があったの?」

 シルフが真剣な顔をして先をうながした。

「あれは3ヶ月前、弟が探索の旅から戻ってきたときでした…

 

 …そう、あの剣を持って帰ったとき…」

 

「…剣?」

 二十一の問いに、弥生はうなずくと…

「はい。洞窟から持ち帰ったという…ものすごい破壊力を秘めた剣です」

「…なるほどね」

 シルフが納得したようにつぶやいた。

「時々あるのよ、…破壊衝動を増幅させるとか、攻撃的な性格にさせるとかいった類のたちの悪い魔法のかかった剣って…

 

 …もっとも、それの持つ強大な破壊力そのものの方が、より人を惑わせるものでしょうけど…」

 

「…そうですね、身に余る強大な力というのは人を狂わせてしまいますよね…」

 椿がぼそりとそうつぶやいた。

「…私もそうだと思います。あの剣のせいで、月心は変わってしまったんです。

 ですから、あの過剰なまでの月心の自信を打ち砕いてもらいたいんです。

 …そうすれば、きっと元のやさしい月心に…」

 

「………そうかな…」

 

「えっ!?」

「いや、うん、なんでもないよ。

 …とりあえず、頼まれなくても負ける気はないよ」

 二十一はそう言うと、微笑んでうなずいた。

「…お願いします」

 弥生はそう言うと、再び頭を下げたのだった。

 

 

 

 ……いいんだよ……

 

 …なにが?

 

 ……もういいんだよ……

 

 …もういいって…

 

 ……もう、いいんだ……

 

 …それって…

 

 

 …もうぼくは…

 

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

 ……はあはあ…」

 少年は額の汗を拭って、朝日が入ってくる窓を見つめた。

「…ぼくは………じゃない…

 ぼくが最強なんだ…今日、それを証明してみせる」

 

 

 Aブロック2回戦の始まる朝だった。

 

 

 ……………

 ……

 …コンコン…

「…はい?」

 …カチャ…

「やっほー!」

「…し、シルフィナさん!?」

 扉の前に立っている少女をみて、驚いた声をあげた。

「…どうしたんですか?」

 部屋の中にいた少女…瑞原弥生はそう聞いた。

「あなたを誘いに来たの。

 会場の方に行こう、せっかくの世紀の一戦なんだから」

 シルフは当然といった感じでそう言った。

「え、でも…」

「だーいじょーぶ! シュリさんの了解は取ったから」

 そう言うと、シルフは胸を叩いた。

「…うう、本当はダメなんですよう…」

 シュリが後ろでぶつぶつ言っているが、シルフはいっこうに気にせず…

「…大事な試合なんでしょう?」

「…で、ですが…」

 なおも逡巡する弥生に…

 

「…大丈夫です。私も見させてもらいますから…」

 

 シルフの背後から現れた少女…土方椿がそう言った。

「……椿さん…」

 それを見て決心したように、弥生はうなずいた。

 

「…はい!」

 

 

「…気を取り直して…

 さあっ! いよいよ2回戦、第1試合です!!」

 シュリの興奮したアナウンスが闘技場に響きわたる。

「最初から注目のカードですね、解説の切り裂き君さん!」

「そやな、2回戦で最高のカードと言ってええやろな」

 

「それではっ! 選手入場です!!」

 

 

「…いよいよですね」

「ああ、いよいよだ」

 闘技場すべてが見下ろせる場所で、その男は言った。

「…2回戦最高のカードですか?」

 ユクセルが冷笑を浮かべながら言った。

「…いや、今大会最高のカードだろうな…少なくとも私にとってはな…」

 エグゼスは真剣な顔でそう言った。

「…言い過ぎなのでは?」

 そのユクセルの言葉に対して…

「ふっ、魔法のことはわからんが、剣では間違いなくあの二人が今大会ぶっちぎりの二強だ」

「ほう、ではあの瑞原月心とやらの実力は?」

「おそらく、…私と同レベルだろう…」

 エグゼスはサラリとそう言った。

「ほう」

「…それだけではない…似ているのだよ…

 

 …私と非常にな…」

 

「…ふっ、それはそれは、実に興味深いですね」

 鼻で笑うそんなユクセルの声も耳に入っていないように、エグゼスは闘場を凝視していた。

 

 

 ……………

 ……

「…残念ですね…」

「…?」

 闘場の上で向かい合う二人。

 不敵な笑みを浮かべて、月心が言った…

「…あなたの剣が『聖刀日光』でないことがですよ」

 二十一の腰の日本刀を見つめて。

「…ぼくの剣も、魔人にこそ効かないかもしれませんが破壊力では負けてませんよ」

 そう言うと、月心は背中から剣を抜いた。形状こそシンプルであったが、ある種の威圧感をその剣は放っていた。

「…無銘ですが、いずれ伝説の剣となるでしょう…

 

 …『瑞原の剣』と呼ばれてね…」

 

 月心のその声と同時に…

 

「はじめっ!!」

 

 シュリの声が響いた。

 その瞬間…

 …果たして何人の人間にその攻防が見えただろう…

 

 …ガガガガガガガッガガガガッガガガガッガガガガガガッガガガッガガガアアアア!!!!!!!

 

 闘場のど真ん中、いつのまに移動したのだろうか…両者の剣がぶつかり合うのが判断できた。

 …光景としてではなく、その音から…

 

 ……ガアアアアアアァァァァーーーーーーーーーーンン!!!!!!

 

 そのすさまじい大音響とともに、両者は同時に飛びずさった。

 両者が同時に距離をとったのは決して偶然ではない。

 それは両者の中心で逃げ場もなく繰り出され、たまりに溜まった力がはじけた瞬間だったのだ。

 

「…にっ!」

「…ふっ!」

 

 果たして、互いに笑みを浮かべあったのも同時であった。

 

 

「…互角…」

 

 エグゼスのその言葉こそ、全てを言い表すものだった。

「…お、驚きました…」

 ユクセルは呆然としたかのようにつぶやいた。

「…まだだ。

 …ただ、互いに小手調べをしたに過ぎん」

「…では?」

「互いの切り札、どちらが上かな?」

 エグゼスはそう言うと、ニイっと笑った。

 

 

「ふふ、さすがです。…そうこなくちゃあ…」

 月心が年相応の笑顔を浮かべて、そうつぶやいた。

 

「…さて」

 

 そう言うと、笑顔を消して…

 

「瑞原の奥義、行きますよ」

 

 

 

 …酷薄な笑みを浮かべたのだった…

 

 

 

 


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