「こんばんわー!」

「おっす!」

「闘神ダイジェストの時間です」

「おー、待ってました」

「というわけで、司会進行のシュリです」

「解説の切り裂き君や」

「いやー、始まりましたね、第15回闘神大会」

「おー、ついに始まったな」

「今日は開会式と同時に、抽選会が行われたわけなんですが…

 ずばり! 注目はどの選手でしょうか?」

「そやな、まずはやっぱり山本二十一選手やろな。

 なんといっても、魔王ランスを倒した伝説の勇者やさかいな」

「なるほど」

「次もありきたりやが、シルフィナ・ヴァルス・ガンジー選手やな。

 『大陸最強の魔術師』の二つ名は伊達やないやろ」

「なるほどなるほど」

「ま、優勝はこの2人のうちのどっちかやろ」

「えーと、確かにトトカルチョでもこの2人がダントツですね。

 シルフィナ選手が2.4倍、山本選手にいたっては…なんと1.4倍です」

「はー、ガッチガチの鉄板レースやな」

「それでは、注目の試合というとどれでしょうか?」

「さっきとかぶるが、両選手の1回戦やな。

 その実力を目の当たりにできる、いい機会やで」

「なるほど、伝説の強さやいかに…というわけですね」

「そーゆーこっちゃ。相手も去年のベスト4とベスト8、それなりに試合にしてくれると期待できるしな」

「えーと、なにかひどい言いように感じますが…」

「しゃーないやろ、事実やから。

 くやしかったら頑張って見返してもらいたいもんやな」

「えー、では……」

 

 ……ブチッ

 

 

「…くっそー、冗談じゃないぞ!!

 初戦でいきなりあんな大物に当たるなんて!!!」

 魔法ビジョンを消すと、その男はそう言った。

「いまさらなに言ってんのよ。あんたが勝ってけば、いずれは当たるわけでしょ」

 同室のベッドに腰をおろしていた女性が、こともなげに言った。

「……それはそうなんだが…」

「あんたはただ、実力を出し切ればいいだけじゃない。

 …それで負けたら、しょうがないだけなんだし…」 

 ポニーテールをなびかせて、その女性が言う。勝ち気そうな、きりっとした印象を与える美人であった。

「…しかしだな…」

「あんたのパートナーになると決めたときから、ある程度は覚悟してたから気にしなくてもいいわよ」

「……だが…」

 なおも言い募ろうとする男に対し…

 

「…それに、けっこうかわいかったし…」

 

「お、おい、ジュン!!」

 あせる男とは対照的に、ジュンと呼ばれた女性は割と楽しそうに話を続ける。

「…なんと言っても伝説の英雄だし、…ひょっとしたらドーテー君だったりするかもね…」

「くっ、もういい!!」

 そう叫ぶと、男は刀を持ってでていこうとする。

「どこ行くの?」

「ラグナード迷宮、修行だ!!」

「…2、3日でどうにかなるとは思えないけど…」

「うるさい!!!」

 バン!! …という音をたてて男は出ていった。

「…ふー、やれやれ。…ハッパかけるのもたいへんね。

 ……無茶しないといいけど…」

 苦笑しながら、そうつぶやくのだった。

 

 

「んーーー、二十一の様子がおかしいって?」

 酒場でクリームソーダを飲みつつ、シルフが口を開いた。

「…はい。……時々なにかを考え込まれているようで…」

 その前で、椿がそう口にした。

「…で、なんでそーゆーことを私に言ってくるかな?」

 シルフはアイスをパクつきながら言った。

「私ではどうしようもなくて……それで……」

 わずかに肩をふるわせながら答える椿に対して…

「いや、別に怒ってる訳じゃ……」

 シルフはあわてて手を振る。

(…ずるいなー、守ってあげたくなる女の子って、こういう子のことなんだろうな…)

「…どういう悩みかは、だいたい予想つくしね」

 内心の思いとは別に、シルフはそう言って立ち上がった。

 

 

 …そうですね、これだけが楽しみだ…なんて人もおられますから…

 

 そう言ったシュリの笑顔が浮かぶ。

 

 …うん!! ぼくもおっきくなったらぜったい出るんだ!!

 

 そんな風に言ったのは、あどけない顔をした少年だった。

 

「…まいったな…」

 二十一は誰にともなく、そうつぶやいた。

 

「…なーーにが、まいったよ!」

 

「し、…シィル…」

 いきなりの少女の登場に、二十一はベッドから飛び起きた。

「…なに悩んでんのよ、二十一?」

「え、いや…」

「どーせ…

 

  女の子を道具のように扱うのは絶対に良くない!

  …でも、この町を支えているのはやっぱりこの大会なんじゃあ…

  …安易に僕の一存でつぶしていいのか…

  ……ああ、こまったどうしよー!!

 

 …て、とこでしょ」

 シルフは芝居付きで、二十一の心情をピシャリと言ってのけた。

「…う、どうしてそれを…」

「フン、わからないわけないでしょ」

 二十一は、そう言ったシルフをポカンとした顔で見つめた後…

「…そうか、やっぱりシィルにはわかっちゃうのか…」

 そう言って、やさしく微笑みを浮かべた。

「ぐっ! はっ…二十一が単純なだけよっ!!」

 シルフが顔を真っ赤にして、そう怒鳴るが…

「うん、そうだね」

 ただ、二十一はにっこりと笑うのだった。

「ふっ…フンだ!」

 シルフは顔をそっぽ向け、話題をかえる。

「…だいたい、気が早いのよ。

 まだ1回も戦ってないのに、優勝したあとのことで悩むなんてさ。そういうのを『捕らぬ狸の皮算用』っていうのよ」

「…その通りだ。まだシィルに勝ったわけでもないのにな」

 二十一がわずかに顔をひきしめて言った。

「そっ、その通りよ!」

「悩むのは、優勝してからにするよ」

 二十一はそう宣言して、にっこりと笑った。

 その笑顔に、ドキッとするシルフだったが…

「…ま、まあ、私とあたるまでこけないように…じゃ、じゃあね」

 そんなあいかわらずの強がりを言って、ごまかしたのであった。

 部屋から出ていこうとするシルフに…

「ありがとう」

「ふ…フンだ」

 

 バンッ…

 

「…ありがとうな、シィル…」

 ただ悩みを先送りしただけなのに、解決したかのように二十一は満足した笑みを浮かべた。

「…………」

 それを見て、椿は悲しいような…そして、寂しいような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ……………

 ……

「……ハアハア……」

 暗い洞窟の中、荒い息づかいが響く。

「…ハアッ、ハアッ、ハアハアハア……

 

 くっ、くそおっ!!」

 

 荒い息をついてた男は、おもむろに手に持っていた刀を壁にたたきつける。

「だめだ! こんなんじゃあ全然駄目だ!!

 強く、もっと強くならないと…」

 呪文のように、男はぶつぶつとつぶやく。

「強く…もっと強くだ…」

 

「…力が、ほしいか?」

 

「だっ、だれだ!?」

「…力が、ほしいか?」

 男の問いかけにも答えず、ただ声はそう繰り返した。

「…………」

「…力が、ほしいか?」

 

「…ああ。…欲しいとも…」

 

 

 ………

 …

「…おはようございます。二十一さん」

「ああ、おはよう椿ちゃん」

 いつものように、2人はあいさつをかわした。

「…いよいよですね」

「ああ、決戦の朝だ」

 

 …13日の朝…1回戦の朝だった…

 

 

「…お待ちしていました、二十一さん」

 闘技場に着くと、あいさつよりも先にシュリは言った。

「…はい」

 二十一も少し神妙に答える。

「二十一さんは闘技場の中へ、そして椿さんはこちらに」

 椿はコクンとうなずくと…

「…二十一さん、御武運を」

「…うん、まかせて」

 握り拳を作って二十一はそう言い、それに対して椿は微笑みをうかべた。

 

 

 ……ゥゥウウウウ……ウワアアアアアアァァァァーーーーーーーー……

 

「相変わらずの熱気だな…」

 闘技場の中に入ると、二十一はだれにともなくそうつぶやいた。

「…ふふん、力のないものはただ見ているしかないからね」

 二十一のつぶやきに対し、少年の声が答えた。

「…君は」

「どうも、4日後にあなたと当たる瑞原月心です」

 まだ、どちらも1回戦が終わっていないのに、自信満々でそう言った。

「しかし、観客もかわいそうに。…事実上の決勝戦が2回戦で行われるのですからね」

「…はは。(すごい自信だな…まるで…)

 二十一の思考をさえぎるように、誰かが口を挟んできた。

「はー、すっごい自信ね。過剰なのもたいがいにしろって感じよ」

 …無論、シルフである。

「…誰かと思えば、もう一人の勇者さまですか」

 小馬鹿にするかのように、月心は言った。

「残念ですが、はっきり言ってあなたも眼中にはありませんね」

「あら、カッチーン」

(あわわ、なんてことを…本当にこわい物知らずだな)

 こめかみをひくつかせるシルフと、その背後でビクビクする二十一、そして自信満々の月心…三者三様の性格がそこには出ていた。

「いくらすごい魔法使いであろうと、唱える前に倒せばいい。

 …簡単な答えですよ」

 その月心の答えは、魔法使いと戦うおそらく全ての剣士の考え方であると言えるだろう。

「…残念ね、直接ぎゃふんと言わせられないのが」

「あなたが勝ち残れば、チャンスはありますよ。…チャンスはね」

 シルフの挑発も、サラリと受け流した。

 

「…瑞原月心選手、闘場の方へ」

 

 シュリのアナウンスの声が響きわたった。

「…じゃあ、4日後に」

 月心は悠々と舞台へと向かった。それに対し…

「…っきぃー!! むかつく!!

 二十一! 絶対勝つのよ!!!」

 シルフが地団駄を踏みながら、二十一に言った。

「…まだ1回戦も終わってないのに…」

 とほほであった。

 

 

「…龍のコーナー! …瑞原月心選手!」

 

 闘技場にシュリの声が響きわたる。

 4つのブロックの内、今日はAブロックの試合が行われる。審判はどうやらシュリさんのようだ。

 

「…鬼のコーナー! …アドルシャン選手!」

 

 闘場の中心で、両者が向かいあう。

 

「始め!!」

 

 シュリの合図とともに仕掛けてきたアドルシャンの攻撃を、あっさりとかわすと…

 

「瑞原、風の剣!!」

 

 風をまとった必殺の一撃を、惜しげもなく繰り出した。

 

「勝者、瑞原月心!!」

 

 わずか3秒であった。

 

 

「…よ、弱すぎ…」

 シルフががっかりしたように言った。

「…でも、わざわざ必殺技を出したみたいだ」

 その二十一の指摘通り、必要のない必殺技であった。

「…わざわざ見せたかったんでしょうね。すっごい自信」

 シルフがあきれ顔で言う。

 しかし、シルフも必要のない必殺技の好きな人間であることを、二十一はあえてつっこまなかった。

 

「…その通りですよ」

 

「…出たわね」

「…月心君」

 2人の前に現れたのは、試合の終わったばかりの瑞原月心であった。

「…あれがぼくの必殺技の1つ、『瑞原、風の剣』です。

 少しは参考になりましたか?」

 相変わらずの生意気なセリフである。

「…とりあえず、自信の源の一端を見せてもらったよ」

 二十一はただそう答えた。

「……どういう…」

 

「…山本二十一選手、闘場へお越し下さい」

 

 月心の言葉を遮るように、シュリのアナウンスが流れた。

「…出番か…」

 二十一はそうつぶやくと、闘場へと足を向ける。その二十一の背中に…

 

「まあ、適当にがんばんなさい」

「こんなところでこけないで下さいよ」

 

 ありがたい応援の言葉が投げられた。

「…はいはい…」

 苦笑するしかない二十一に対し…

 

「二十一お兄ちゃん! がんばれー!!」

 

 応援席から、ターバンをかぶった少年から大きな声が向けられた。

「…ラッシュ君…」

 二十一は右手を高々とあげて、それに答えた。

 

 

 …………5分が過ぎた。

 

「…烈選手! 早く闘場へ来て下さい!! …烈選手!!!」

 シュリが必死で呼びかけを続けていた。

 …そう、二十一の対戦相手が現れないのだ。

 

「…僕のあげた右手の立場が…」

 

 

「…棄権か。…まあ、妥当なところかな」

 闘技場を全て見下ろすことのできる、貴賓席にいた男がつぶやく。

 その独り言に対し…

 

「…いえいえ、そんな面白くない試合にはいたしませんよ…」

 

「…ユクセルか…」

「ええ」

 ユクセルと呼ばれた男はニッ…と笑みを浮かべた。

 

 

 ……………

 ……

「…もう、烈! 遅いわよ!!」

 闘技場の前でずっと待っていた女性が、そう声をあげた。

「…ジュン…か…」

 フラフラとやって来た男は、そう声を振り絞った。

「……どうしたの?」

「…いや、俺にもさっぱり記憶がないんだ…」

 烈は頭を押さえつつ答えた。

「…記憶が…って…」

「……とにかく、試合だ」

 

 

「…お待たせいたしました。

 それでは、龍のコーナーより、山本二十一選手!」

 二十一が闘場に上がる。

「そして、鬼のコーナーより、烈選手!」

 

 

 ……………

 ……

「…エグゼス様、どちらが勝つと思いますか?」

 ユクセルが静かに聞いた。

「…この試合のことか?」

 エグゼスがたずね返す。

「ええ、そうです」

「…ふっ、話にならんな。見ただけでわかる。

 烈も去年よりは強くなったようだが、それだけだ。…山本二十一の実力には遠く及ばんな」

「…なるほど。…見ただけでわかりますか」

 感心したかのように、ユクセルが聞き返す。

「ああ、…さすがに山本二十一の実力がどこまであるのかはわからんが、烈程度ならば九分九厘つかめるな」

「…つまり、山本二十一殿も烈選手の実力は、ほぼ完全につかんでいる…というわけですね」

 なにか含むところがあるように、ユクセルは言った。

「…おそらく、完全につかんでいるだろう」

 そのエグゼスの答えに…

 

「……では、その実力以外の物が出されたらどうなるでしょうか?」

 

「………」

「…そう、本人にすら記憶にない…実力以外の物が…ね」

 ユクセルはただ、ニヤリと笑った。

 

 

(…飛び込んでの居合い切り…それ以外に勝機はない…)

 烈は汗ばむ手で、柄を握りしめながら考える。

(…ふところに飛び込んでの一撃…それに全てを賭ける!)

 

「…始め!!」

 

 開始の合図がされた。その瞬間…

 

 …烈は驚異的なスピードで、二十一の懐へと飛び込んでいた。

 

 …それはエグゼスにとっても、二十一にとっても、そして烈本人にとっても、予想外の速さであった。

 

 …そして次の瞬間…刀がすさまじい勢いで抜刀された…

 

 

 ……………

 ……

 …

「…しょ…勝者!

 

 …山本二十一!!」

 

 シュリによって、高々と勝者の宣言がなされた。

 

 

 ……

「…なかなか、見応えのある試合だったな」

 エグゼスが振り絞るように言った。

「…………」

「…あの烈の超加速力、あれはお前の差し金だろう?」

 断定するようなエグゼスの物言いに対し…

「…え、ええ、実験の成果の一部を…」

 ユクセルは呆然としつつも答えた。

「…烈は瞬間の一撃の男…つまり、その一瞬を見誤ることは致命となる…」

「…つまり、二十一殿は烈選手の実力を見誤らなかったと…」

 そのユクセルの問いに首をふると…

「…違うな。…本人も気づいてないような力は実力とは言わない。

 …そんな力がわかるわけがない」

「…というと?」

「…つまり…

 

 …あの刹那の瞬間に修正し、反応した…ということだ」

 

「…そ、そんなことが…」

「…くく、人間技じゃあないな…」

 エグゼスはニヤリと笑った。

 それは諦めからでたものなのか?

 

 

 …それとも、自信のあらわれなのか…

 

 

 

 


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