都市ローレングラード・・・ここから番裏の砦を通り、森をぬけて魔王城に行く、それこそが最短ルートであった。

「・・・そこにそいつらがいるってわけだな」

「へい、間違いございまへん」

 ケイブリスの問いに自信満々にコンバートが答える。

「じゃあ褒美をくれてやらねえとな・・・」

「へへ、すんまへ・・・」

 断末魔の声をあげる間もなく、壁に赤い花をさかせた。・・・コンバート・タックスの最期である。

「軍をだせぇ! この俺様自らでていってやるぜ」

 ケイブリスの咆哮がヘルマンにこだまする。

 

「ようやく、ここまで来ましたね」

 感慨深げにカフェが言った。

「でも次が大変よ、番裏の砦なんかに普通の人間は用なんてないから、ここまでみたいには簡単にいかないわよ」

 言っている内容に反して、むしろシルフは楽しそうだった。

[強行突破しかないでしょうね]

「ええ、その後は迅速に・・・」

 二十一はそう言いかけて、まわりがあわただしくなって来ているのに気が付いた。

「あの、なにかあったんですか?」

 カフェが、逃げだそうとしている男にたずねる。

「人狩りだ! 知らないのかい? 連中思い出したかのように時々やるんだ。

 ・・・しかし、今回のは今までのとは規模が違いやがる。俺達を皆殺しにするつもりなのか? ・・・あんたらも早く逃げた方が良い」

 そう言うと、その男は再び逃げて行く。

「・・・だ、そうよ。どーする二十一、私達も逃げる?」

 わかっているくせに、シルフが聞いてくる。

「そういう訳にはいかない。・・・せめてこの町の人達が逃げるだけの時間稼ぎぐらいはしなければ」

「じゃあちょっと偵察してみますか・・・」

 そう言うとシルフは上空に飛び上がる。

 それを見て二十一がつぶやく。

「・・・便利な奴・・・」

[私達も昔こうやってホ・ラガの魔法にたよったものです]

 その時、上空から悲鳴があがる。

 

「駄目っ!!」

 

「! ・・・どうしたシィル!」

 あわててシルフが上空から降り立ち、言った。

「人狩りの連中のほうが囮みたい! 向こうにとんでもない数の魔物が、・・・あのままじゃあみんな殺されちゃうよ!」

 二十一は内心の動揺をおさえ、努めて冷静に言葉を発する。

「・・・急ごう!」

 

「くくく、見てろホーネット。聖刀日光はちゃあんとこの俺様が取り返してやるよ。

 殺せぇ! 皆殺しにしてしまえぇ!!」

 

 ケイブリスが引き連れて来た魔物の軍は、総勢一万を優に超えていた。普通に考えれば三人の人間を殺すためだけの数をはるかに超える軍勢である。

 ついでにこの町を滅ぼすつもりなのは、火を見るより明らかだった。

 二十一達は、その軍勢を見下ろせる小高い丘の上に来ていた、シルフの魔法で移動したのだ。

「・・・とんでもない数だ・・・」

 さすがの二十一の声も震えていた。

「・・・・・・・・・。

 ・・・残念ですが、見捨てましょう。

 ・・・むごいことですが私達はこんな所で死ぬわけにはいかないのだから・・・」

 カフェが沈痛な表情をしながらも言い切った。

「しかしっ!」

[私もカフェと同意見です。

 ・・・さすがにあの数を相手にして無事にすむはずがありません。下手をすればただの犬死に終わってしまいます]

 二十一に反論を許さない口調で日光が言い放った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・わかりました」

 顔を伏せて二十一が答える。

 

「・・・それでも、僕は行きます!」

 

「二十一君!」

 カフェがあわてて声をあげた。

[二十一!!]

 さすがの日光も声を荒げた。

 ある種、騒然とした雰囲気の中で、二十一は一言も言葉を発さない。

 

「えーい! みんな黙って!!」

 

 シルフが大声をだした。さすがに静まり返る一同。

「ふぅーー・・・」

 一つ息をはくと、シルフはみんなの顔を見回し、最後に二十一の表情をうかがう。

 その表情からはかたくなな拒否のみが感じ取れた。

「・・・言っても無駄だって、こーいう奴だもん二十一って。

 ・・・というか、そーじゃなきゃ二十一じゃないってもんよ!」

 そう言うと、シルフはにっと笑った。

「シィル、でも行くのは・・・」

 なにかを言いかける二十一の口に指を押し付けて言った。

「独りで行く、ぬわぁんてのは無しよ・・・」

 思わぬ展開にカフェがあわてる。

「シルフちゃんまで! ・・・日光さんからもなんとか言ってくださいよ!」

[・・・・・・・・・。

 ・・・フフ、私達の負けね、シルフの言う通りだわ、・・・そうじゃなきゃ二十一じゃないものね。

 ・・・カフェ、あなたはどうする?]

 二人と一本の視線を受けてカフェはため息をつく。

「・・・・・・ふう、昔はこういう感情論を言うのは私の役だったんだけどね。

 ・・・ええ、行きましょう。そしてあいつらをやっつけちゃいましょう」

 

「あの馬鹿でかいのが、どうやら敵の総大将だな」

 二十一が黒山の魔物だかりの一点を見詰めて言った。

「見えるの、・・・とんでもない目をしてるのね。

 ・・・でも、見えているんなら丁度いいわ」

 そう言うとシルフは取って置きの笑みを浮かべる。かわいいのだが、なにか嫌な予感を感じさせる笑みだった。

「どうするつもりだシィル?」

「今から私の開発したすっごいグレートな魔法を一発かますから、二十一は一直線にそいつをぶっ倒して」

「・・・大丈夫なのか?」

 二十一が不安げな顔でたずねる。

「心配しないで、二十一にぶち当てたりしないから」

 ますます不安げな顔になる二十一。

「えーい、私を信用しなさいっての!

 さあ、行って二十一!!」

「・・・わかった」

 二十一はそう言うとすごい速さで丘を駆け下りて行く。

 それを見届けるとシルフは両手を空にかざす。

「はあああああああ・・・・・・」

 シルフの気合の声にあわせるように、両方の手のひらの上に、白色、黒色の魔力球がそれぞれ浮かび上がる。

「はあっ!!」

 掛け声と共に掲げた両手をパーーーーン!! ・・・と叩き、前方へと突き出す。

「灰色破壊光線!!」

 ネーミングセンスをかけらも感じさせない安易なネーミングだが、威力のほどは違った。

 それはただ白色破壊光線と黒色破壊光線をあわせただけなんてものではなかった。

 その光線の色は灰色などではない、白でもない、黒でもない無色。

 透明というわけではない、一切の色をもたない無色・・・そう無の色をしていた・・・。

 その光線は音もなく大勢の魔物を飲み込んで行った。まるでそこだけ切り取っていったかのように、なにものの存在も許さなかった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・ふう。きっつーーーーー!!

 体がばらばらになるかと思っちゃったよ」

 シルフはそう言ってカフェの方を振り返る。

「・・・・・・・・・・・・」

 カフェは呆然として何も答えてくれなかった。

「うーーん、本邦初公開なんだから何か感想がほしいんだけどなあ・・・」

 期待した反応をしてくれなかったために、シルフは頭をポリポリとかきながら、わずかに不満をもらす。

「・・・・・・す、すごすぎる・・・」

「でしょでしょ! ・・・でもおっそろしく魔力を吸い取ってくれたから二発目はちょっち無理ね。移動するから掴まって」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

「な・・・・・・、なんじゃあ今のは!!」

 さすがのケイブリスも驚きを隠せない。

 シルフ曰くの灰色破壊光線は半分以上の魔物の軍を飲み込み、消滅させていた。さすがのケイブリス軍も浮き足立つ。そこへ・・・。

「うおおおおおおおお!!!」

 ケイブリスが見たものは、自分の所へ一直線に向かってくる赤い風だった。

 前方に立ちふさがるものを容赦なく切り刻み、赤い血を吹き出させている二十一の姿は、はた目には赤い風にしか見えなかった。

 そのあまりの激しさに、一本の道が開かれる。

 

 そう、・・・ケイブリスのもとへとつながる一本の道が・・・。

 

「むっ! それは聖刀日光! ・・・そうか、てめえが今の所有者ってわけか。

 この俺様にさしの勝負を挑もうっていうのか、・・・おもしれえ! 相手になってやるぜえ!!」

 

 シルフ達が現れたのは虐殺の場だった。

「ファイヤーレーザー!」

 子供をかばう母親を、笑いながら殺そうとしていた魔物を消し炭に化える。

「カフェさん、お願い!」

「ええ」

 カフェはそう答えて、人々のもとへとかけよる。

 シルフは魔物達に向き直ると言った。

「さあさ、今から始まるは、シルフィナ・ヴァルス・ガンジーのマジックショーよ。お代は安くしといて、あんた達の命ってもんでどう?」

「てめぇからぶっ殺してやるぜ!」

 大量の魔物がシルフに襲いかかる。

「イッツ、ショータイム!

 はああっ、メタルライン!」

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「・・・馬鹿な! ・・・馬鹿な馬鹿な馬鹿な、馬鹿なぁ!!

 この俺様が、この俺様があああ・・・・・・」

 

 傷だらけのケイブリスの前、その人間は傷どころか息一つ乱さずに立っていた。

 そして、そのまわりには唖然とした表情で、魔物達が取り囲んでいた。・・・いや、というよりは見守っていたと言う方が正しかった。

「・・・・・・、何をしている! こいつを殺せぇ!!」

 そう言われても、主人より強いその人間に挑もうとするものなどほとんどいなかった。そんな中で、二十一に立ち向かおうとした忠実な部下達は、何が起こったのかわからないほどの一瞬で殺されていった。

「・・・馬鹿な、そんな馬鹿なあああ!!

 この俺様が、このケイブリス様がぁ、こんな、こんな人間ごときにいいいいぃぃーー!!!」

 ケイブリスには信じられなかった。魔王以外に自分よりも強いものがいることが。

「この俺様が負けるわけがなあぁーーい!!」

 突進してくるケイブリスに対して、二十一は構える。

 ・・・そう自らの必殺技の構えを。

「うがああああああああぁぁーーーー!!!」

 ケイブリスの雄叫びの中、二十一の静かな声が逆に響きわたる。

「バイラウェイ・・・」

 切り刻まれて行くケイブリスの体。

「・・・ラーンスアターーック!!」

「・・・ばかなああ・・・」

 その渾身の一撃に頭をつぶされる。

 その最期の瞬間までケイブリスには信じることができなかった。自分より強い人間がいることが、そして、・・・自分が死ぬことが・・・。

 

 一方・・・。

「大回転破邪覇王光!!」

 シルフの無茶苦茶な活躍で、こちらのほうもほぼ決まってきていた。

「・・・とんでもない子ね・・・」

 逃げ惑っていた人々を入れた、かなり大きめの結界を維持しながら、カフェがつぶやいた。

「・・・・・・けっ、ケイブリス様がやられたああーーー!!」

 その報告に、最後までがんばっていた残りの魔物達もしっぽを巻いて逃げ出して行く。

「・・・ふう、やれやれ、遅いよ二十一」

 すごくつかれた笑顔でシルフが言った。

「大丈夫? シルフ」

 駆け寄ってきたカフェがシルフに声をかける。

「大丈夫じゃなーい」

 そう言うとカフェに倒れ込む。

「ちょ、ちょっと・・・、ほんとに大丈夫?」

「だから大丈夫じゃないの、もう炎の矢だって出せないよ」

 そのシルフの口振りに微笑みを浮かべて応じる。

「ふふ、まあ大丈夫そうで良かったわ」

 口をとがらせてシルフがボソボソと答える。

「・・・だから大丈夫じゃないのに・・・」

 

 RC16年12月末、・・・・・・ケイブリス死す・・・。

 

 

 

 


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