ちゅん・・・、ちゅんちゅちゅん・・・。

「ふう・・・」

 気だるそうに二十一が目を覚ます。

 ピロリロッピローーン!

 二十一は7ポイントの経験値を得た。二十一は大人になった。

「・・・・・・そのナレーションやめてくれ、・・・頼むから」

 えっ、7っていう数字がどこから出たかって、うぷぷ・・・それはね・・・。

「うわー! うわー! わーわー!」

 いやー、若いって本当にいいですねー。(水野晴郎風)

「しくしく・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あれっ、そういえば日光さんは・・・」

 となりで寝ていたはずの日光の姿が見えずに、二十一はあたりを見回す。

 朝からやろうってのか、このスケベ!

「だからそのナレーションやめてってば! なんか今までと違うよ・・・」

 その日光は通信機の前にいた。それはゼスの魔法技術部で作り上げられた当時の最新式のもので、カオルがゼス宮殿の廃虚から取ってきていたものである。

「あっ、日光さん、・・・その、おはようございます・・・」

 二十一は顔を真っ赤にして日光にあいさつをする。

「おはようございます、良く眠れましたか?」

 二十一とは逆に落ち着いた様子で、日光がそう言った。

「あっ、はい!」

 二十一はそう言うと恥ずかしげにうつむく、・・・お前は女の子かっ!

「・・・うるさいなあ・・・、・・・ところで日光さんは誰に通信を?」

「ええ、ガンジー殿に。すぐ来ると・・・」

 そう日光が言ったと同時に窓の外が光る。

「なっ、なんだ!?」

 慌てて飛び出した二人が見たものは・・・。

 

「・・・うん、成功ね。やっぱりあたしってば天才」

 魔法の法衣を身につけた、かわいらしい少女があたりを見回して言った。サラサラのストレートの金髪が風にゆれていた。

「おいおい、ぶっつけ本番だったのか」

 がっしりとした体格の男があきれたようにつぶやく。

「・・・すごいですね。完全に失われた魔法だったのに」

 眼鏡をかけた小柄の少女はしきりに感心していた。

 一人はガンジーである。頭に白いものが混じってきてはいるが、まだまだ元気そうである。後の二人については二十一は知らなかった。

 だが日光はそのうちの一人と顔見知りのようだった。

「久しぶりですねカフェ。元気そうで何よりです」

「こちらこそ。日光さんにはお変わりなく」

 カフェ・アートフル・・・千年前のエターナルヒーローの一人である。

 今とまったく違う姿で長い時代を過ごしていたのだが、ある人物の助けによって元の姿に戻っていた。

 そして残りの人物は・・・。

 

 二十一と日光の視線を受けて、少女がコホンと一つ咳払いをした。

「えーと、自己紹介がまだだったわね。

 私の名前はシルフィナ・ヴァルス・ガンジーです。

 名前からわかるようにアークおじいちゃんの孫です。・・・ちなみに今年で15歳になりまーす。よろしくね二十一君」

「二十一君・・・って、年下じゃないか」

「いいじゃない。こまかい事は気にしない気にしない」

 そう言うとシルフは楽しそうに笑った。金色の髪が柔らかそうにゆれる。

「日光殿、二十一殿、実はシルフの奴も同行したいと・・・」

 ガンジーがおずおずと言った。

「とぉーーぜんでしょ! 戦う力があるのに、二十一君だけに危険な事をまかせておいて、自分だけはのぉーのぉーと平和に暮らすなんてできないわ!」

「えっ! この子も来るの」

「むっ! なに、その言い方! どーいう意味っ!!」

 二十一の正直な感想に対し、少女がかみついた。

「いや、・・・でもあぶないよ」

 少女に気圧され、二十一は力なく答える。

「・・・馬鹿にしてるの? こー見えても魔法に関してはパパもママも、それにおじいちゃんだって、私にはかなわないんだから・・・」

 シルフが胸をそらしてそう言った。

「・・・確かに、この子の魔法の才能はすさまじいの一言につきる。ゼス王国王立図書館に眠っていた幾つもの遺失魔法を復活させたほどだ」

「ほぉーー」

 さすがに二十一も感心の声をあげる。

「くすっ、とゆーわけでこれからよろしくね、日光さんに二十一君」

 そう言うと、少女はウインクをした。

「フフフ・・・、でも確かに魔法の力は必要でしょう。そしてそのレベルが高ければ高いほど、我々の使命は達成されやすくなりますからね」

 日光が了承の意を言葉にした。

「よーし、それじゃあ魔王退治にしゅっぱぁーーつ!!」

「えーい、おまえがしきるなー!」

 勢いよく右手を振り上げたシルフに、二十一が突っ込みをいれた。

 

「・・・千年前のエターナルヒーローに、新しい時代の勇者達。千年に一人の逸材が二人も同時に現れるとは・・・。

 時代が勇者を求めている。そうとしか考えられませんね。

 ・・・そうは思いませんか? 五十六殿」

 ガンジーが背後に立つ五十六に言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・時代はいつも、・・・残酷です」

 五十六はただつらそうにそうつぶやいた。

 

 

 シルフィナの魔法で大陸に渡ると、ヘルマンを通って魔王城への最短のルートをたどる二十一達。すでに日光は刀の形態を取り、二十一の腰に差されていた。

「・・・話には聞いていたけど、・・・酷い状況だな」

「・・・そうよ、JAPANの山奥で仙人みたいな生活をしていた二十一は知らないでしょうけど・・・。

 連中にとって人間なんて家畜同然、もう好き放題、悲惨なもんよ。こうして町に来るたび、何度魔法で吹っ飛ばしてやろうかと思ったか」

 旅のさなか、シルフの二十一への呼び方が君づけから呼び捨てに変わっていた。

「ふっ、過激だなあ、シィルは」

 二十一の方も、シルフィナの呼び方がシルフになり、シィルとなっていた。

 どーいうわけかその愛称は二十一にしっくりきていて、シルフィナの方もまんざらでもなさそうだった。

「・・・でも、本当に悲惨なのは、人々がもはやその状況にさえ慣れてしまっていることかもしれない。・・・ある意味では幸せな事かもしれないけれど・・・」

 シルフがさびしそうにつぶやいた。

[・・・十年、というのは短いようで長い月日ですから]

 日光が誰にともなくそう言った。

「・・・ええ、そうですね。・・・早くなんとかしなければ」

「とりあえず先を急ぎましょう、・・・まだ魔物達に見つかるわけにはいかないのですから」

 カフェが先をうながした。

「そうですね、魔王を倒さないと彼らを救うことはできないのだから・・・」

 二十一がそう答えた瞬間・・・。

 

 ・・・ガチャーン、・・・キャー・・・。

 

 少し離れた所から何かの割れる音と、女性のものらしき悲鳴が聞こえた。

「・・・今、のは・・・」

「どーする、二十一?」

 シルフが二十一に聞いた。どこか楽しげな様子である。

「・・・もちろん行く。目の前に困っている人がいるのなら、当然助けなきゃ」

 二十一は真剣な表情で答えた。

「そーこなくっちゃ!」

 シルフが嬉しそうにそう言うと、二十一の背中をたたいた。

 

「お許し下さい! お許し下さい!」

 一人の少女が土下座をしてあやまっている。地面には壷らしきものの、割れた破片が散乱していた。

「ばっ! ・・・馬鹿野郎! その壷はケイブリス様がカミーラ様にと求められたものなんだぞ!」

 そう言って鞭をふるう魔物、とりあえず魔物Aとする。

「お許し下さいお許し下さいお許し下さい!」

 鞭に打たれながらも、少女にはただ謝ることしかできなかった。

「この壷はお前ら百人分の命より価値があるんだぞ! それを、それを・・・」

「お許し下さいお許し下さい!」

 不意に魔物Aはなにかを思い付いたらしく、一転して楽しげな表情をうかべる。

「・・・・・・しかたないな、この町の人間百人ばかり殺してその首をもって許してもらうしかないな・・・」

 そう言うと、残虐な笑みを浮かべる。

「・・・ひっ、ひいいい・・・」

 その目に射すくめられ、少女は凍り付いたように固まると、小さく悲鳴をあげた。

「・・・まずはお前からだ・・・」

「待てっ!」

 野次馬にまぎれて様子をうかがっていた二十一であったが、さすがにこの状況になって止めに入った。

「なんだ、てめえは? ・・・見ねえ顔だな」

 いきなりの乱入者に驚きつつも、魔物Aは二十一を上から下まで値踏みするようにながめる。

「たかが壷一個が人の命よりも価値があるわけが無い」

「・・・小僧、お前から死にたいようだな」

 魔物Aが目を細める。同時に何体もの魔物が二十一を取り囲む。

「殺せっ! その小僧をなぶり殺せ!」

 魔物達がいっせいに二十一に襲いかかる。・・・しかしすでにそこに二十一の姿はもうない。

「なっ! ・・・どこに行った?」

「・・・ここだよ」

 魔物Aの背後に立つ二十一。

「・・・・・・い、いつのまに・・・。

 ・・・へっ、ちょろちょろと・・・、いつまで逃げ切れるかな」

「・・・逃げる? ・・・なにから?」

 二十一は表情一つかえずに、逆に聞き返した。

「えっ・・・」

 言われてはじめて魔物Aは、自分以外がすべて死んでいることに気付く。剣閃はおろか、動きそのものがまるで見えなかった。

「・・・うっ、ううううう・・・・・・。

 

 ・・・ふっ、ふふ、ふふふふ、ふはははははは!」

 

 弱気になりかけた魔物Aだが、二十一の背後に見えた援軍にとたんに強気になる。

「ちったあ腕に覚えがあるようだが、その自信が災いしたようだな。・・・後ろを見てみやがれ!」

百近い魔物が近づいて来ているのが見えた。

「はっはっはっは! 貴様の負けだ小ぞ・・・」

 

「・・・業火炎波!」

 

 頭上より降り注ぐ火炎に、すべての魔物が焼き尽くされる。

「は、・・・・・・はああああああああーーー!!!」

 魔物Aの背後に立つ二人の女性。

「くすくす・・・、まぁた一人っきりだね」

 小悪魔的な笑顔を浮かべて、シルフが言った。

 こうなると、雑魚の末路なんて決まっている。

 

「・・・ひっ、ひいいいいいいいい・・・」

 悲鳴を上げて逃げ出す魔物A。

「いけない! あいつを逃がしたらすぐに私達のことが知らされます」

 カフェが警告の声をあげる。

「おっけー、ファイヤーレーザー!」

 シルフの魔法で一瞬のうちに消し炭と化す魔物A、あわれな末路である。

「・・・・・・ふう、・・・さてと、これからどうするの二十一」

 かいてもいないのに、汗をぬぐうような仕草をしてシルフが聞く。

「急ぎましょう、こうなっては遅かれ早かれ私達のことが知らされるでしょうから」

 カフェがそれに答える。

「ええ、そうですね」

 二十一がそう答えて、二人の所へ歩みだそうとする。そこへ・・・。

 

「あ、・・・あの・・・」

 ためらいがちに二十一に声をかけたのは、例の少女であった。

「・・・あっ、ありがとうございました!」

 少女はそう言って頭を下げると足早に去っていった。

「まあとりあえず、一件落着だね」

 二十一に笑顔をむけてシルフが言う。

 二十一はしっかりとうなずいた後、はっきりと言い切った。

 

「ああ、次は魔王だ」

 

 RC16年11月、小さな町に希望の火が灯された。

 

 

 


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